53話
「おかけになった電話をお呼び・・・」
「やっぱエリは出ないか。リビにかけて・・・どうにかなるもんかな・・・。・・・・・・!!!!!!」
何かに呼ばれた気がした舜は意気揚々と目を瞑る。
そしてぐにゃりと世界が回った。
「会いたかったよ、復讐鬼。」
舜は顔の見えない相手に笑いかける。
「・・・構えろ。」
足場のない場所をコツコツと復讐鬼は歩き、何かを被る。
白いお面。髪は真っ白で身体はスラリと長く、170あるだろうか。
男か女かは分からない。
「構えろって・・・何で?」
キョトンとする舜に見せ付けるように刀を出し、鞘を捨てる。
それでもなお、舜の頭には敵対するという文字が出てこないかのように武器を出さない。
「神と戦うのだろう。僕はかつて神と争った者。」
「ああ、稽古づけてくれるって事ね!」
ここでようやく舜は剣を出す。
「そして・・・1つの身体に2つの魂は要らない。」
斬りつけた刀と受けた剣が鋭い音を立てる。
「勝者がこの身体を頂く。覚悟はいいか。いざ!」
足場の無い世界で2人は打ち合う。
「どうした!お前の力はそんなもんか!舜!」
復讐鬼の攻撃をただただ舜は受け、受け、受ける。
「ここで死ぬのか!」
「いや、死なないよ?」
次の復讐鬼の一撃に舜はアクションを起こさなかった。
復讐鬼の刀が止まる。
「何故・・・!」
「何故って・・・さっきからそっちの攻撃に殺意がないし。感じるのは・・・贖罪?」
復讐鬼は1度距離を取る。
「・・・2つの魂があればいずれ拒絶しあう。しからばどちらかが死なねばならぬ道理。元々身体の持ち主はお前だ。僕を殺せ。」
「断る!」
「ならばせめて、この身体僕が貰い受けよう・・・!」
復讐鬼は刀を強く握り締め、舜に飛びかかる。
「・・・安心しろ、復讐鬼。」
舜は腕を広げ、その刃を受け入れる。
「俺はお前を拒絶しない。だから、安心しろ。」
何かの砕ける音。白い破片が舜の視界に入る。
「僕は・・・。」
そして、復讐鬼は舜の中に溶けるよう消えた。
これは僕の記憶。
「・・・終わったか?」
10人いた仲間の6人が神に殺された。
最後の決戦は4人で死力を尽くし、そして。
「おい!起きろよ!なんで・・・なんで・・・!」
2人の命と引き換えに僕達は勝利した。
「これからどうするんだ?」
「僕は・・・この力を誰かのために使いたい。」
そう思った。思っていたのに。
痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
拷問のような日々で、いつしか髪は白くなっていた。
君の記憶が無い理由の1つは僕だ。
初めて君と出会った時。君は既に記憶が無かった。
君に僕の魔力が与えられた時、何かしらで僕の魂が君の元へ行った。
行ってしまった。最期に僕が受けた痛みと、強く遺した感情と共に。
憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
それは空っぽだった君をねじ曲げるには―十分だった。
僕は君からその記憶を奪ったが・・・君は僕に手を差し伸べてしまった。
君はその記憶を忘れまいと毎夜のように夢に見た。
痛みと憎しみをその一身に何度も何度も受け続けながら。
そして君は、誰かを傷付けるものに対して異常な程の復讐心を手にした。
僕のせいで君は人を何人も殺すことになった。
僕が最期に復讐鬼へとなってしまったせいで。
「違うよ復讐鬼。殺してきたのは俺なんだから。ああ、でもそっか。」
イパノヴァとオーフェの3人で外に出た時。家の中にあったあのローグの死体。
クーガが既に敵に操られてた時に戦ったのも。
「君が、俺の肩代わりになろうとしてたんだね。」
殺した時の記憶が流れ込んでくる。
「復讐をするべきは君じゃなく僕なんだ。僕の、感情だったのだから。」
「・・・なら、これからは2人でやればいい。2人で罪を重ねていけばいい。」
「・・・舜、僕は―」
「・・・にい!舜兄!!」
「・・・・・・愛花?」
「大丈夫そうですね。びっくりしましたよ、倒れるよう寝てるんですから・・・。」
身体を起こすと愛花と漣が縛り上げられた子供と共にいた。
「捕獲成功したんだ。」
「ええ、もう。2人でとりゃっ!とせいっ!でした。」
ジェスチャー付きで解説をしてくれる。恐らく後ろから殴って気絶でもさせたのだろうか。
「それじゃあ・・・と。全てを壊せ。」
祈りのように。そうつぶやき。
「全てを壊すもの。」
クトゥルフの支配をぶっ壊した。
「・・・ん。・・・うん?」
「あ、起きた。」
赤紫だった目の色は茶色になっている。
「ひっ!」
そしてその目で見たものに少女は怯えた。
「舜兄は下がって休んでてください!血吐いたんですから!!」
「舜さん!こちらへ!何でもしますよ!」
雪乃がかもんかもんと膝を叩きながら声をかける。
ラグナロクでクトゥルフの支配を壊した時、恐ろしい程の魔力が消費された。
その反動で血を吐いたのだが。
「身体は元気!」
「女の子が怖がってるから下がってください。あと念の為休んで。」
あー・・・っと舜は2人に任せて雪乃達の方へ混ざる。
「大丈夫だよー。怖かったねー。私、漣って言うの。ちょっと話聞かせてね?」
「私はセンって言うの。それで・・・えっと・・・。」
「必要なのは11人・・・かな。」
ロルバは手を合わせている。
その手の中には青色の光が放っていた。
「そうだね・・・供物になるのは・・・」
1人ずつ選んで行く。
「最後の1人は・・・センが良さげかな。」
モニターはまだ色んな所を移していたが、ロルバはそれを一瞥もする余裕なく青色の光に話しかけていた。
今回で舜くんの過去についてちょっと明かされました。
元々もっと後でやる予定だったんですけど、脳内の復讐鬼に聞いたら早く舜に伝えて・・・と言われたのでそうだね!!!しました。




