51話
朝。
(復讐鬼さーん!おーい!!話しましょーよー!!!)
舜はもう一度復讐鬼に出会えないか試行錯誤する。
出会える為なら色んな行動をしてやると言わんばかりに。
(待ってろ精神世界ぃぃぁぁぁぁぁ!!俺は~やるぜぇ~絶対話してみせるぜぇ~再会してやるほぁぁぁぁぁあああ!!)
「・・・何やってるんです、舜兄?」
「・・・・・・おはよう、早いね愛花!」
「いや、え、ええ・・・?変な踊りの後に普通に接してくる・・・?圧倒的問題力・・・。」
その後もなんやかんや付き合わされた愛花とヨガをやってみたりなんちゃって催眠術挑戦など、みんなが起きてくるまで本当に色んなことをやっていた。
「よし、じゃあちょっと怜奈と辺りの様子を見てくる。留守をよろしくね。」
「あ、あの!舜さん昨日倒れたのですし見回りなら僭越ながら私が・・・!」
雪乃が心配そうに寄ってくる。
「大丈夫だよ、秘策があってね。」
ふっと舜は笑う。
「そうなったらおぶって怜奈!」
「・・・了解。」
そして颯爽と出ていく。
「舜さん・・・。」
しょぼくれる雪乃を見て愛花がフォローしようとする。
「ほ、ほら!今のはかっこついてないけどあの人決める時決めるし!心配を無碍にした訳じゃないというか・・・!」
「私ダッテおぶれルンダ!!!」
「そっち?そっちかぁ・・・。」
人々が足早と歩いていく比較的大きな通り。
「・・・意外とバレないもんだな。それとも襲ってくるつもりもない、か。」
狭い道の影から2人で立ち話してるように舜たちはいた。
「・・・警戒はしてた方がいい。」
歩き去る人たちは普通の日常を行っていた。
買い物袋を腕に歩く主婦、3人組で道の端で話してる若者、商品の宣伝をしてる売り子など。
その全ての者の目が赤紫色である。
「・・・ん?」
しかしその声に耳を傾けると何かがおかしい。
「安いよ安いよー! 安いよ安いよー! 安いよ安いよー! 安いよ安いよー!」
「・・・なんだ?この店機械かなんかで同じ音声流してるのか・・・?」
しかし、発言してるのは売り子である。
同じ間隔で、同じ言葉だけを吐いている。
「・・・怜奈。知っている・・・ううん、話せる事があったら教えて。敵について・・・。」
「敵?やだこわーい!」
「「!!」」
背後からの女の子の声。
(しまった・・・!後ろを取られた・・・!?)
警戒は最大限していたはずである。それなのに、気が付けなかった。
あらゆる状況を想定しながら振り返ると、13~14位の赤い目の少女と、黄色の目の男がいた。
「でも安心してお兄さん達。ここはクトゥルフ様の御加護のおかげで安心安全の、敵なんか居ない場所だからさ!」
「・・・クトゥルフ様?」
舜は怜奈をチラリと見る。その険しい表情を見て、向き直す。
「悪いね、つい母国の癖で敵がどこかにいるもんだと。ここはそのクトゥルフ様って・・・えっと者?なのかな?・・・安全なのかい?」
「おや!君たちも旅人かい!」
黄色の目の男が話に食いつく。
「僕はアラタ!魔力に目覚めて正義のヒーローになるべく旅を続けてるものだ!ここにいる期間は短いだろうけどよろしく!」
手を差し伸べハツラツと語るその姿はまさに好男子と言わんばかりだった。
「・・・あんた、能力者か。」
「おっと、すまない。先にお互いの事が分かってないと不安だったね。だけど安心してくれ。必ず君らが不安に思わなくていいような世界を、僕はヒーローとして作ってみせる。」
差し伸べられた手に警戒するような挙動を取っている舜は、誰もが無能力者が能力者に怯えてるように見えただろう。
彼にとって演技とは意外と身近なものだった。
演技によって油断を見せる相手がいる。演技によって身を竦める相手がいる。
ローグを素早く殺し、より多くの相手を効率よく殺せるように―そういう生活を送ってきた舜にとって演技というのは殺すために使える物であった。
現にアラタはすっかり騙されてしまっていた。
しかし―
「お兄さんも能力者でしょ?」
少女はさらりと言い当てた。
彼女が疑って鎌をかけてる訳でもなく、ただただ騙されてないと舜は確信する。
「なりたてでね・・・それも才能が無いのか弱いんだ。」
アラタに不審がられないよう、上手いこと演技のシナリオを作り直す。
「じゃあ―試しちゃおっか!」
少女はニコッと笑い、青い石のついたアクセサリーをじゃらりと鳴らしながら腕を前に出した。
「・・・隊長!」
「・・・なっ!?」
見えない何かの力で、舜は通りへ吹き飛ばされる。
そして―通りにあった沢山の赤紫の目が、ギョロりと舜に全て向いた。