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愛の歌  作者: Dust
2章
47/230

45話

「・・・っ!なんで・・・!」

飛び交う魔力を受けながらも怯むことなくオーティエは走る。

その身体に力が入っているようには見えない。ただなにかに引っ張られて無理やり動かされているような―

「この・・・!」

無理やりな体勢から殴りかかってくるオーティエ相手に魔力を放ちながら、その勢いを利用しつつ背中の羽で飛び距離を取る。


(全く効いてない・・・!?)

愛花は息を飲む。冷静に、と思うものの思考はめちゃくちゃに掻き乱されている。

オーティエがこの状態になってから、愛花の攻撃は肩や足へ集中していた。


(いける・・・。攻撃そのものは向こうの方が苛烈でも、さっきと違って殺意が無くなった。身体を斬り落とそうなんて思考すらない。この子は、理の外からなら殺れる・・・!)

少しずつオーティエの動きは洗練されていく。

そして舞のように、愛花の押し飛ばそうする魔力を無視しながら―

愛花の鳩尾へ後ろ蹴りをぶち当てた。


「・・・っ!・・・ごほっ。」

壁に叩き付けられた愛花は口から出てきた赤い液体に手を濡らす。

痛い。怖い。視界が定まらない。

(舜兄はいつもこんな気持ちで戦ってたのかな・・・。)

ふと頭に過ぎったのは自身の命を救ったヒーロー。

憧れの存在で、そして一緒に苦難を乗り越えた仲間。

(ああ、私も舜兄に稽古づけて貰うべきだったかな。)

そして考える。彼ならどう戦うか。どう乗り越えるか。

ビジョンが浮かぶ。相手の攻撃を捌きながら、殺意以外の一切の感情を持たず―攻撃に怯まないなら斬り離してしまえばいいと言わんばかりに両腕を削ぎ落とす姿が。

(私が・・・やらなきゃ・・・。・・・・・・やらなきゃ。)


「・・・え?」

覚悟を決めようとしていた愛花の目の前に飛び込んできた光景。

そして―

「お前が・・・お前が!!お前がぁぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫。

オーティエの身体は槍で貫かれていた。

そして、怒り狂う炎に燃やされていく。

「漣ちゃん・・・?」

桃色の髪が炎に照らされる。目は真っ赤に充血していたが涙はもう枯れ果てたのか。

灰になっていくオーティエを見て、怒りでもなく、達成感もなく、ただ悲しそうに―俯いた。





「なんだ・・・!?あ、おい舜!」

オーティエの完全な消滅と共に、その魔力から解放されたものが死へ向かっていく。

恐怖と憎悪が悲鳴へと変わり、辺りを包んで行く。

声を頼りに探し、人を見つけそこへ駆け出し。

「ラグナロク!」

壊す対象にまず洗脳を選んだ。

そして、舜は無いものを怖そうとした反動で血を吐く。

「助けてくれ!嫌だ!死にたくない!!」

その必死な叫びに舜は手を伸ばす。

「・・・ラグナロク!!」

無理やり操られていたのでは、という予想も虚しく外れ膝を付く。


(考えろ考えろ考えろ考えろ!なんだ何をされたどうすればいい!?)

それでも救うために自らの身体を顧みず、触ろうとする。

そしてハッとする。既に魔力から解放されているのであれば壊すべきはそもそもオーティエの魔力では無い。

そして―

「死にたくない・・・なら・・・。」


次の瞬間、何者かに抱き止められた。

「駄目!」

まだ息も整えてないまま、いつもと違い言葉を溜めることもなく、怜奈が舜を抑える。

「離せ!離してくれ!助けなきゃいけないんだよ!俺が助けなきゃ・・・・・・・・・。」

藻掻くのをやめ、ただ怜奈の腕の中で力なく沈黙した。

悲鳴が、消えた。消えてしまった。もう何処からも聞こえることも無く。


『私や"これから死んでいってしまうリライエンスの全ての人達''の無念を』

「・・・何も、出来なかった。」

『・・・後を・・・頼む・・・この・・・国の・・・事・・・。』

「誰も・・・・・・救えなかった。」

『助けてくれ!嫌だ!死にたくない!!』

「俺は・・・何も・・・・・・。」

死んで行った人たちの言葉がグルグルと回る。

自分の無力さに打ちのめされた。

泣いちゃ行けないと思った。だから必死に歯を食いしばった。

(・・・俺に力が無かったから。)

だから"死なせてしまった"。

泣きたいのも、怨みたいのも自分じゃないんだと。


何かに手が触れる。ルースから預かった銃だった。

とても重く感じた。でも立ち上がらないといけない。

そして舜は、沢山の人たちを死なせた罪を、背負うと決意した。

2章(リライエンス編)は次回でラスト予定です。


今回の章について軽く解説を。


ルースは最初から国民全員が死ぬ事が分かってました。でもオーティエの魔力に耐えようとした結果、それをちゃんと伝える術を持ちませんでした。


ルースの発言した全ての人は文字通り"リライエンスの全ての人"、しかし聞き手の舜が受け取った全ての人は"これから死ぬ全ての人''だったのです。つまり犠牲者が出て、それは背負っていく覚悟自体はあの時出来ていたのですが、その犠牲者が全ての国民だとは思ってないのです。


そして物語内で触れましたがグランの最期の遺言、本人はもう救えないのが分かっていたのですがそれを伝えきれず、結果として例え少しでも救うと決意させてします。


そして勘違いを正せる人が居なくなってしまったため、そのまま舜は行動していき、そのまま全ての人の死を目の当たりにするだけになりました。

舜は頼まれたのに死なせてしまった、生きたかっただろうに何も出来なかったという罪を背負う事になります。

自罰的な性格と勘違いが重なった結果、自分が泣く事すら許さず、彼は重い枷と共に生きていく事になります。


最後に救おうとして2度失敗した件についてですが、普段の舜ならもっと早く能力から解き放たれてることに気が付けました。しかし気持ちが逸ったのかそれとも何か別のものがあったのか「幸いにも」救い方に気が付いた時には怜奈に止められました。


因みに最後に彼がやろうとしてたことは「今から死んでいくという事を破壊する」でした。


以上、あとがきでした。

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