43話
(防ぎきった―!)
シャオパオはパッと上を見る。
月はもう無い。
目を開けると同時に現れた矢が刺さったリオンの遺体を捨て、怜奈を真っ直ぐ見る。
(多少ダメージは貰ったが、向こうの方が反動が大きいはず―)
小さな''盾"では防ぎきれなかった矢で両手両足の各所から血が出ていた。
「・・・・・・新月。」
静寂を打ち破ったのは怜奈だった。
(まだ何かあるのか―)
身構えようとしたその瞬間だった。
「なっ!?」
シャオパオは慌てて傷口を塞ごうとする。
血は、一切止まる気配なく変わらず流れ続けた。
「なんだ!?」
体が凍えるような感覚。
「・・・・・・月呪殺。」
月の光がない夜に、永遠がもたらされる。
恐怖で歪んだ顔のまま、シャオパオの心臓は止まった。
(・・・調べようとしてたのはきっと―)
「・・・!・・・この魔力は―」
怜奈は少し間を置いて、魔力を感じた場所目指して駆け出した。
剣を振り降ろそうとした舜の動きが止まる。
「何・・・!?」
慌ててグランから距離を取りつつ、感じた何かの方を振り向く。
(何か来る・・・!優先順位はこっちが先!)
視界に知ってる顔が見えた。
「咲希!」
「・・・!舜!くっ・・・!」
咲希は何かから逃げるように舜の元へ転がり込んだ。
息が相当上がっている。
「おや、1人ずつと思っていたのですが。」
恐ろしいほどの威圧感を纏ったシーヨウがやってくる。
(なんだこいつ・・・!クロムと同じかそれ以上・・・!?)
舜はそこで一旦その思考を打ち消した。
目の前にいるのは「敵」。どう殺すか、それだけを考える為に。
敵は隙だらけだ。それだけの自信か、罠か。
罠ならもっと魔力を隠すべきで―いやそう思わせるまでが策か。
様々な思考が巡るこの場面で、舜自身が思考して選んだのかすら分からないほどの一瞬で選んだ答えは。
(やるなら・・・今!)
隙だらけなら一撃与えにいくであった。
当然殺せるとは思ってない。少しでも傷を与えられたら上々。
罠でも後から対応が出来るかもしれない。
いや、そもそもこれだけの魔力で罠まで仕掛けてくる相手なら罠だった時点で仕掛けようが仕掛けまいが一旦逃げの選択しか取れない。つまり罠だったら死ななければとりあえずセーフだ。
と、後から理論づけて説明するのならこういう思考だったのだろう。
刹那の中、ここまで思考は回せない。ただ本人も意識しないうちに経験に基づいて行われていただけの判断だったのだが―。
「・・・え?」
舜はキョトンと声を出した。
どさりと喉から血を吹き出しながらシーヨウが倒れる。
「・・・なっ!あれを一撃!?」
「い、いや違うんだよ。殺そうとしたら殺せただけで・・・!」
驚愕する咲希に混乱した舜が返す。
「・・・何言ってんだ舜。」
「いやだから―」
ハッとする。
何故、救おうでもなく殺そうとしてたのか。
何故深く胴を斬りながらもその首までしっかり落とし切ろうとしていたのか。
そこまでせざるを得なかった相手がまだそこに―
「ひゃあ!?」
ガタガタと地面が揺れだしたのに咲希が体勢を崩す。
膨大な量の魔力がかき集められていく。
「グラン・・・!」
傷を見て分かる。もう長くない。
意識すらもうないだろう。
だからこそ、驚異であった。もう、操られてることに抵抗が出来ていないのだから―この一撃は本気のものであると。
「咲希!逃げ―!」
しかしこの一撃さえ喰らわなければ力尽きると。
逃げようとした舜は、咲希を見て足を止めた。
「・・・あ・・・あっ・・・。」
腰を抜かして後ずさりしかできてない彼女。
グランは大剣を地面に叩きつけ、その反動で一回転しながら空高く飛ぶ―
「咲希!!」
舜に見捨てるなんてことは出来なかった。
グランは膨大な量の魔力を圧縮させ光り輝く大剣を
「地衝烈穿!!」
振り降ろすと同時に辺り一面が吹き飛んだ。




