3話 隊長として
「・・・とりあえず飯作るから待ってろ。」
舜は台所へ向かう。
「え?自分で?」
愛花がキョトンとしてカウンターから覗く。
「朝だけ爺や・・・世話係に頼んでるけど、後は帰ってもらって1人なんだ。」
冷蔵庫を見る。
3人分作れそうなもの・・・。
・・・・・・・・・舜は冷蔵庫のあるものを見て固まる。
「・・・怜奈さんだっけ?」
「・・・怜奈でいい。」
「爺やに会った?」
「・・・入れてもらった。」
それもそうかと合点し改めて見直す。
「あの人超能力者じゃないだろうな・・・。」
上質な牛肉が「3つ」そこにはあった。
肉を出して塩を振る。
その後、一旦肉を放置してレタスとキュウリを切り更に盛り付けその上にミニトマトを置く。
玉ねぎを切り、バターで炒める。
鍋に水を入れ、コンソメと塩コショウを入れ沸騰させたら先程炒めた玉ねぎを入れひと煮立ちさせる。
そんなこんなで常温とまではいかなくてもある程度それに近づいた肉を弱火でじっくりじっくり焼く。
焼き目がきつね色になった頃、ひっくり返す。
以下省略
「どうぞ、お嬢様。」
まるで執事のように運んできた舜に同じノリでふむんと愛花が頷き、なれない手つきでナイフとフォークを使う。
舜は自分の分を食べる事を忘れただその光景を見守る。
愛花はその肉を口に含む。
「こ・・・これは!一見手抜きのように思える塩のみ、しかし素材の味を活かすためのベストアンサー!これはまさにビックバン!宇宙はここより始まったのですね・・・。」
そんな愛花を眺めながらポツリと怜奈が呟く。
「・・・これってジャンル料理の小説だっけ?」
「バトルの予定だが?」
「恋愛要素もある予定ですが?」
舜は愛花の反応にほっとした後、怜奈をじっと見る。
怜奈はその視線に気が付いて自分も料理を1口口にした。
「・・・美味し・・・い。」
怜奈はポロポロと涙を流した。
「・・・久々に・・・料理を食べた・・・。」
「待って待って、色々整理が追い付かない。えっと・・・?」
泣くほど美味しかったのかという嬉し恥ずかしさと困惑とで舜の頭はグルグルと回っていた。
「あはは・・・ちょっと耳貸してください。・・・えーごにょごにょ・・・私たち料理得意じゃなくて・・・。怜奈ちゃんは基本的に素材そのものをそのまま食べるような生活を・・・私もお相伴に預かってましたので言うのがはばかられるのですが・・・。」
愛花は舜に耳打ちをする。
舜は頷くと慈愛の目で怜奈が食べるのを見ていた。
夕食を終え、3人は身の上話をする。
愛花は両親は既に亡く、実力だけでなんとかアウナリト首都まで来て、訓練生に上り詰め暮らしていたとの事だった。
「という事はお風呂などなどは怜奈の家でやっていたと。」
「ええ、いざとなった時の食事から眠る場所確保、物置まで!ダンボールハウスは実質釣り拠点でした!」
「・・・私が誘った。流石に放置出来ないから。」
舜は2人を改めて見て、仲の良さを確認する。
「・・・分かった、他のところに行かすのは諦めるよ。同じチームの方がいいだろうし、縁が出来ちゃったから。それにご飯も美味しそうに食べてくれるしね。」
「ぃよぉーし!」
愛花が小さくガッツポーズをする。
「・・・他2人はどうする?」
「ん、期限はあと30日ぐらいあるしゆっくり探すかな。明日から訓練所も空くからそこで人が集まるだろうし。」
「舜兄、残り2人は実力で選んであげてくださいね?競争率が高そうなのを避けるため〜とか言って避けちゃうと本来入れそうな人が溢れちゃいますし。」
舜は頷く。
「ちゃんとそこは作戦がある。」
「・・・作戦?」
「ギリギリの日程で残ってる人の中から実力ある人選べば競争にならないはず!」
「・・・ちゃんと選んだ方がいい。それぞれの命がかかるかも。」
怜奈がコーヒーを飲みながら言う。
「・・・そうだね、チャントエラビマス。」
舜は目立ちたくなさと隊長の重さを天秤にし渋々と肯定したのであった。
「そういえば愛花、コーヒー飲まないのか?」
愛花は目の前に置いてあるコーヒーカップに一切手をつけてなかった。
「いや〜、どうしても苦手で・・・。えへへ。」
「先に確認しておくべきだったな。ごめん、別のに変えるよ。何がいい?」
「オレンジジュース!」
そんなこんなで時間は過ぎていった・・・。
次の日、朝。
舜は1日空いてしまったがいつもの日課を行っていた。
トレーニングルーム・・・に勝手にしてしまった部屋。それも1階と2階の壁やいくつもの部屋の壁を破壊して作り上げた大きなルームであった。
剣を生成し素振りを始めてどれだけの時間が過ぎていただろうか。
舜には1つ、コンプレックスがあった。
魔力使いなのに魔力が使えない―
正確にいうと魔力そのものは持ってはいるのだがそれを外に攻撃として扱えないのである。
剣は魔力で作れ、体も魔力で強化されている。
そして何より舜も覚醒をしている。特殊能力は扱える。
それなのに魔力そのものを出せない。簡単に言ってしまえば遠距離攻撃が全くできないのである。
それを補うために努力していた。
魔力そのものを出す練習も毎日していたがこちらは実を結んでいない。
遠距離攻撃が使えない以上、相手の攻撃を身体強化の魔力や武器で防いで近付く。
そのために置いてある道具はどれも下手したら死にそうなものばかりであった。
素振りを終えると舜は1つの機材に登っていく。
かなりの高さから急な斜面を駆け下りていく。
足場は不安定で、その足場の各所にボタンがありそれを踏むと様々な武器が襲いかかってくる仕掛け。
スピード感を保ちながらランダムに来る攻撃を防ぎ、防ぎ、防ぎ―
降り立ったと同時にいつの間にかいた愛花と目が合った。
「・・・危険じゃありません?それ。」
「慣れてるから。それよりどうしたの?」
愛花は長い紙を渡す。
「マキナ君が渡してくれって。」
「ああ、貴族が云々ってやつかな。」
舜はそういえばまとめると言ってた気もするが昨日の今日で早いなと少し驚く。
そんな舜の体を愛花はまじまじと眺めていた。
「あ、ほらこことか結構深く切れてるじゃないですか。他にも切り傷多いですし。ちょっと動かないでくださいね。」
愛花の手がほんのり光る。
「・・・?」
頭が一瞬回らなかったが、ようやく理解をする。
「・・・回復魔法?そんな上等なもの使えるの?」
暖かい光と共に、少しずつ舜の傷が治っていく。
「痛み止めにはなりませんが止血程度なら出来ますよ!」
愛花は終わるとにかっと笑った。
「止血程度って・・・いや、ここまでしっかり治せるのって凄くないか?」
いくら魔力でも出来ることと出来ないことはある。
傷の手当は出来る人が少ない、というより使える人がいると全く聞いた事がない希少能力なのだが。
舜が聞いた・・・いや、知ってる話だと結局は傷を癒すのは時間が全てで、応急処置が素早く適切に行えるという認識だった。
「うん、すごいよ愛花!」
舜は手放しで褒め、愛花が得意気になるだろうとその反応を待った。
「気を付けてくださいね、いつ事故るか分かりませんよそれ。」
しかし、愛花は予想に反して心配そうにしていた。
「ああ、うん、えっと、ありがとね。」
舜の表情は少し冴えていなかった。
今まで1人で動いてきた舜にとって、まだ人の上に立つという自覚が足りていないと、そう思わせる事が増えていたから―
「時間もちょうどいいしちょっと待ってて。シャワー浴びてくる。その後3人で行きたいところがあるんだ。」
「はーい、怜奈ちゃんと待っときますよー!」
訓練所にて、3人は階段を上り高いところから全体を眺める。
従来通りだと学校で知りあってる為わざわざここで実力を見せる必要がなく、希望の人が取れなかったチームが残ってる人を確認しに来るというのが基本であったが、舜という特殊な事情もあり今年は多くの人で溢れかえっていた。
「・・・思ったよりうちの隊でいいって思ってくれている人は多いのかな。」
少しほっとしたような表情で舜もつぶやく。
「むしろ人気あるかもしれませんねこの調子だと。怜奈ちゃんが他の隊に顔出してないことから噂されてますし。」
「・・・少なくとも愛花がいると知られてるのは大きい。」
「なるほど、まあ王族って点を抜いて見てくれればなんでもいいや。」
舜は全体を眺めながらふと目に入った人がいた。
「愛花、あの人誰?」
「んー・・・ああ、ライガ君ですよ。階級は副隊長ですので残念ながらもう枠が埋まってますけどお目が高いですねー。」
舜はその動きをじっと見る。
剣を一心不乱に振っている。
振っているのだが・・・まるでその先に誰かがいるような。
(超えたい人でもいるのかな?)
そんな事を思わせるような動きだった。
「ちなみに・・・ちょっと気を付けてくださいね。あの人、本来なら隊長の枠にいたんですよ。」
「俺の特別扱いで落ちた人・・・。申し訳ないなぁ・・・。」
副隊長から落ちた人物がリーンという人なら、隊長から落ちたのがこのライガかと舜は複雑な表情をした。
「負けず嫌いな人ですからちょっと応えてるかもしれません。少し間を開けてから知り合った方がいいかもです。」
「・・・とはいえ本人も隊長を得たのは実力じゃないと思ってたから、時間経てば大丈夫だと思う。」
舜ははてなと少し考える。
「ほら、実力通りなら怜奈ちゃんが隊長枠なので元々棚ぼたの隊長なんですよ、ライガ君。」
「ああ、なるほど。」
視線を外したところで今度はちょこんと端っこの方に座ってる人を見つける。
健康的に焼けていて、スタイルの良さがここからでも分かる子。
「あの子は?」
「おー・・・ああ、イパノヴァちゃんですか。性格はいい子なのですが・・・まあ色々あって選ばれないだろうと言われちゃってるんですよね。」
「ちょっと行ってくる!」
愛花の返答を聞きながら、こっそり周りの人間を眼鏡の上の裸眼から見た舜は彼女が歪みが少ない事を確認すると飛び降りていた。
着地の瞬間両足に魔力を込め、衝撃を和らげると共に本来なら少しはしそうな音が全くもってしなかった。
目立つことなく降り立った舜はそのままその子へ向かい歩いていく。
「こんにちは!」
明るく笑顔で話しかけた舜に彼女はワタワタと動く。
(こんにちは!)
声はなかった。でも伝わった。
(ごめんなさい、私話せなくって。えっと、聞こえてるかな。)
耳で聞こえてるわけではないものの心に直接聞こえてくるような穏やかな声。
「聞こえてるよ。どうしたの?ここに座り込んで・・・。」
その言葉に驚きながらもすくっと立ち上がり、彼女はまた手を動かす。
(ここだと私の能力が活かせなくて・・・。)
その時、愛花と怜奈が階段を使って降りてきていたのか、ようやく辿り着いた。
「ふぅ、もう無茶するんですから・・・。見てた感じお話は出来るようですね。」
ニコニコとイパノヴァが笑っている。
「彼女の声、特定の人にしか聞こえないんですよ。」
「そうなんだ。じゃ、俺はラッキーだな。」
その声に少しイパノヴァはびっくりし、そして笑う。
(あなたが舜さんですね、お話には聞いています。)
「ん、そだよ。ところで能力が活かせないって言ってたけどどんな能力なの?」
(あ、受けてみますか?)
イパノヴァはにこりと笑う。
「お手柔らかに。」
舜もにこりと笑い返す。
イパノヴァは人差し指をすっと口に当てる。
次の瞬間だった。
(動けない・・・!)
舜の体が硬直する。
首の前を何かが通っていく。
そして体に自由が戻った。
「・・・なるほど。」
イパノヴァはかなり驚いた表情をした。
当てる気がなく、素振りだけとはいえ。
(取られるとは思ってなかった!)
舜が指に絡めた、彼女の武器は糸の先に小さな刃が付いていた。
「当てていい?音が出る動作をさせなくする、でしょ。ほんの少しも許さないとなるとかなり幅が広いけれど。」
イパノヴァは再び目を丸くした。
(凄い凄い!一瞬で見抜かれたの初めて!)
キャッキャと喜んでいる彼女を見て舜も少し得意気になる。
(1人でもこの武器があれば完結しているけれど・・・。連携の事を考えるとかなり役立ちそうな能力だな。これは嬉しい戦力になりそうだし・・・選ばれない、なんて噂があるのなら他が欲しかったなんて事もないだろうし。)
「うん、決めた!うちの隊に来ない?」
彼女の表情が固まる。
(・・・本気で言ってるの?)
「本気だよ。その能力に惚れた!・・・ってうぉわ!」
イパノヴァは喜びを全身で表し、舜に抱きついたのであった。
1ヶ月半ぶりです・・・すみません・・・
忙しくて・・・ゴールデンウィークにまた1話あげれたらいいなと思っています・・・
今はまだ導入部分で説明も多いのですが面白い作品ってそういう部分サクサク見れますよね、憧れます
サクサク・・・は見れないかもですが頑張りますのでよろしくお願いします