36話
剣と剣がぶつかり合い、片方の剣が吹き飛ばされ地面に刺さった。
吹き飛ばした男-舜に向かって背後から2つの剣が襲い掛かる。
が、右足を弧を描くようにうごかし、体勢を変えながら見もせずに剣で弾く。
「気配を消せ!隙を付け!囲んだだけで差が縮まると思うな!」
舜はリライエンス軍の鍛錬を申し出ていた。
能力者5人、うち1人が今日遠征に出た。無能力者は20人。
ローグがあまり大きな集団とならないこと、この国が堅牢な城壁に囲まれてることから少ないながらも攻められる対象にはなりにくかった。
なりにくかったのだが。
時は遡り朝。
「四凶・オーティエが動きを見せていてな。こんな事を頼むのは申し訳ないのだが・・・。」
「四凶・・・。」
思わぬ相手を聞いて舜は考え込む。
(・・・これアレ?クロムは四凶の中でも最弱!ってアレ?)
小声で愛花に確認する。
(いえ、むしろ純粋な戦闘力なら四凶の中でも頭1つどころか身体全部抜けてるレベルでクロムは強かったですよ。)
(いきなり最強とやってて今後盛り上がんの?)
ふむんと舜は考え込む。
(舜兄、それでも四凶とは関わらない方がいいですよ。)
(うん、分かってるよ。)
舜はグランの方に向き直る。
「焼け石に水かもだけど・・・」
そうして、舜は1人残り兵士を鍛えていた。
「その顔はなんだ!その目はなんだ!その涙はなんだ!その涙で敵が倒せるか!?この国が救えるか!?」
相手は四凶、ついつい熱が入る。
戦いにならないようにグラン達は動いている。ピュラの遠征も他国を頼っての事だった。
それでもいざ戦いになったら頼りになるのは彼らである。
能力者と無能力者の差は小さくなく、それも四凶レベルとなれば勝つのは不可能であろう。
だから、彼らに求められてるのは一般的な覚醒してないローグを撃破、または足止めしグラン達の負担を減らすことであろう。
何人もの武器を捌き、吹っ飛ばし、吹っ飛ばされた者は離脱していく。
「・・・・・・今ので最後?」
そう言って舜は剣を降ろし・・・振り返って襲いかかってきた最後の一人の剣を止めた。
一度打ち合ってしまえば後は魔力による身体能力の差がはっきりと現れる。
「ちくしょー!ダメだったー!」
最後の一人だった背の低い兵が悔しそうに言う。
「惜しかったけど・・・特徴的で覚えてたから身構えてた。戦場でもきっと目立つだろうからそこは意識すること。」
「うーん・・・最初から隠れとくか?」
背の低い兵はぶつぶつと考え込む。
実力はまだまだだったが・・・彼らは考えられる。必死に実力差に抗う方法を。この国を守る方法を。
そこに少しは希望があるように感じた。
「ルールは武器を吹き飛ばされるか一撃を入れられたら終わり・・・で良かったですよね?」
そんな彼らを見て思案していた舜にルースが話しかける。
ルースは剣を出してニッコリ笑っていた。
「・・・お手柔らかに。」
「こちらこそ。」
舜は剣を出し―
(後ろ・・・2人!)
「もらっ・・・グゥ!?」
背後から飛び掛ったクーガの攻撃を体勢を低くしながら右足で止め、胴体をそのまま足で持ち上げる。
「ハッ!」
そのままグルンと身体を動かし、反対側のこちらに向かっていたルースの元へ吹き飛ばす。
ルースの動きが鈍くなった所を残ったリオンに1歩で迫る。
リオンは剣を振るうが既に遅く、その腕を掴まれる。
「わわっ!」
そのまま舜はリオンの足を払って転ばさせる。
「さて、1対1・・・と。」
「あらあら、困りました。」
「困ってる?見てるだけで分かるほどルースさん強いのに?」
舜は剣をルースに向け笑う。
「期待には応えなくては・・・ね!」
ルースは弾丸のように突っ込んだ。
「あとどのぐらい続くんだろーね、あれ。」
「姐さんとあれだけ打ち合えるって噂通りすげーんだな。」
10分経っただろうか。
「ふむ。模擬戦か。」
「あ、グラン様。」
脱落したクーガとリオンの元にグランが来ていた。
「・・・随分とルースは軽く振ってるな。」
「最初から長期戦見据えてたんすかね。」
グランは目を細め、お互いの剣筋を見る。
「それもあるだろうが・・・お前ら、よく見てみろ。」
ルースの剣撃に対して、時折舜の剣が遅れて受け止めている。
その為かさっきから舜は攻撃に移れず、防戦一方になっていた。
「・・・なんで遅れてるんだ?」
クーガは首を捻る。
「舜殿は普段、自分が斬られない一撃なら身体で受け止めカウンターをするスタイルだ。戦闘経験が豊富だからこそそのスタイルが体に染み付いている。」
舜の動きを鈍らせる事で舜の反撃を許さず、更にはその癖で隙が出来ればそこを付こうというルース。
一方の舜も崩れる気配はない。しっかりとリカバリーをし、剣で受け止めている。
「ふむ・・・舜殿は何か狙っているな。」
「何かって・・・何?」
「さあな、そこまでは分からん!だが、さっきから剣を消している。」
グランは楽しそうに2人の打ち合いを見る。
「本当だ、わざわざ消しては新しく作ってる。出しっぱなしより魔力消費高くなるのに。」
(あともう少し・・・あともう少し足りない・・・。)
グランの言う通り、舜は反撃の機会を伺っていた。
「ふぅ、さすがですね。これだけやってミスも疲れもしないとは。」
ルースは一旦距離を取り、汗を拭う。
(あともう少し・・・。)
「本気で行かせてもらいます。・・・紫電一閃!」
ピカリと剣が光り、刹那ルースは舜の後ろにいた。
剣が回転しながら落ち、霧散する。
(やっと掴めた・・・けど・・・。)
考え込みながら剣を消した舜に対し、ルースは痺れる右手を胸の前まで降ろし、左手で掴んでいた。
高速で踏み込みながら両腕で剣を振り上げたルースに対し、舜は剣と剣がぶつかりそうなタイミングで剣を消した。
新たな剣はルースの剣が舜の剣があった場所の上に来た時に創り出した。
常に力んでいるより、今まさにぶつかるというタイミングで力を入れた方が反動で押されにくい。
ルースの一撃の力をその理屈で押されず、押し返したのだ。
「お見事・・・あの技を破ったのは2人目です。」
「太刀筋何分も見させてもらったのと、タイミングが分かったからだけどね。」
今の技は余程相手の太刀筋を見た上でなおかつ仕掛けるタイミングが分かりやすくないと通用しない。
(実戦じゃ使い物にならない・・・か。)
「今日はどうも、1人の鍛錬じゃ分からない事も多いから。」
「・・・いつもどのぐらい鍛錬を?」
「え?えーと、平均8時間ぐらい?」
ふむ・・・とルースは頷き、振り向く。
「後で鍛錬方法を聞いて私達も真似しましょう!」
「ヤベェ!姐さんの目がマジの時の目だ!」
「逃げるよクーガ!」
2人はバタバタと走っていったのが丁度12時を回ったぐらいだった。
一方その頃。
「オーティエ様。あのクロム様を倒した連中がリライエンスに居るとの事。」
「知ってるっての。」
真面目そうな男にオーティエと呼ばれた茶髪の女は機嫌悪そうに答えた。
「ん?仕込みはもう終わってるんでしょ?」
細目でダボダボな服を着てる男がヘラヘラしながら聞いた。
「終わってるけどさー。今更何されようがもう手遅れなんだけどさー。問題はその後っていうか。」
「その後と言いますと?」
真面目そうな男が訊ねる。
「誰か1人でも生きて本をゲットしないと。そいつらに私達殺されたらパーなわけ。」
「戦力が欲しいならダリルに協力でも頼むかい?」
「バカお前。あの忠犬ダリルがクロム以外に懐くわけないじゃん。」
オーティエは肘掛に肘をつく。
「はぁ、まあ時間ないしやるしかないか。」
オーティエの目が妖しく光った。
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃です。」
漣「新敵キャラが遂に登場!四凶の一角・オーティエ!」
雪「由来はタオティエ、饕餮の中国語読みから女の子っぽくしようとしたみたい。」
漣「・・・ん?四凶からちゃんと取ってるの?」
雪「お時間ですのでまた次回!」
漣「読んでくれると嬉しいな!」




