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愛の歌  作者: Dust
2章
35/230

33話

(さて・・・)

舜は魔法陣を作り出す。

遠距離攻撃として弓は扱えはするものの、如何せんすぐには撃てず、軌道も読まれやすい。

魔弾を扱えれば、それで解決であるのだが。

(・・・どうしたもんかなぁ。)

魔法陣から魔力が溢れ・・・ほんの少しその魔力が前に出て。

消えた。どんなに鍛錬してもここだけは良くならない。

(・・・なら。)

深呼吸をして手を真っ直ぐ前に伸ばして。

魔法陣をもう一度作り出す。

そして舜は右手に魔力を込める。

足りない魔力を補うために。勢いとこの魔力を用いる。

つまり―魔法陣をその右手でぶん殴った。


「以上が事の顛末でした。」

「なんで魔力が出た時の被害の予測を一切しなかったんですか?」

「いや・・・その・・・すみません・・・。」

舜は正座をして愛花の説教を受けていた。

試みは見事成功した。

・・・そしてその魔力で宿の壁に穴が空いた。

その愛花の後ろには事情を聞いて駆けつけた女性が1人居た。

その女性は壁の破片をひょいひょいと魔力で浮かばせては修復させている。

(・・・人のためになりそうな能力だなぁ。・・・俺の能力も、誰かのためになれるだろうか・・・。)

「舜兄?よそ見してますけど反省してます?」

愛花は真っ黒なオーラを背後に出しながらただ笑みを浮かべる。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」

舜はただ縮こまるだけだった。


「それじゃあ修復完了です!またのご依頼をー!」

「あ、待って待ってエリンちゃん。」

修復が終わり、いつの間にか仲良くなったのか愛花と修復させた女性-エリンがワイワイと話している。

「おい、舜。いるか?・・・・・・何をしてる。」

舜を探していた咲希が呆れ顔で聞いた。

「見ての通りです。」

「おい愛花、この憐れなの借りていっていいか?」

しょうがないなぁと愛花は笑う。

「よし、行くぞ。」

「待って足が痺れうぁぁぁぁ!行くってどこにぐぉぉぉぉぉ!」


「行っちゃいましたね。あれが四凶を倒したお方・・・。」

残されたエリンは何かを考えながらつぶやく。

「あんなでも頼りになる人なんですよ。」

「・・・少しでも休めればいいのですが。」

「?」

愛花は少し首を傾げたものの、気に留めることはなかった。



咲希に引っ張られた舜は広い空き地に連れてこられた。

「・・・お、来ましたねー!」

漣がブンブン手を振り、その傍らには雪乃と怜奈もいる。

「・・・えっと?」

「舜、お前素手での戦闘もやれると聞いた。」

「まあ・・・ある程度は・・・。」

咲希は何かを悩むかのように少し目を瞑り。

そして頭を下げた。

「私に戦い方を教えてくれ。素手でやり合う戦い方で参考になりそうなのがお前しかいないんだ。」

「・・・私も素手いけるのに。」

怜奈が残念そうに呟く。しかし怜奈の戦法はその速さがあってこそであり咲希に適してないのはその通りだろう。、

「それはいいけれど・・・他の人たちは?」

「色んな武器相手に素手で戦うところをみたいって言われてね。私が槍、雪乃が剣、怜奈が短刀。それに魔力の属性もあり!それで舜くんがどうやり合うかって。私たちも稽古になるしwin-win!」

「・・・うぃんうぃん。」

怜奈も頷く。

「いや、怜奈は俺相手じゃ稽古にならないでしょ。というか怜奈には武器ありでも俺は勝てないけれど。」

「・・・私には別の目的もある。・・・から、本気で止めに来てね。」

「・・・なんか不穏なんですけど。」


「それじゃあ先鋒・漣!いっきまーす!」

漣が槍を作りだす。

(・・・参考にしたいならラグナロクは使わない方がいいよな。・・・いざと言う時までは。)

漣が槍を頭上でぐるりと回し、それに呼応するように細い炎が漣の周りをぐるぐると渦巻く。


「ふむん。」

漣はまだ魔力の操作に不慣れである。

だから変に操ろうとして動きが固くなるより、接近がされにくいよう体の周りに纏わせる。

リーチが長い分、いざ接近されると苦しくなる槍との兼ね合いもあるだろう。


しかし舜は気にせず思いっきり地面を踏み込み、漣に接近する。

「・・・!くぉの!」

漣も負けじと後ろに飛びながら槍を構える。

放った槍の一撃は舜の頬をかすった。

ほんの僅かな動きで、かわされた。


(なら・・・!)

漣の周りの炎の勢いが強くなる。

それを見た瞬間舜は、炎を蹴飛ばし、その勢いでくるりと宙返りしてから少し後ろに着地する。

「わわ!」

炎が乱れ、目の前が真っ赤に見えなくなった漣は慌てて炎を消した。


その瞬間だった。

首に腕を当てられ、足を払われ。

これから地面に叩きつけられる衝撃に思わず目をぎゅっと閉じた。

「いっぽーん!かな?」

しかし、叩きつけられることはなく首に当てられた腕は離れ、反対の腕を背中にぐるりと回して支えられていた。

「まいりました・・・。」

漣から離れた舜は頬の血をゴシゴシと拭く。

(前より速くなってた・・・。漣も底がしれねぇな。)


少し息を整え、ふぅっと息を吐く。

「それじゃあ次!」

「は、はい!よろしくお願いします。」

雪乃がおずおずと前に出る。

雪乃は両足を縦に大きく開いた構えをする。

両足だけじゃない。剣を握る両手も大きく離れている。

雪乃が前に出してる右足をトンと踏み込む。

そこから氷が地を這い、凄い勢いで舜の元へ向かう。

雪乃を注視しながら体を横に逸らし、最低限の動きでそれをかわし・・・。

背中に冷たい感触が当たった。

背後から曲線を描き、舜の左右にまで動きを制限する氷の壁が出来上がっている。


退路を遮断した雪乃は自分の背後にも氷の壁を作り、それを後ろ足で蹴飛ばす。

地を這った氷を滑りながら接近し、雪乃は剣を突き出す。

舜は両手に魔力を込め、横の氷を殴り無理やり穴を開ける。そこに手を突っ込み、ぴょんと両足を浮かせ、バネのように縮めた足で背後の氷を蹴飛ばして跳び、空中で雪乃をかわした。


位置が逆転し、追い詰められる形になった雪乃は刃付近で握ってる右手で剣を持ち、左手の手のひらを柄頭に当てる。

詰めようとする舜に左手の手のひらで剣を操り、右手で細かに力を入れ、小さな動きで斬りかかる。

(っつ!近づけねぇ!)

舜は一旦距離をとる。


それを見て雪乃の構えもまた戻った。

雪乃は1歩踏み込むと共に鍔ギリギリで持ってる右手を離し、その右手で柄を下から叩き剣を持ち上げる。

殆ど柄頭を握ってる左手の振りで大きく上から斜めに薙ぎ払った。

それを後ろへ避けられると更に1歩踏み込み、下がった位置にある剣の柄を右手の甲で叩きまた上へ持ち上げ、左から右へ薙ぎ払う。

更に1歩踏み込み、踏み込んだ勢いで右から左へと体重をかけ、横に薙ぎ払う。


(離れると大振りの連撃で前に出させず、何とか近付くと細かな動きで隙がない・・・と。そして・・・。)

雪乃が最初に蹴るために作り出した氷に舜の背が当たった。

(ここまで計算済み・・・)

「っと!」


勢いよく振られていく雪乃の大振り、しかし片手で隙を少なく振りつづけるにはどうしても1度上から振り下ろすと横への薙ぎ払いが多く使われる。

斜め上から斜め下へ、そこから一瞬で持ち上げられるのはせいぜい腕を真っ直ぐ前に伸ばした高さ程度。だから横へ振られる。

そして左手で右へ振ってしまったその体勢からでは踏み込みの力を使って右から左へ振る以外では隙が出来てしまう。だから、また横へ。

ここでようやく右手を使って上まで持ち上げられる。


つまり斜めに振られるのは3回に1回。

舜は避けながらもその歩幅を調整し、ちょうど横に振られるタイミングで氷を背にした。

そして横の振りをしゃがんでかわす。

もう前に踏み込めない状況になった雪乃は剣の持ち替えも間に合わず、舜の拳が顎に当たる前に止まった。

「ま、参りました〜。」

「かなり厄介だったよ、雪乃。」

(そして多分・・・武器無しの俺に合わせて氷をあまり使わないようしてくれてたな。)

もし雪乃が遠慮なく氷も攻撃に使っていれば―

(・・・厳しかっただろうな。まあそれよりも。)

舜は怜奈を見る。

「これからラスボス戦・・・か。」

舜はため息をついた。


「・・・ん。・・・それじゃあ・・・行く。」

「おーし、頑張って粘りまー・・・。」

次の瞬間には怜奈の姿が視界から消える。

(・・・上か!間に合わねぇ!)

短剣を構えながら上から振ってくる怜奈に、舜は地面にたおれこみながらその短剣を魔力の込めた両腕で止めるしかなかった。

「怜奈さん!?死ぬかと思ったんですけど!?」

「・・・咲希、今の見てた?」

呼ばれた咲希は呆然としていた。

「・・・おい、舜。今の、どうやって止めたんだ?」

「へ?魔力を一点に集めて―」

怜奈が舜の上から降りる。

「・・・隊長は特殊。・・・多少は集められても、この一撃を防ぐのはまず無理。」

「そうなの・・・いや、普通は無理な一撃を当たり前のように使わないで?」

「・・・それに隊長は身体能力と判断力で動くタイプだから・・・咲希、経験を積まないとこうはなれないよ。」

咲希はその言葉に渋々と頷く。

「なら舜、次は私とやってくれ。」

「あ、その次は私が舜くんと再戦したい!」

「め、迷惑じゃなければ私も・・・!」

その日、遅くまで特訓は続いた。

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