25話
価値を決めるのは自分自身
だから私に価値はない
だけど誰かに価値を認めてもらえれば
誰かに価値を決めて貰えた自分のことを
自分自身で認められるのかな
漣
冷たい空気の中に日が沈み、更に寒くなった頃。
「ん、ここなら大丈夫かな。」
ようやく泊まれそうな空き家を見つけた。
人が避難してる地域で異臭が無いこと。
風呂と御手洗は水が流れ、綺麗であること。
それらがしっかりしていたためボロい家で冷たい風が吹き抜けていくが十分と判断したのだった。
漣が村から去る前に家から持ってきたものを分けていく。
「・・・あの、舜・・・さん?話があ・・・お話がありまして・・・?」
漣が話しかける。
「話しやすい口調でいいよ。呼び方とかも好きに呼んで。」
「じゃああの舜君。」
「うん、何?」
漣がモジモジとする。
「下着とかもあるから・・・。」
「はいごめんなさい向こう行ってます!」
離れた舜をよそに女子陣は漣の持ってきた服のサイズを見ながらワイワイやっている。
急遽国から出てきたため服とかの補充はありがたい話であった。
とはいえそれは女物の話。
(・・・そこら辺の家から綺麗そうなの見繕って洗って使う・・・か?)
「とか考えてるんじゃない?」
心の声が女の声となって聞こえた舜はその声の方向に振り返る。
「やっほーエリちゃん商売人形態だよ。」
エリが何か大荷物を持ってそこにいた。
「・・・ああ、新しいデバイスお前から貰ったんだったなそういえば。」
つまりエリにはこれからも場所がバレ続けるってことである。
「もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃない?」
「商売人って?」
「ふふーん、欲しいだろうなって物持ってきたよ。」
エリが大荷物を降ろす。
「どうしたんですか?あ、デバイスの人。」
愛花もひょこひょここっちにやってきた。
「そういえば自己紹介まだだっけ愛花ちゃん。私エリ、よろよろー。」
「よろよろー。」
そんな会話をしながらエリが荷物の中をガサガサと探る。
ポロッと何か落ちた。
「・・・!?」
愛花がささっとそれを隠す。
「・・・舜兄、見た?」
「・・・・・・いや、うん。見て・・・ない。」
灰色のスポブラのようなものが見えた気はしてないと舜は自分に言い聞かせる。
「というかエリさん?なんで私のブラを持ってるの?」
エリがごめんごめんと謝りながら別の布を出す。
「忍び込むの得意でさ。これそこの人のパンツ。」
「・・・・・・。」
愛花は無言で目線を逸らす。
「見られて特に何も思わないけどだからと言って見せびらかすのも違うと思うよ、エリ。」
舜はエリからそれを受け取ってとりあえずポケットに突っ込む。
「うんまあでも・・・日常品持ってきてくれたってわけね。」
「ついでに持ち運びしやすいようカバン付き!」
「それで、何を要求してくるの?商売人って言うぐらいだから何かあるんでしょ。」
エリはニッコリ笑って頷き、上目遣いで言った。
「竜の里、行くんでしょ?詳細知りたいなぁ・・・。」
翌日、早朝。
起きた舜は外で剣を振っていた。
それしか出来ることが無いかのように。
「・・・おはよう、舜君。」
「・・・漣?早いね。」
漣は動きやすそうな服を着ていた。
「あの・・・修行付けて欲しいなって。」
「・・・なるほど?うん、お安い御用だよ。」
漣の横に炎が浮き上がる。漣はその中に手を入れる。
周りの炎が消え、漣の手の中にある炎から槍が造られていく。
「ふぅ、出来た。それじゃあ―行きます!」
魔力者に成り立ての漣はまだ魔力の使い方に慣れてはいない。
それ故に武器を出すのは遅かったが―槍の腕前は復讐のために鍛えてきていただけあった。
素早い突きで簡単に近付けない。
「例えばさ!魔力の使い方!なんだけど!」
槍をかわし、流し、受け止めながら舜は話す。
「槍動かしながら!後ろに!さっきの!炎出せたら!面白いんじゃない?」
「OK!やってみる!」
漣の動きが少し鈍くなると同時に舜の背後に炎が巻き起こる。
だが鈍くなったせいで舜はさっと間合いを詰めて槍を振るわせにくくする。
「くっ・・・!」
後ろへ飛び下がりながら槍を振るうが、簡単に槍を捕まれ近付き、剣が漣の顔の横を通り過ぎる。
「・・・参りました!失敗したなぁ。」
「まあ急に出来なくても仕方ないよ。慣れてからが本番本番。・・・あと、槍掴まれたらさっさと消しちゃっていいかも。」
漣はふんすとやる気をだす。
「押忍!それじゃあもっかい!」
「・・・ううん、もっかいは待てない。」
怜奈がどこか上からストンと降りてきて間に入る。
「待てないって?」
「・・・煙。」
怜奈が指差した方向―竜の里のある方向からは煙が昇っていた。
竜の里へ山を走って登って行く。
「結構・・・傾斜・・・キツイですね・・・!」
愛花が途切れ途切れ言う。
(もっと・・・もっと飛ばさなきゃ・・・!)
舜は更に足に力を入れる。
空気は重い。魔力の濃度に息苦しくなる。
「私・・・そろそろ・・・限界かも・・・。」
愛花が続ける。
「1番魔力問題なさそうなのに―キツそうなら降りてて大丈夫だから!」
舜はそう叫びながら、しかし気を遣ってはいられないとペースを緩めない。
「いえ・・・体力的・・・問題です!えっへん!」
「自信満々に言うな・・・うぉわ!?」
舜の体が宙に浮く。
「・・・隊長、ごめん。」
怜奈が舜を肩に担ぐ。
「うぉわぁぁぁぁぁぁぉぁ!?!?!?」
見た事ない世界。景色が飛んでいくかのようなそんな光景。
「うぼぇ!?」
何かが当たり頬が切れる。
「怜奈さん!?枝痛い!これ目に当たったら死ねるやつ!」
「・・・避けてるヒマはないから・・・我慢して。」
ピタリとスピードの世界が止まる。
浮遊感で気持ち悪くなるのを必死に抑えながら降ろされた舜は周りを見る。
「これは・・・。」
凄惨な光景が辺りに広がっていた。
家と呼べる代物は破壊され尽くされ、瓦礫と呼んだ方が相応しい。
どこを向いても必ず1つは見える死体。
生きてる人の気配など無かった。
「・・・生存者を探そう。」
それでも僅かな可能性にかけたかった。希望に縋りたかった。
だから舜は目を背けたくなりながらも―しっかり前を向いて言った。
怜奈はそれに頷き―舜に手を掴まれていた。
「・・・隊長?」
「1人で行かない方がいい。襲った相手がまだいるなら―危険だ。」
「・・・気配はないから・・・大丈夫かと。」
「それでも念の為。」
火の手はまだ上がってる所が多い。
もし瓦礫の下に人がいたとしても―これでは助からないだろう。
それでも諦めずに探し続ける。
辺りを見回し続ける。
息苦しい。
走った後だからただでさえ息が切れているというのに。
魔力の濃度だけじゃなく煙もそれを手伝うように。
「・・・隊長、手。」
「ん・・・ああ、ごめん。」
手を掴んだままずっと握りっぱなしだった怜奈の手を離す。
「・・・繋ぎ続けるのはいいけれど・・・震えてる。・・・息、ちゃんと吸えるところまでいく?・・・それとも脱水で―」
怜奈は舜の動きが止まったことに気が付いて舜の目線の先を見る。
白いものが瓦礫から見えている。
フラフラと走ろうとする舜を支え、怜奈は共にそこへ向かう。
「・・・動いた。・・・動いたよな?」
舜は怜奈に確認する。
「・・・分からない。」
近付いて、その白いのが誰かの髪だと分かる。
誰かがそこにいる。
慎重に、しかし素早く瓦礫を退けていく。
女の子だ。
白い髪の女の子が息も絶え絶えにそこにいる。
「・・・だ・・・れか・・・・・・い・・・る・・・?おね・・・ちゃ・・・?」
少女は気が付きうっすらと目を開ける。
「とりあえず水だよ。ゆっくり、でも沢山飲んでね。」
舜は水を手渡しながら外傷を目で確認する。
「・・・隊長、自分の分は―。」
「俺は、うん、大丈夫だから。」
怜奈に白髪の子に気を遣わせないようにと目配せする。
怜奈は不安そうな顔をしていた。
「・・・隊長、ひとまず下山すべき・・・彼女の無事の為にも。」
怜奈の意見に舜は目を辺りに見遣り、暗い顔をする。
確かにこの生存者は大事にすべきだ。それはその通りなのだが―もし、他に生存者がいれば。そう考えてしまう自分もいた。
二手に分かれるのも今はいい手とは思えない。
「・・・うん、そうだね。降りようか。」
少女はまだ反応が鈍い。歩くのはとても無理だろう。
怜奈はその白い髪の少女を背中から抱え、舜は少女の足を交差さて運んだ。
後ろ向きに歩いていく舜は里を出る前にもう一度里を見た。
地獄のような光景。
誰かまだ助けられたかも―そんな思いに後ろ髪を引かれながら竜の里を後にしたのであった。
漣「漣ちゃんだよ!」
雪「雪乃だよー。」
漣「そういえばこのお話ルート分岐があってBADEND直行のもあるらしいけど。」
雪「元々ゲームシナリオとして妄想してたらしいね。」
漣「既にBADEND行きってあったの?」
雪「19話、一歩目の電話で実はあったみたい。以下がメモ帳に書いてあった事だよ。」
BADへの選択肢 司令を元帥以外が出した事について言ったらいけない気がするが 選択肢→①言わない ②確認したいで②を選択→エリに信頼がある訳でもないけれどそれでも聞こうかという 選択肢→①やめよう、危険だ ②信頼してもいいだろうで②を選択→嫌な予感がする。聞いたらまずいと思う。 選択肢→①やめよう ②信頼できるか分からないから今度機会があったらにしよう ③それでも聞こうで③を選択 →BADEND 敵は少ない方がいい
後日、舜は逮捕された。
理由は国家に反逆者がいると吹聴したからとされた。
その後、不自然な獄死を遂げる事になるが話題になることは無かった。
牢の中に骸骨が転がっている1枚絵
雪「こんな感じらしいよ。」
漣「これからもこんな感じであるのかな?」
雪「この物語分岐によってはいなくてもいい人ってのがいて私たちも平然と殺されるルートあるかも・・・だって。」
漣「それではまた次回!」
雪「読んでくれたら嬉しいな。」