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愛の歌  作者: Dust
1章
25/184

24話 地に落ちた鳥は再び空飛ぶ夢を見る

あなたと出会った時

私の世界は色付き始めた


雪乃

夕暮れ時、竜の里へ向かう途中にある村。

辺りは森林に囲まれている。

魔力者への対策だろうか周りをグルリと柵で囲い、その入り口付近の柵にはこれ見よがしに鋭利な刃が付いていた。


「歓迎されそうにはないね・・・。」

舜達の取れる選択肢は2つある。

1つは敵意の無いことを分かってもらい泊めてもらうこと。

だけどその証明が難しい。

だからもう1つの、もうとりあえずそこら辺で空き家が無いかを探る方面で舜は考えていた。その時だった。

(・・・・・・。)

上からの気配。

風で揺れる木々の音。

舜は動かない。

目を瞑り、ただ音を聞く。

枝の折れた音。


「もらったぁぁぁ!」

その声に目を開け、チラリと声の方を見る。

武器は槍・・・しかも魔力が感じられない。

その判断を一瞬でして、左腕で弾く。

「ぐっ・・・。」

尻もちをついたのは桜色の目をし、同じく桜色の長髪の少女だった。

「怜奈ストップ。」

舜の声に短剣を作り今まさに始末しようとしてた怜奈が止まる。

その少女は見るからに無能力者だった。


(歪みも・・・なかったな。)

先程見上げた際、フレームの外側から見えた彼女にはブレは感じなかった。

「能力者・・・覚悟・・・しろ・・・。」

立ち上がった少女は震えた声でそう言いながら槍を構える。

「それで立ち向かうのは無茶があるよ。・・・他の魔力者にはやめてね?」

その槍の先端は刃物ではなく、鋭利に削られたものであった。

普通の人ならこれでも殺せるだろう。

だが、魔力者はそう簡単には殺せない。

相手次第では防がれてしまうし―そもそも近付けるかすら怪しい。


「うるさい!」

「・・・!」

少女は1歩踏み込み、槍を素早く突く。

思ったより速い突き。恐らく、相当鍛錬したであろう動き。

だがそれも魔力者と魔力者じゃない人の差を埋めるほどにはなれなった。

魔力を込められた腕に阻まれ、斜めに構えられていたこともあり勢いそのままに後方へと流される。

舜はその槍を反対の手で掴み、へし折った。

「なっ・・・!」

へなへなと座り込む少女。

舜もしゃがみ、顔の高さを合わせ声をかける。

「何かあったのかもしれないけれどさ。俺らは別に君に危害を加える気は無いよ。」

「うるさい!その印・・・お前もあいつの仲間なんだろ!」

舜の軍章を見て彼女はそう言う。


「・・・そういえばこれもう要らないのか。」

ついつい習慣で付けてしまっていた軍章。

「お前らが!お前らさえ居なければみんな死なずに―!」

真っ直ぐに向かってくる負の感情。

それに少し舜は目を背ける。

(復讐・・・・・・。)

その気持ちを舜はほんの少しだろうと思いながらも理解は出来た。

自分もあの実験の夢を見る度に吐き気と憎悪に襲われる。

だから今までローグを殺してきた。だからこうしてローグを殺す立場になった。

復讐そのものが間違った感情だとは思えない。

そしてこの子は今"みんな死なずに''と言った。

誰かのための復讐―それが自分の気をすませたいからというのも分かってはいるが―決して悪い子ではない気がした。


「話を聞かせてくれ。この軍章を付けた人に何をされたか・・・。この軍章はアウナリトの軍のものだ。もしそれをつけた人が何かをしたのであれば―」

どうすると言うのだ。最早アウナリトから逃げる立場である自分が知って何が出来ると―舜は言葉を続けられずに止まる。

「・・・・・・。」

少女も黙っている。


沈黙を破ったのは悲鳴だった。

声は村からする。

「愛花!この子を頼む!怜奈は・・・もう向かってるか。」

舜は村へ走り出す。

「・・・え?」

少女はその様子をぽかんと見守る。

「任されました!」

愛花は元気に返事をし、舜が見えなくなるまで見守り―ふと真剣な顔付きになり後ろを見る。


「・・・こっち側からも来ましたか。」

数人のローグがこちらに向かっている。

愛花は片手を横に出し、その手に魔力を集めさせる。

「さて、こっち側のは処理しとき・・・・・・ってちょっと!」

愛花の隙を見て少女は先端の折れた槍を拾い、村の中へ走り出していく。

「わ、私追っとくね!」

雪乃がその後を慌てて追っていく。

だがその雪乃がどのぐらい戦えるのか知らない―任せていいのか愛花には分からない。

「だーもう!さっさとこいつら処理して追いかけますか!」

愛花はその手の魔弾を思いっきりサイドスローでぶん投げた。




(もし、あの人が悪い人じゃなければ―。)

少女は走りながらそんな事を考えていた。

だが脳裏に刻み込まれた記憶が、その憤怒がその考えの邪魔をする。


あの日―あの印を付けた目の細い男が家に押し入った。

ちょうどかくれんぼを妹としていて押し入れの中にいた。

そして惨劇が繰り広げられた。

妹は泣き叫びながら私の名前を呼び、その身体を、その命を軽々しく弄ばれた。

父も母もその前に殺された。

あの印だけは―忘れられない。

あの日から―あの日捨てられなかった命以外の全てを捨てて―未来すら捨てて。復讐を誓った。

何年も何年も槍を突き続け。


(・・・今はこの村の人たちを!)

この村は魔力者への恐怖心を持つものが多かった。

竜の里に近い事もあり、まだ竜の里の魔力濃度が知れ渡ってない頃に竜の里にある秘宝が噂されたり美人揃いと噂されると興味を持った魔力者が通りかかり、この村では他よりも多く被害に遭っていたのだ。

魔力者への憎しみと恐怖で怯えた人々に取って少女の立場は共感され、色々お世話になった。

最早、家族とすら感じていた。

そんな人達に危害が加わろうとしている。

それを黙って見過ごすのはできなかった。

例え自身と相討とうが救いたいと思っていた。

既にその身は―あの日に捨てておくべきだったのだからせめて誰かのために、と。


いくつも煙が上がっている。

視界の端にさっきの男―舜が見えた。

魔力者と交戦している。

(・・・・・・っ!)

もしこの人が悪い人ではなかったら。自分のやった事は・・・と少女はいてもいられなくなる。

そして逃げるように別の煙の上がってる場所へ向かう。


その先には2人の女の魔力者がいた。

少女を見て片方がニヤリと笑い、もう片方に何かを話しかける。

少女は折れた槍を構える。

そして笑った方の女がこちらに向かって来て―

あと数歩のところで足に魔力を込め加速し、反応しきれない少女の鳩尾を思いっきり蹴った。

「あぐっ・・・。」

痛み。息が吸えない。

胃液が逆流するかのような衝動。

「いいね、その顔。絶望に落ちてる顔。綺麗な子のそういうの・・・唆るわぁ。」

嘲るかのように、嬲るかのように近付いてくる。


「ほぅら、よく見せてご覧なさい?」

そして少女の顔を無理やり片手で持ち上げる。

「・・・この!」

油断をしていたのだろう。少女が必死に出した折れた槍で女の片目が突かれる。

「このクソガキャァ!」

激怒した女は少女の片腕を取り力任せに思いっきり地面に叩きつけ、跳ねたその身体を蹴り上げる。

「あーあ、怒らせちゃった。」

もう1人の女がニヤニヤ笑って近づいていく。

「でもだーめ。壊す前に私にも楽しませてよ。」

「いつもあんたの方が壊してるじゃない。あたしの気はまだ済んでないし2人でやるわよ。」


必死に痛む身体を動かし、何とか立ち上がろうとしてる少女に片目を負傷した女がその服を掴み無理やり立たせる。

「いーわぁ、そのまま宙に浮かしといて。」

もう1人の女が少し離れたところから細い刃を作り出す。

「穴だらけにしてあ・げ・る♡死なない程度にねぇ!」

そして少女に向かって駆け出し―少女の身体に血がかかった。

「・・・だぁれ?邪魔しないでぇ?」

「・・・ぁ。」

少女は思わず絶句する。

あの男―舜が少女を庇って刺されていた。

(私のせいで・・・死・・・。)

少女はその光景から目を背けたかった。

しかし目に焼き付いて離れない。


「うわぁぁぁ!!!」

それは絶叫だったのか悲鳴だったのか。

少女の声が響き渡ると共に―辺りが炎に包まれる。

「な―」

そして少女が炎から作り出した槍が片目を負傷した女を突き刺す。

槍が重くなった。

人を殺したという重み。

それが少女に降りかかる。

「何したのあなた―」

「余所見してんじゃねーよ。」

もう1人の女は驚いてる間に舜に首を斬られた。


「・・・・・・生きて・・・る・・・?」

少女は舜が平然と動いてるのにホッとする。

「悪ぃな、遅くなって。雪乃からどっかにいるって聞かされて別々に走り回ったんだけど―。というか!他の魔力者にやっちゃダメって言ったでしょ!」

「痛く・・・ないの?」

元気に説教まで始めた舜に少女は思わず聞いていた。

舜はふっと笑い。

「正直カッコつけて痛くないフリしようとしたけど・・・痛てぇ!」

「ま、まず止血しなきゃ!」

―愛花が合流するまでバタバタと応急処置を2人でやっていた。


「全員無事で何より!」

「いやほんとにそうですよ。焦りましたよもう・・・。どこにいるか分からないから走り回りましたし見つけたら治療してくれって言われるし疲れたー。」

「ごめんなさい!諸々ごめんなさい!」

少女は頭を全員にペコペコ下げるだけだった。

「・・・それで、これからどうするの?」

舜は少女に問う。

「これから?・・・・・・っ。」

少女は周りで隠れながら見てる目に気が付いた。

怖がられている。不気味に思われている。

嫌がられている。負の感情をぶつけられている。

彼女が家族だと思っていたのが一瞬で崩れ去った。

「私・・・私・・・。」

思わず狼狽えペタンと座り込む。


そもそも復讐の相手が分からなくなったのだ。今までは魔力者に―あの印に恨みを持っていた。

この村で同じ魔力者に恨み続けていくものだと思っていた。

それに―復讐相手だと思っていた印を持つ相手に救われた。

未来すら捨てる意思のあった目的が分からなくなってしまった。

何をしていいのか分からない。誰を恨めばいいか分からない。今までのあの行動に何の意味があったのか見いだせない。

何故生きているのかが分からなくなっていた。


「・・・一緒に来る?色々まあ危険な事しようとしてるんだけど。」

そんな彼女を見て思わず舜は助け舟を出していた。

その助け舟が泥舟かもしれないと思いながらも。

「いいの・・・?だって私―。」

「こんな世の中じゃ魔力者を怖がり、憎んで当然だもの。だから君は悪くないし―彼らも悪くないのかもよ。世の中が全て悪い!そういう事で!」

舜は手を差し伸べる。

その手の先に何があるのかは誰にも分からない。

「名前、聞いていい?」

「―漣。」

少女―漣は決心したように。

「よろしく、漣。」

舜の手を取り、漣は立ち上がる。

未来が分からなくても立ち上がったのだ。

再び未来が掴めるその時を、きっと心の底から求めて。


村を後にした5人は夜を越せる場所を探すのであった。

漣「漣だよ!」

雪「雪乃です!」

漣「いやぁ、ようやくこの2人で後書きコーナーやれるねぇ。」

雪「当初では私たちが基本で他の人はたまにゲストだったもんね。」

漣「まあまだ2人共キャラそんなに判明してないんだけどさ。私に関しては今のところ勘違いで主人公一味殺そうとしてた人でしかないし。」

雪「まあそれはこんな世界観であんな過去あればしょうがないし舜さんがあっさり許してるから大丈夫大丈夫!」

漣「それではまた次回!」

雪「読んでくれたら嬉しいな!」

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