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愛の歌  作者: Dust
10章
233/234

229話 心の中に

闘技場、まだ初戦開始まては時間はあるものの、既に3人が集まっている。

最後の1人―咲希が入ってきた。

「ん、咲希。準備おっけー?」

「ああ。少し愛花と話していた。」

「リラックス出来た?」

「まあ・・・やれるだけやってみようとは思った。」

舜は首を傾げた。てっきり、試合前でもいつもと変わらぬ会話をする事で、落ち着いて戦いに臨もうとかそういう話だと思っていたが違いそうだった。


ウンサの声が響く。

「さて皆さん!準備が出来たら教えてください!そこを開始時間とします!」

早めに集まった為、試合も早く始まれる、と言わんばかりだった。

「しかしまあ・・・凄い人の数だな。」

「ね。初戦から前回優勝者が出て、ボルテージも上がってる。・・・ねぇ、咲希。」

「ああ・・・ぶちかますには十分だ!」

2人はニッと笑い、それぞれ構え、試合開始を待つ。

「ネメスはん、ほな言った通り任せたで。」

「はっ・・・初参戦で俺らとは運が悪かったな。まあ怪我はできるだけさせないでやるから、次の戦いで頑張れよ。」

ネメスとオピスも準備を終え、大歓声の中、遂に試合が始まった。


「咲希!」

試合開幕と共に、ネメスが咲希目掛けて走る。

「ええん?ウチから余所見して!」

矛と剣がぶつかり合う。

「そっち任せていい?」

「構わん・・・お前はお前の相手に集中しろ!」

咲希の声を振り返らずに聞き、舜はオピスと視線をぶつける。

「・・・こっちはこっちで時間かかりそうだ。」

「光栄やわ、そう思って貰えるん、わ!」

オピスが矛を振り切り、舜は数歩後ろに下がる。

リーチの差、知識の差。

舜は冷静に見極めようとする。


咲希はネメスに押し込まれるような形で、舜達から離れていた。

「向こうに心配させないがためにアレを言える心意気はよし。だが、どこまで粘れるかな?」

「攻撃・・・あるのみ!」

押し込まれてた咲希の爪による連撃。

ネメスは両手の短刀を匠に操り、それを受け止める。

「弱いな、パワー足りてない。魔力量が低いのか?」

「私は!弱くなんか!ない!!」

ネメスはニヤリと笑う。

(そうだよな、こんな大会に出てくるくらいだ。一丁前に自分は強いなんて思ってなきゃ出てこない・・・ほら、攻撃が雑に・・・。・・・!?)

流したと思った攻撃が、ネメスの腕を少し引っ掻き、血が流れ出る。


ネメスは真剣な表情で咲希の攻撃を見る。

(なるほど・・・思ったより馬鹿じゃない。こいつ・・・本来のリーチがバレないよう爪を短く出して、当たると踏めば元のリーチに戻してやがる。強さを求めるヤツは意外とこんな芸当は出来ねぇ。小手先の技なんて頼るつもりは無いやつのが多いからな。)

理由は簡単。

強さを求めるものは、圧倒的な強さでそのまま敵を押し潰す事ばかり夢を見る。

力だけでなく技術でも。

相手を上回る事だけを考える。

相手に上回られた時の思考回路を事前に持ってる人は、きちんと現実を見れる人だけ。

(だが、憐れなのはパワーが足りてないことだ。いくら小手先の技術で攻撃を当てられても、この程度の傷―。そして、真っ当から受け止めてしまえばリーチを戻しても届くことが無い。適当に流そうとかしなければ、怖いところは無い。)


一方咲希は攻撃をしながら、試合前に愛花と話した事を思い出していた。

『愛花、最近お前は戦い方も上手くなった。舜の影響もあるのだろうが・・・何か教われることは無いか?』

『咲希ちゃんが人を頼って・・・!?』

『今のなし、行ってくる。』

『ごめん待って待って、あのね。私がやってるのは―』

防御の仕方が変わるのを感じる。

真っ直ぐ受け止めて、爪を伸ばされても当たらないよう守る―。

(そろそろ・・・か。)

咲希は1つ、息を長く吐く。


(消費は相手の方が激しい。だが、もう1人居る事を考えると・・・短剣に回す魔力はもうちょっと少なくていい。)

『・・・は?どういうことだ?』

『言葉通りだよ、咲希ちゃん。私はね?』

(・・・今!!)

咲希の爪が、短剣にぶつかる。

「なっ!?」

そして、その短剣は折れ、ガードがなくなる。

『心の中に舜兄を召喚してるの!』

(そう、攻撃を敢えて弱めにして油断したところを―)

「ぶっ叩く!」

咲希の右ストレートが、無防備となったネメスの顔面にクリーンヒットする。


リーチの罠を作り、それを暴かせ視野を狭くさせたところで。

パワーの罠を発動し、隙を作る。

「・・・思った以上に効果出たな・・・心に舜召喚作戦・・・。」

最初から本気でやり合ってたら勝てない相手だっただろう。

咲希は舜とオピスの方を見た。


「うっそ!ネメスはんやられとるやん!?」

「余所見?」

「せなあかんやろ!2対1始まっとるんやから。」

「それもそうか。」

2人は武器を幾度もぶつけ合いながら、お互いの隙を探す。

「リーチで勝ってるんに互角なん、厳しいわ。やっぱあんさん強いなぁ。」

「そりゃどーも。」

「やから、本気出すわ。怪我せんといてな!!」

咲希が近付いて来たのもあり、オピスは離れ、矛を上にぶん投げる。

「なんだ・・・!?」

咲希は驚愕して上を見上げる。

膨大な魔力が、上空に浮かび上がった。

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