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愛の歌  作者: Dust
10章
231/233

227話 事件

ふと気が付くと、過去に耽ける時が増えた。

子供の頃、文武両道と言うに相応しい神童であった。

伸び悩んだ体格も、この才能さえあれば問題ないと思ったが―

伸び続けた頭脳の道へ歩むことを決めた。

より自分に相応しい道へ、当然の選択だった。

「それで良かったの?あんなに頑張ったのに。」

いつも、誰かの声がする。

顔も思い出せない、名前も思い出せない女性の。

思い出そうとする度に、記憶の遠くへ行ってしまいそうで。


魔力者が増え始めた頃、幸運な事に僕も魔力者になれた。

この力は不思議だった。

男女差も、体格差も、何もかもない。

小柄な女の子が、身体能力が上がり、1番力持ちかもしれない。

当然、この頭を使い、魔力者に取っての強さとはを考え始めた。

ある程度の年齢以降はならないこと。

魔力者に目覚める時は必ず魔力がその周りにあったこと。

そこまでは簡単に見つかった。

後は、どういう条件でどんな能力を持つとか、身体能力が上がりやすいのはどういう人かとか、そんなのを調べようとしていた。


さっきの女の子も魔力者だった筈だ。

戦い方で忠告したのに、死んだのを覚えている。

(・・・なんで今更、僕はこんな事を考えている・・・。どちらかと言うと、カオスから聞いた舜の話を元に、備えてた方がいいはずだ。)

リリスにより作られた腕から、リリスのデータベースを出す。

「お呼びでしょうか?」

「カオスとの会話の確認だ。」

「かしこまりました。」

会話のログが、現れる。


「お前に1つ、忠告をしておこうと思ってな。」

「忠告?」

「名前には力がある。」

「・・・何の話だ。」

「この世界のルールだ。そして、ある冠する名・・・いわゆる、2つ名を持つ者がいる。」

「・・・・・・一々反応を待つな、続けろ。」

「奴らには、2つ名がある。真の強さを知りたければ、その2つ名が発揮される所を見れば良い。」

「ほう?」

「特別に教えてやろう。舜の二つ名は―」

手を止め、辺りの喧騒にロジクは腹ただしそうにそちらを見た。

「・・・奴ら、か。本当に使えるかは・・・微妙なとこだな。」

そして溜息をつき、リリスのデータを閉じて、その場を離れた。


「舜兄、どう思います・・・?」

「まだ何とも・・・カオスが確実に石を手に入れるため手を回した・・・?」

舜と愛花はロジクが映ったあと、危険度について話していた。

「あ、あともう一人。オピスさん、舜兄の事言い当ててましたけど、あんなに当てられるもんです?」

「無理だよ、多少傷跡、筋肉の付き方、立ち振る舞いとかで武器とか分かっても、あそこまで正確には無理。」

「じゃあ・・・要注意人物ですね?」

「うん、何らかの息はかかってそうだ。わざわざ挨拶もしに来たしね。」

「・・・ん?」

愛花は付けてたウンサの放送が騒がしくなった事に気が付き、目を向ける。


「・・・!!!!舜兄、今!?」

「・・・死体が、映ったな。」

2人は目を合わせ、頷き走って行く。

喧騒は、すぐに見つかった。

「これは・・・これは!事件です!前代未聞の事件です!!戦闘中の事故死はあったものの、控え室での殺害等・・・!!」

「ふふん!シュラ、強い!これ証拠!強かったやつ、シュラ程じゃないけど!」

「この死体が、選手の誰のものか判明次第、放送を―」

「誰のものでもないな。」

舜は駆け付けてから、死体を軽く見ただけで言った。


「ま、まさか、正体不明の出場者は探偵だったのか?!これは助かりました!しかし、では・・・?」

「いや、違うよ。ただちょっと、沢山人を殺してきたから、死体に詳しいだけ。」

「何も!何も助かってませんでした!!」

ウンサを無視して、舜はその死体を広げて笑みを浮かべてる少女を見る。

白い髪、赤色のインナーカラー。前髪の1部に黒のメッシュが入っている。

表情の作り方は幼いが、少なくとも10代後半ではあるだろう。


「数日前のだな。」

「うん!数日前にいたつよいの!シュラ殺して持ってきた!」

「シュラ・・・そう、君がシュラか。」

ビャクシの言っていた名前だと、警戒度をあげる。

「?シュラのこと知ってるの?」

「まあ・・・君の知り合いの知り合いってとこかな。」

目の前の死体について、なんの罪悪感も湧いてなさそうである。

子供のように目を輝かせはしゃいでいる。


「すまない!こちらの管理不足だ、失礼した!」

1人の女性が走り込んでくる。

茶髪のウェーブがかったショートカットをしている。

「あ、クーユーくん。どうしたの?」

「シュラと一緒に行動できるよう、真希様に頼んだのさ。後で私と共にこの街を回ろう。あそこに買ってきたジュースが置いておるから、飲んでおいで。」

「うん!ありがと!」

シュラがバタバタとそっちへ走って行く。

「・・・済まなかった。完全にこちらのミスだ。すぐ片付ける、彼女に悪気は無いんだ。」

「悪気・・・ねぇ。」


クーユーが舜と目を合わせる。

「・・・君が例の。お初に目にかかる、クーユーと申すものだ。ビャクシと志同じくしてるもの、と言えば伝わるかい?」

「シュラの時点で、まあそのお仲間なのは分かってたよ。・・・で、お前は面倒そうな側?ビャクシ側?」

「ふふ、ビャクシは君から相当信頼されているようだ。彼女の友として、嬉しいよ。その答えとしては、君から見たら、ビャクシ側に近いかもね。」

言葉は柔らかで、敵意がないようには聞こえる。


「で、悪気なくこんな事をするシュラって子を、なんで見てなかったの?」

「私も驚いたよ、まさか真希様が彼女1人に行かせようとしてたなんて。ビャクシが自分が行きたいと言ってたから、彼女に行かせるものだと思っていたが・・・。慌ててこのクーユーが駆け付けた時には・・・。・・・と、言い訳がましく聞こえてしまうな、要はやっぱりこちらの監視不足だ。君にも、大会の運営にも、この大会に参加する人達にもなんとお詫びしていいか。」

「こういう事を日常的にする子なのか?」

「彼女は・・・そうだな・・・・・・。なんて説明すればいいか・・・。」

クーユーは舜の目を真っ直ぐ見て、続けた。

「簡単に言えば、君と同じ立場の子なんだ。」

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