227話 事件
ふと気が付くと、過去に耽ける時が増えた。
子供の頃、文武両道と言うに相応しい神童であった。
伸び悩んだ体格も、この才能さえあれば問題ないと思ったが―
伸び続けた頭脳の道へ歩むことを決めた。
より自分に相応しい道へ、当然の選択だった。
「それで良かったの?あんなに頑張ったのに。」
いつも、誰かの声がする。
顔も思い出せない、名前も思い出せない女性の。
思い出そうとする度に、記憶の遠くへ行ってしまいそうで。
魔力者が増え始めた頃、幸運な事に僕も魔力者になれた。
この力は不思議だった。
男女差も、体格差も、何もかもない。
小柄な女の子が、身体能力が上がり、1番力持ちかもしれない。
当然、この頭を使い、魔力者に取っての強さとはを考え始めた。
ある程度の年齢以降はならないこと。
魔力者に目覚める時は必ず魔力がその周りにあったこと。
そこまでは簡単に見つかった。
後は、どういう条件でどんな能力を持つとか、身体能力が上がりやすいのはどういう人かとか、そんなのを調べようとしていた。
さっきの女の子も魔力者だった筈だ。
戦い方で忠告したのに、死んだのを覚えている。
(・・・なんで今更、僕はこんな事を考えている・・・。どちらかと言うと、カオスから聞いた舜の話を元に、備えてた方がいいはずだ。)
リリスにより作られた腕から、リリスのデータベースを出す。
「お呼びでしょうか?」
「カオスとの会話の確認だ。」
「かしこまりました。」
会話のログが、現れる。
「お前に1つ、忠告をしておこうと思ってな。」
「忠告?」
「名前には力がある。」
「・・・何の話だ。」
「この世界のルールだ。そして、ある冠する名・・・いわゆる、2つ名を持つ者がいる。」
「・・・・・・一々反応を待つな、続けろ。」
「奴らには、2つ名がある。真の強さを知りたければ、その2つ名が発揮される所を見れば良い。」
「ほう?」
「特別に教えてやろう。舜の二つ名は―」
手を止め、辺りの喧騒にロジクは腹ただしそうにそちらを見た。
「・・・奴ら、か。本当に使えるかは・・・微妙なとこだな。」
そして溜息をつき、リリスのデータを閉じて、その場を離れた。
「舜兄、どう思います・・・?」
「まだ何とも・・・カオスが確実に石を手に入れるため手を回した・・・?」
舜と愛花はロジクが映ったあと、危険度について話していた。
「あ、あともう一人。オピスさん、舜兄の事言い当ててましたけど、あんなに当てられるもんです?」
「無理だよ、多少傷跡、筋肉の付き方、立ち振る舞いとかで武器とか分かっても、あそこまで正確には無理。」
「じゃあ・・・要注意人物ですね?」
「うん、何らかの息はかかってそうだ。わざわざ挨拶もしに来たしね。」
「・・・ん?」
愛花は付けてたウンサの放送が騒がしくなった事に気が付き、目を向ける。
「・・・!!!!舜兄、今!?」
「・・・死体が、映ったな。」
2人は目を合わせ、頷き走って行く。
喧騒は、すぐに見つかった。
「これは・・・これは!事件です!前代未聞の事件です!!戦闘中の事故死はあったものの、控え室での殺害等・・・!!」
「ふふん!シュラ、強い!これ証拠!強かったやつ、シュラ程じゃないけど!」
「この死体が、選手の誰のものか判明次第、放送を―」
「誰のものでもないな。」
舜は駆け付けてから、死体を軽く見ただけで言った。
「ま、まさか、正体不明の出場者は探偵だったのか?!これは助かりました!しかし、では・・・?」
「いや、違うよ。ただちょっと、沢山人を殺してきたから、死体に詳しいだけ。」
「何も!何も助かってませんでした!!」
ウンサを無視して、舜はその死体を広げて笑みを浮かべてる少女を見る。
白い髪、赤色のインナーカラー。前髪の1部に黒のメッシュが入っている。
表情の作り方は幼いが、少なくとも10代後半ではあるだろう。
「数日前のだな。」
「うん!数日前にいたつよいの!シュラ殺して持ってきた!」
「シュラ・・・そう、君がシュラか。」
ビャクシの言っていた名前だと、警戒度をあげる。
「?シュラのこと知ってるの?」
「まあ・・・君の知り合いの知り合いってとこかな。」
目の前の死体について、なんの罪悪感も湧いてなさそうである。
子供のように目を輝かせはしゃいでいる。
「すまない!こちらの管理不足だ、失礼した!」
1人の女性が走り込んでくる。
茶髪のウェーブがかったショートカットをしている。
「あ、クーユーくん。どうしたの?」
「シュラと一緒に行動できるよう、真希様に頼んだのさ。後で私と共にこの街を回ろう。あそこに買ってきたジュースが置いておるから、飲んでおいで。」
「うん!ありがと!」
シュラがバタバタとそっちへ走って行く。
「・・・済まなかった。完全にこちらのミスだ。すぐ片付ける、彼女に悪気は無いんだ。」
「悪気・・・ねぇ。」
クーユーが舜と目を合わせる。
「・・・君が例の。お初に目にかかる、クーユーと申すものだ。ビャクシと志同じくしてるもの、と言えば伝わるかい?」
「シュラの時点で、まあそのお仲間なのは分かってたよ。・・・で、お前は面倒そうな側?ビャクシ側?」
「ふふ、ビャクシは君から相当信頼されているようだ。彼女の友として、嬉しいよ。その答えとしては、君から見たら、ビャクシ側に近いかもね。」
言葉は柔らかで、敵意がないようには聞こえる。
「で、悪気なくこんな事をするシュラって子を、なんで見てなかったの?」
「私も驚いたよ、まさか真希様が彼女1人に行かせようとしてたなんて。ビャクシが自分が行きたいと言ってたから、彼女に行かせるものだと思っていたが・・・。慌ててこのクーユーが駆け付けた時には・・・。・・・と、言い訳がましく聞こえてしまうな、要はやっぱりこちらの監視不足だ。君にも、大会の運営にも、この大会に参加する人達にもなんとお詫びしていいか。」
「こういう事を日常的にする子なのか?」
「彼女は・・・そうだな・・・・・・。なんて説明すればいいか・・・。」
クーユーは舜の目を真っ直ぐ見て、続けた。
「簡単に言えば、君と同じ立場の子なんだ。」




