226話 リティガルにて
「さあさあいよいよ開幕の時が近付いて参りました!リティガル伝統闘技大会!今年で第184回となります!私、実況のウンサで御座います!今年の出場者を皆様にご紹介しましょう!」
1人の男が、自立して浮いているカメラの前で元気に話す。
「・・・。」
「舜兄、お水入りますか?」
「・・・ああ、ありがとう。」
舜達も無事入国し、大会に全員エントリー出来た。
だが、バールームの事を全て解決してこちらにやってきたわけではない。
少し、後ろ髪を引かれる思いで、考え込んでしまう。
今は、舜は愛花と一緒に動き、他の人たちは散策等をしている。
「おっと、こちらの方たちは初参加でしょうか?」
そこに、ウンサが近付いてくる。
「失礼します、お話聞かせてもらっても?」
「構わないよ。大会前の番組もこんなに大きくやってるんだね。」
舜はそう答えながら、じーっとカメラを眺める。
「お名前をお聞きしても?」
「舜。アウナリト出身だ。」
「ほう!アウナリトですか!海を渡っての参戦ですね!そしてその名前・・・ヤパニオ風ですが・・・偽名ですか?訳ありなんですか!?」
「・・・名前に関しては割と訳ありだけど、この名前しか持ってないよ。」
ゴクリとウンサは息を飲む。
「様々な人が参加する中でも、ここまで未知な存在は珍しい!これは思わぬ伏兵か・・・!?」
1人、カメラの前で盛り上げようとする。
「経歴とか、戦い方を伺っても?」
「ふっふっふ・・・経歴?教えられないね!戦い方?教えられないね!!!」
舜はこういう時、ノリがいい。
何も分からない未知の戦士・・・リティガルがそれで大会を盛り上げようとするのであれば、応えるのが舜である。
「実に素晴らしい!!いい試合を期待しております!!」
ウンサも興奮して舜の手を取り、ブンブン振った。
「そしてお隣の可憐な少女!こちらも参加者か!?お名前をお聞きしても?」
「愛花でーす!同じくアウナリト出身です!」
「おいおいおいおい!こっちの名前も意味深だぞ!?」
「ふっふっふ・・・一応本名はアイカ・トゥーフォースです・・・!舜兄よりは・・・訳ありじゃない!!!」
「そうなんだ、俺も知らなかった。」
愛花は愛想良く対応していく。
その中で、舜が未知の戦士役なら、同じ役ではなく可憐な戦う少女役として振る舞おうとしていたが。
「この体格で、どこまで粘れるのか!見ものですね!」
「体格じゃなくて可憐な方に注目してください!!!」
小柄なのが災いし、そうも行かなかった。
「・・・今の番組、デバイスで見れるんだよね?」
「ええ、見れますよ。情報収集にもなりそうですし、一緒に見ましょう!」
「・・・うん。」
舜は愛花を見ながら、ふと考え込む。
「あれ?どうしました?」
「いや・・・知り合ってから結構経って、付き合いもしてるのに本名すら知らなかった事にちょっと驚いてて。」
「別に隠してたわけじゃないんですけど、名前を舜兄と寄せたいなと苗字は言わずに今まで来てた感じでして・・・えへへ。」
愛花は照れくさそうに笑った。
「もっと・・・愛花の事、知りたいなと。思ったんだ。」
「ふふ!お互いもーっと知ってもーっっっと愛し合いましょうね!」
にこやかに2人で見つめ合ってから―
スっとお互い情報収集モードに移り、舜のデバイスで2人で番組を見始めた。
愛花も同じ行動をしたのは、舜と長くいて戦い方などを吸収したからだろうか・・・。
「さあ!今年ももちろん参加します!毎年決勝トーナメント常連組!優勝回数2回!そして去年覇者!!オピスさんだ!!」
「毎度!ウンサちゃん去年ぶりやな!」
白い髪の女性で、サイドに髪を編み込んでいる。
「むー・・・多分この人160ちょっととかですよね?10cm位しか変わらないなら、私だって小柄な参加者じゃないのに!」
「10cmはまあ差があるだろ・・・。」
「あー!舜兄までそんな事言うー!」
2人は冗談を言い合いながらも、目線は逸らさない。
「うーん・・・そやなぁ・・・ウンサちゃんちょっとええ?」
「どうされました?」
オピスは歩き始める。
「・・・どう思います?」
「うん、強いと思うよ。」
「・・・お兄さんほどじゃあらへんで?」
「わっ!びっくりした!!」
デバイスで見ていたが、さっきインタビューを受けたばかり。
近くにいる2人を見かけて、オピスから近付いて来ていた。
「オピスさんがこう言うってことはやはりこの未知の戦士は強いんですね!これは盛り上がりそうです!!しかし、しかし!!この大会、単純な実力だけじゃ決まらない側面もあります!」
「・・・困るわぁ、ウチの得意な判定勝ちに持ち込も思て、想像したんやけど・・・ビジョン浮かばんかったわ。ま、ちこう来れて良かったわ!イメージはしやすくなった、後はそれに対してどないするかだけやねんな!」
舜とオピスの視線がぶつかる。
「・・・イメージね。本当にその通りかな?」
「当てたろか?魔力を高密度に集めた防御、巧みな剣さばきによるカウンター戦術。そして何より・・・お兄さん、血の匂い強くて敵わんわ。でもちこう寄ってみると、人当たりは良さそうなんよな。上手いこと血みどろなん隠してん?それともやむを得ない事情でもあったん?」
「内緒。合ってるかも、この血の匂いが何なのかも・・・。ただまあ・・・殺さずやるこういう試合より、殺し合いの方が得意なのは間違いないかな・・・。」
(おお・・・舜兄、ノリノリでヒール役やろうとしてる・・・!わっるい顔してる!)
「これは!!これは!!!故意による殺人は禁止ですが事故は起こりえるこの大会において、波乱の存在になりそうだァァァ!!!」
ウンサもそれに乗り、盛り上げる。
「ほなまた。出来るだけ当たらん事願っとるわ!アハハ!」
オピスが去り、追いかけるようウンサも次の出場者を探しに赴く。
「・・・試合形式で、勝てそうですか?」
「分かんない・・・その時その時で勝ち負け変わるんじゃないかな。」
2人はポツポツと会話を交わし、デバイスに目を戻し・・・動きを止めた。
「舜兄・・・!この人・・・!」
「こいつは・・・!」
ウンサが1人、盛り上げる中、小柄の男は無表情で目も合わせていない。
「義腕の戦士かー!?失礼、お名前をお伺いしても?」
「答えれば消えるのか?・・・ロジクだ。ほら、消えろ。僕は今忙しい。」




