224話 そして因果は廻りゆく
「・・・っく!」
体勢を崩した舜の後ろから現れた愛花は、既にその手の前に魔弾がある。
雨の盾ならいつでも作れる。
しかし、先程の一撃を見るにそれでは守り切れないと、レインはその光景を見ながら思った。
そこでレインの視線が動く。
攻撃を当て、体勢を崩してる舜の、その攻撃が当たった場所へ。
(間に合う!)
その血を使い、愛花の至近距離からの魔弾の盾とする。
閃光―
ぶつかり合った衝撃でその場の全員の視界が狭まる。
レインは雨を使って後ろへ、退却をしようとする。
「・・・つぅ!?」
そこに舜の剣に左脇腹を斬られ、愛花の魔弾に右脇腹を抉られる形になった。
「浅い・・・!仕留め損ねた!」
「当たれー!」
視界が定まらないまま、レインは必死に水を足場にしながら、上下左右に動いて滑って行く。
どこに何があったか、記憶を必死に思い出して。
愛花の魔弾が後ろから襲いかかるが、同じ理由でその魔弾の量は少ない。
見えない中、他を巻き込まないように記憶を呼び起こそうとする。
当然、来てまもない愛花よりレインの方が確実で―
「・・・逃げられた!」
2人は雨の中、追いかけずに居た。
やはり土地勘の差は大きかった事と、速さで勝てる相手ではない。
「後はどう追い詰めるかだな。」
「みんなに連絡しますね!」
しかし慌てる様子もない。
相手の有利な状況からでも2人でなら覆せた。
お互いの信頼が、冷静さをもたらしている。
しかし、その彼らが最終的に見つける事になるものは―
レインは必死に逃げていた。
追ってこないとは分かっていても、少しでも急いで。
ようやく、アジトに辿り着いて止まる。
(危なかった・・・だけど生きてる。まだ、殺し足りないもの。)
レインの狂気は、未だその目に宿している。
(・・・私、1人か。)
かつてみんなと集まっていた場所。
雨のやまぬうちに、レインはそこで1度国を離れる準備をしようと思い立ち―
違和感を覚えた。
「無い・・・居ない・・・!?」
目的の1つであった、それなりの血―
カミラの死体が見つからない。
(・・・アリサ?・・・・・・。)
1人、疑いを向けたところで。
レインの身体が固まった。
羽音がする。
「まさか・・・。」
「まさか、何?」
聞き覚えのある声。
あの時、確認作業とともに血の一滴で切り裂かせたはずの相手。
雨の向きが変わる。
彼女の元に武器が集まろうとしている。
「1つだけ教えてあげる。」
声が聞こえる方向にいるとは限らない。
レインはそう神経を集中させる。
「あなた・・・」
「私たちを舐めすぎ。」
グサリと、背後から先端の曲がった短刀が刺され、抜かれた。
レインの身体はグシャりと崩れる。
「死ぬまで床でも舐めてるといいわ。これが十道聖を敵に回したものの運命。」
カミラの笑い声が辺りに響き、蝙蝠があちらこちらへ飛んで行く。
(ふざけるな・・・!)
レインは口から血が漏れ出ながら、その意識は保っていた。
(私はまだ殺し足りない!)
その頭に浮かぶのは、想い出の英雄。
(あの人を殺したこの国を、この大人を。許していいはずがない。殺さないといけない!)
彼女の歪んた想いが、彼女を意識をより強くする。
(もっと殺して、もっと後悔させて、それで・・・!)
口からこそ血は流れているが、それ以外の傷の血は止まっていた。
(心臓を刺したから何!?体内の血を操作すれば何とでもなる・・・!)
心臓が動く度痛むが、それでも傷を能力で埋めているため、血を送るのに問題は無い。
(・・・?・・・は?)
そんな彼女の元に影が落ちる。
レインは敵襲の可能性を考え、生きてるとバレないよう動かないまま、じっと神経を集中させる。
「あんたがパパとママを殺した。」
声を聞いて、それは子供のものだとわかった。
助けを呼ばれたら困ると、死んだフリを続けながらもレインは少しホッとした。
「だからあんたは苦しむべきだ。」
もう、その言葉の続きを聞く必要は無いと、能力に集中し始めようとしたタイミングで。
「分かってる、まだ生きてるし、このままじゃ死なないって。」
その言葉を耳にした時、レインの身体が再び硬直する。
それでもレインは一か八かに備えて動かない。
「魔力、使ってるんでしょ。今なら・・・。」
「・・・なっ?・・・え?」
背中に、衝撃を感じ。
鈍く感じた痛みが少しずつ鋭利になっていく。
もう一撃。
「待って・・・。」
もう一撃。
「待ってって・・・。」
「あんたは待ったのかよ。何人も殺した時に、1度でも・・・!」
レインは怯えた目で、その子を見た。
アッシュが死んだと分かった時に、見せしめに殺した2人の子―。
酒場の従業員の家族の1人―。
もう一撃。
刃物で次々と刺されて行く。
何とか能力でその度に傷を止めるものの、抵抗出来なきゃ死ぬのが長引くだけで。
何故か、英雄の教えの1つを思い出していた。
自分が居なくなっても跡を継ぐ人は必ずいる。
正しき行動ならばの話。
(ああ・・・誰が跡を継ぐんだろう・・・。)
決して自分の事を正しいと思って言ってるのではない。
英雄の意志を継ぐものが居ないのが気がかりだったのだ。
恐怖に怯え、英雄を殺した大人により狂わされた少女は、道を間違えて狂わさせた少女に刺し殺されるという皮肉な運命を辿った。
自分から始まった"復讐"を継がせた、最期であった。




