220話 最期の仕事
(クソっ・・・!なんで今思い出しちまったんだ!)
子供の頃―父に喜ばれると思いながら、ウキウキして魔力者に慣れた事を報告した。
片親で、不器用だったが、それでも弟と2人を育てようとしてきた良い親だと思っていた。
―その日までは。
報告をした途端、父は悲しい顔をした。
その日から地獄は始まった。
「どうした!?魔力者というのはそんなものか!立て!立ち上がれ!」
毎日のように殴られた。
毎日のように蹴りあげられた。
「うっ・・・。」
毎日、反撃をしなかったのは何故だろう。
もう覚えていない。
「魔力者になったというのに・・・どうしてそんなに弱いんだ・・・。せめて身を守れる強さを・・・。」
父のそんな落胆の声を毎日のように聞かされた。
力を付けてもお前の身を守ってやるつもりはないと、強く思った。
「お兄ちゃん・・・。」
「・・・見てんじゃねぇよ。」
強さが、必要だった。
ああ、そうだ。雨の日だった。
俺ん家に魔力者が2人乗り込んできて―殺されそうになったんだ。
「そっちの子は弱っちいからいい!この子だけには手を出さんでいてくれ!この子は優秀な魔力者の卵なんだ!頼む!」
その声を聞いて、何かが弾けて消えた。
いつの間に、弟が魔力者になったんだとか。
そんな疑問の前に―俺より優秀なのが出たら、俺は見捨てられるんだと。
でもその声のおかげで、俺は逃げられたんだ。
その2人は俺をほっといて弟の方へ行ったから―。
そして、その後出会ったクルンチュが育ての兄になると言って―そいつも俺を見捨てて―!!
(・・・?俺は逃げたのになんでまだ家の記憶が流れやがる。)
シェフティの頭の中に、その後の父と弟の光景が流れる。
「・・・ゴボッ・・・生き延びろよ・・・神様・・・あの子にその身を守れる強さを・・・どうか・・・。」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
「おい、こいつさんざん痛めつけたが魔力なんて使わねぇぞ。」
「はっ・・・!バーカ!僕は魔力者なんかじゃないやい!踊らされて、本当の凄い魔力者になるお兄ちゃんを逃がした・・・アンタらは―ウグッ!?」
「生かしててもしゃーないな。殺せ。」
(・・・なんで・・・・・・。)
シェフティの頬に熱い涙が流れた。
「ハハッ・・・アハハハ・・・アハハハハ!!!そうか・・・そうだったのか・・・アハハハハ!アイツら力もありゃしないで馬鹿な奴らだ・・・アハハハハハ!」
「・・・・・・?何を・・・。」
「そうだ・・・やっぱり力だ。力が必要なんだ・・・力こそ全て・・・。」
フラフラとシェフティはアラタに近付いていく。
「落ち着け、大丈夫だ。何を見たかは分からないが、君はやり直せ―。」
ゴボリと、アラタは血を吐いた。
シェフティは燃え盛る炎も気にせず、アラタの胸に素手で穴を開けた。
「ハハ・・・油断したなぁ?俺は・・・手に入れる・・・強さを・・・!アハハハハハ!」
アラタはその腕を掴んだ。
「これで・・・気は済んだか?」
「・・・っ!」
シェフティは一瞬怯んだが―腕を抜き、振り払った。
「いやまだだ・・・もっと俺は強くなる・・・ヒヒッもっとだァ・・・ハハハ!」
そしておぼつかない足取りで、周りが見えてないかのように去って行った。
もう1人―リーグもいつの間にか消えていた。
アラタはガクリと膝から崩れ、アピアルに支えられる。
「お疲れ様、アラタくん。」
「・・・ああ―ようやく分かった。君は隣に住んでいた妹さんだ・・・。随分・・・綺麗になって・・・。」
「・・・・・・アラタくん。あなたの想いは私が引き継ぐわ。ゆっくり、休んで。」
「ああ・・・それなら安心して・・・往ける・・・な・・・。」
アラタの身体は光に包まれ―消えて行った。
「・・・私も、愛のままに。」
アピアルは強く胸の前で拳を握り、姿を消した。
蝙蝠が降り立ってくる。
「・・・失敗、した?」
「元を正せば貴女達がね。あんなに敵に囲まれるなんて聞いてないわよ?」
カミラとレインが言葉を交わす。
「第2案は。」
「それならあるわ。」
カミラが手を伸ばすと、血が数滴垂れていく。
その血はプカプカと浮いた。
「これが?」
「ええ、舜って人の方の血。」
「そう。」
レインはその血を眺めながら、カミラに声をかける。
「こちらの人数は減っている。そちらの目的を果たしたいなら、もうひと仕事。」
「うーん・・・もう勝ち目無いんじゃない?私は降りるわ。咲希様仲間にするだけなら、他にも手はあるし。」
「・・・なら、もう用済み。」
カミラの左肩から右腰に向けて、血が吹き出した。
「・・・あ・・・あなた・・・。」
「一滴でこの威力。これは、いい武器。どうもありがとう。あなたのも、武器にしてあげる。」
レインは舜の血を大切そうに箱に入れた後、倒れ伏したカミラの血を別の箱に入れた。




