218話 より強い悪
「・・・・・・やり方、ねぇ。」
「どうしたサニー。」
仲間の遺体を回収しようとしてるクラウが振り向いた。
「明らかに敵が増えすぎてる。それだけ悪い人が居たって事だろうけど・・・私たちのやり方も急ぎすぎた。少しずつ対応していけばこんなに友達の死を迎えることもなかった・・・のかなって。」
「・・・一理ある。だが、ここまで急いでなお、この国は良くなりきってはない。・・・急いでやってきた事が間違いだとは思わない。」
サニーはまだ悩んでる様子である。
「別に死ぬのは怖くない。でも・・・それはちゃんと目的の為に歩めてた場合。意味もなく死ぬのは嫌。」
「・・・大丈夫だ。英雄も言ってただろ?」
2人は過去の記憶を遡る。
英雄からかつて教えて貰った内容を。
「「正義の道は、必ず跡を継ぐ者が現れる。」」
「英雄にとって俺たちがそうであるように。」
「でも・・・私たちの跡を継ぐ人はどこ・・・?」
そんな時だった。
一人の少女が声をかけた。
「悩んでるんだね、お姉さん。自分の描いた正義が、他の人にとって正義じゃなかったら、なんて。」
「誰だ!」
サニーより先にクラウが吠える。
「私?私はロルバ。かつて自分の正義の道を進もうとして失敗した者よ。」
「失敗・・・?」
サニーがか細い声で聞く。
「そう、失敗。私が教えられた正義は偽りのもので―悪として酷い目に合わされた。」
「・・・悪―。」
サニーの頭に、過去の記憶が勝手に思い浮かぶ。
『覚えといてくれ。悪になろうとして悪になる人間は少ない。それでも悪が蔓延るのは、力や正義に溺れさせられるからだ。』
『正義になら溺れてもいいんじゃないの?』
『まさか。自分の正義が誰かにとっては正義じゃないかもしれない。それを常に考え続けないといけないんだ。』
「・・・あ、私は―。」
「サニー、先に戻っていろ。色々あって疲れてるんだ。ここは俺が対処する。」
「・・・うん。」
フラフラとサニーはおぼつかない足で走り去っていく。
「対処?やーん、こわーい!おにーさんは暴力的なんだね?正義を語る癖に。」
「力の無いものの代わりに振るわねばならん時もある。それに―お前も過去に、正義の力で止められたんじゃないか?その目、かなり見えてなさそうだが。」
ロルバの薄いピンクの、光の点ってない瞳を見てクラウは言い放つ。
ロルバはうすら笑いを浮かべたまま、答える。
「私を倒した人は正義なんて語ってなかったよ。それどころか・・・悪人とすら自認してたんだろうね。」
「はっ!悪人の末路らしくて結構!」
笑い飛ばしたクラウに対し、ロルバも一緒になって笑う。
「それじゃああなたにも教えてあげる。悪を倒すのはより強い巨悪の時もあるって事を!」
「コラツィン・クトゥルフ!」
「自然は創造を越えて!」
2人は同時に戦闘態勢に入る。
ロルバの目は赤紫の光を取り戻す。
その目ははっきりとクラウを捉えた。
「なぁに?この幻想的な空間は・・・綺麗なだけじゃ見とれてあげないけど?」
ロルバの指摘するように、辺り一面が虹色の空間に包まれている。
「悪いが・・・早めに終わらせる。」
「そ。じゃあ早速勝ちを貰うわね!」
ロルバの周りに青色の魔力が現れる。
「かつてクトゥルフ様に支配されたものとして・・・その力、支配し返す!」
強大な水がクラウへ向かって轟いていく。
「水、か。」
しかし、彼の元へ届く前に蒸発した。
「ふーん、なんか熱いと思った。」
「悪いが今の俺は太陽を纏っている・・・この意味が分かるか?お前の攻撃は俺に届く前に燃え尽き、俺はお前に近づくだけでお前を焼き殺せる。」
「わざわざ説明してくれるの?頭悪いーんだ!」
「説明してやっても分からねぇか、この絶望が。」
クラウは1歩、更に1歩歩を進める。
「要するに・・・あんたに届くまで魔力出せばいいんでしょ!」
ロルバの目の前から、ロルバが見えなくなるほどの水が押し寄せて行く。
「幾ら水を出そうが・・・俺に届く前には大した攻撃にはならねぇよ!」
水は蒸発していくが、それでも物量と勢いで幾らかクラウの上から降り注いだ。
クラウは戦いのさなかでありながら、その水を迷惑そうに腕で受ける余裕があった。
「!?」
「あら?どうしたの?余裕そうにこちらから視線を逸らしたのに・・・急に慌てて。」
それ以降の水を何故か蒸発させられず・・・クラウは水の中にいた。
「ああ、安心して?まだ息もできるでしょ。言葉も話せるはず。・・・ねぇ、あんなに私も余裕を見せてあげたのに―なんで考え無しに受けちゃったの?」
「・・・・・・。」
「クトゥルフ様の水ってさ。それに沈めたものを終わらせる事が出来るんだ。アンタの太陽の力も、もうおしまい。」
「なるほどな。ベラベラと話して、勝ったと思ったのか?」
「なっ・・・!?」
次の瞬間、水が何処かへと消え去っていた。




