216話 betrayal
「・・・本当に戻って来たんだ。」
「ええ、サニー。居るって言った人数と実際の人数が違うのはもうバレたしね。」
クラウがアリサを連れ拠点へ戻った時、レインとサニーは既にその中に居た。
「人数、1人少なく言ったのは、私の事?」
「そうね、あなたは英雄の跡継ぎとしては否定的で名乗ってないのもあって。」
レインの問いにアリサは応える。
「私たちのやり方と合わないって離れたアリサが、何で今?」
「やり方は正直別のがあると思ってる。でもね、子供の頃から一緒にいて、楽しかった時も悲しかった時も分け合って・・・。意見が割れる時や時に喧嘩する時もあってもその時間全てを否定するのはどうかと思ったの。・・・死は、それらの全ての否定にもなってしまうから、それが嫌だった。」
その言葉にクラウは満足そうに頷いた。
サニーも疑念を捨て、笑みで迎える。
「・・・アッシュが、まだ。」
レインの一言で3人はハッとする。
「・・・駄目だ!繋がらねぇ!」
クラウは連絡を試みて声を荒らげる。
「確か不死身の相手とかだったよね・・・?取り押さえるのに必死でなら・・・急いだ方がいいかもしれない!」
サニーは自身の傷を気にしないかのように、立ち上がり走り出した。
クラウもそれに続く。
「アリサは、行かない?」
「まだ裏切りは割れたくないからね・・・疑念は持たれてるだろうけど。」
「そう。私も残る。」
アリサはチラリとレインの表情を見たが、レインは無表情のままであった。
暫くしてクラウからレインへ連絡が入る。
「分かった。殺しておく。」
「何があったって?物騒なワードが聴こえたけど・・・。」
「アッシュ、氷漬けになって死んでた。敵も人質も消えた。やられたからやり返す。」
「・・・。」
アリサは自分の腕を強く掴み、床を見つめる。
そんなアリサを一切気にせず、レインは奥のドアを開けた。
「その人達は?」
2人の男女と1人の10になるかの女の子が縛られている。
目は恐怖に怯え、モゴモゴと動く。
「酒場の従業員の家族。」
「殺すって・・・殺したって意味あるの?」
その言葉には何も返さず、ただレインは剣を2度振るった。
「首、晒してくる。残りの子、人質だからちゃんと見といて。」
「・・・・・・。」
レインは2つの首を持って歩き出す。
アリサはレインから目を逸らし、残る子供へ目を向けた。
アリサは振り返り、今自分が1人であることを確認する。
そして、ただその子を抱き締めた。
「ごめんね・・・逃がしてあげたいのはやまやまだけど。」
「・・・・・・。」
両親の血を浴びた子供は虚ろな目で、ただ無言を貫いた。
酒場へ戻った舜は出来る限り静かに、しかし素早く中へ入る。
咲希が戦ってる相手に不意打ちが出来ないかの判断だったが、宛が外れた。
咲希は戦っていない。
目に見えたのは従業員や咲希を背に武器を持っているアピアルだけ。
舜は構わず踏み込み、剣を振るった。
「私じゃないわ・・・分かってる癖に。」
フランベルジュがその舜の剣を受け止める。
「敵対してるフリをしてくれてもいいのに。」
「今の"分かってる癖に"は、それが無駄だって事も含めて言ってるわ。」
「・・・やっぱりこっちの顔が割れてる相手、か。」
しかし、辺りに気配は一切感じない。
「話してる暇はある?」
「後でならたっぷり♡」
「そ・・・。居るんだな、何処かに。」
舜は辺りを警戒しながら前へ出る。
「・・・4時!」
「!!」
アピアルの声に、舜は自身の右後ろへ振り返りながら、魔力を手に込める。
音もしない羽の一太刀が舜に襲い掛かっていた。
右手で受け止め―込めた魔力が火花を散らす。
「くっ・・・!」
受け止めきれないと即時に判断した舜は、相手の剣のはたらく力の方向へ、手を引っ込めながら自身も飛び退いた。
「あら、貴方も硬いのね。軽い一振じゃ、そちらのお嬢さんと同じく斬れない・・・と。でも、貴方は血を出したわね?」
舜の手のひらからポタポタと血が流れ落ちる。
「曲がりなさい。」
「!?」
舜の手から腕へ向かって、ぐにゃぐにゃと蠢き始める。
痛みを伴うそれに舜は―
「うぜぇ!」
右肩から真っ直ぐ力を込めて、無理やり治した。
「強引に?そんなことが出来る人初めて見た・・・強いのね。」
「蝙蝠?・・・ビャクシの仲間か?」
「真希様の配下、カミラよ。咲希様のお迎えに来たのだけど・・・成程。貴方ほどの強い光を魅せられて当てられたから戻らないのね。」
睨み合いから、スっと目の前からカマソッツは消える。
「・・・。」
舜はその姿を探すこともなく、前へ出る。
そして数歩歩くと突然屈んだ。
その上をカマソッツの羽が通り過ぎて行く。
「せい・・・や!」
カマソッツを視界に入れるや否や、蹴りをその腹部へ与える。
「アハッ!自分から飛び込むだけはある!・・・おっと。」
背後からアピアルのフランベルジュの一撃を羽で受け止め、カマソッツは宙へ舞う。
「姿も気配も消せるのは厄介だな・・・。」
舜は呟きながら、剣を構えた。
その時、外から大きな音が響き渡った。




