215話 Negotiating
「・・・・・・。」
英雄の子孫のリーダーであるクラウは、無言で立っていた。
「・・・・・・・・・。」
亡き英雄に様々な教えを受けた子供たち。
その英雄の1つの教え、例え自分が居なくなっても跡を継ぐ人がいる―その跡継ぎこそが自分たちなのだと努力してきた。
「・・・・・・・・・・・・。」
クラウは視線を人質に動かした。
英雄の教えに反し、治安を悪化させている連中。
それを利用して新たに外から来た連中を倒さんと。
「・・・・・・チッ。」
そして今、クラウの目の前には―
誰も居なかった。
間違いなく自分がここにいることは分かっているはず。
誰かがここに向かう筈なのだ。
その宛が、外れている。
しかし、クラウもその場から動けないでいる。
もし人数不利があるのなら、連絡があるはず。
それすら無いのなら何処かに敵が1人潜んでいる。
そして、罠をかけるとするならば―
本来相対すべき自分の所の可能性が高い。
そう結論づけて、神経を張り巡らしている。
その本来来るはずだった相手は今―
「姉御ー!敵襲敵襲!」
「相手がその気ならとっくの昔に何人も死んでるよ・・・ね、雪乃さん。私はナーバ、ここの地域のローグのトップ。・・・なんのようかしら?」
ローグの元へ単身乗り込んでいた。
「交渉です。今回、あなたたちも動きに困っているのでしょう?」
「単刀直入、嫌いじゃない。そうね、はっきり言って悩んでる。」
2人の視線は鋭くぶつかる。
「私から求めるのはこれ以上の活動停止。出せるのは最終命令の援護。如何です?」
「ふーん・・・つまり、私達に最後の命令をもうやれと。援護、何が出来るの?」
「舜さんをその場に留まらせる、それだけで十分でしょう?」
ナーバはその視線を受けながら、考える。
「まだ不成立。」
「あなたたちでは英雄の子孫に勝てないのに?」
「直接対決ではね。でも今は違う、あなた達も戦っている。アレが少ない被害で倒せるのなら、これからも活動出来るし、最後にはまだ早い。何より対象が舜さんに固定されるのが良くない。」
雪乃はその言葉を聞いて、振り向き歩き始める。
「"まだ"という言葉を貰っただけ良しとします。ただし、舜さんに負担がかかるようなら―まずあなた達から消しますので。」
「この戦いが終わるまではどちらにしろ活動しない、それは約束しよう。」
歩き去るのを止めず、雪乃はその言葉を受け取った。
「さて・・・次に行くべきは―」
「抵抗は終わった?」
レインの視線の先には、息荒く壁にもたれ座っているプローチがいた。
ところどころに切り傷があり、血が流れている。
「・・・ま・・・・・・まだよ・・・。」
「無駄が好き?あなたじゃ、勝てない。―!・・・誰?」
レインの視線が背後へ向く。
「うぉぉぉぉ!!!!」
なぜかは分からないが、絶好の機会とプローチは自身の身体に鞭打ち、猛然と向かう。
「構ってる暇・・・無い!」
思いっきり蹴り飛ばされた。
息が上手く吸えない中、ボヤけた視界の中に1つの人影がレインと争い始めるのが見える。
「アラ・・・タ・・・くん?」
プローチはまとまらない視界に、それでも面影のある人物の名前だけ言って気を失った。
名前を呼ばれた存在は振り返り、気を失っただけなのを見てほっとする。
「さあ・・・。・・・・・・逃げた?」
改めてレインの方を見た時には、既にそこに彼女は居なかった。
アラタはプローチを抱え、跳んで姿を消した。
「こちらレイン。予想外、未知の敵襲により撤退。オーバー。」
「こちらサニー!こちらも同じく未知の敵襲!片腕斬られた・・・!」
「こちらアッシュ、片腕斬られたが何とか不死娘の足止めは成功したよ。・・・で、どうする?クラウは応答しない?」
英雄の子孫達は無線で会話をする。
「こ、こちらえっと、・・・どこかに集まります?どこって正確に指定してもらえれば。オーバー!」
「誰?」
その会話に知らぬ声が入ってくる。
「だ、誰って・・・仲間でしょ?ほら。」
「カレン?」
「そ、そう、カレン!流石・・・レイン?話分かる!」
「で、カレンって誰?」
「え゛!?」
知らぬ声はあっさりと騙される。
「・・・愛花、流石に無理がある。・・・オーバー。」
「お、怜奈ちゃん。無理があったかー・・・オーバー。」
ぶつりという音が聞こえ、他の人の声が2人の元に聞こえなくなる。
「あ、残念。黙ってた方が良かったかな?でも返答しないままだと怪しまれるし、本拠地も分かってなかったし・・・うーん・・・。」
「更に二人、やられた。」
走りながらレインは呟く。
「悲しい、嘆かわしい。残り3人、しかもクラウ以外の2人は片腕がない。クラウとも連絡が取れてない。」
レインが嘆くと同時に、連絡が来る。
「こちら、クラウ。アリサが再び仲間になった。オーバー。」




