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愛の歌  作者: Dust
9章
217/228

213話 青色の勇気

カマソッツが舞うように、その羽から衝撃波を次々と放つ。

一つ対処し、後ろへ跳びながら更に一つ、同じように一つと丁寧に対応する。

距離が空くや否や、カマソッツは素早く飛んで、その鋭利な羽で掻っ切ろうとする。

が、脇をすり抜けるように、美しくすれ違った。

(強い・・・。)

咲希は息を飲む。

(2()()()()化け物だ。)

その戦いを眺めながら。

自分を連れ去ろうとした相手に対し、颯爽と現れた女を眺めながら。

「強いわね。しかもまだ本気じゃない・・・貴女、名前は?」

「愛の伝道師、アピアルちゃんでーす♡」

「そう・・・愛、ね。ふふ、貴女とはいいワインが飲めそうだけど・・・私たちの邪魔をすると言うなら、話は別ね。」


(今はまだお互い様子を見ているみたい・・・。だけど・・・これ以上の動き方をされたら・・・プローチさんの店が・・・!)

影で見ていたウェイターの一人が、覚悟を決めた。

その少年は―従業員の男性の中で、誰よりも可愛らしく。

女性と勘違いする人の方が多いような見た目をしていた。

カッコイイ存在に憧れた。

だけども、自身には似ても似つかぬ存在であった。

男らしい人間に憧憬の眼差しを向けながら、ふと気がついた。

女性を、魅力的に感じない。

それどころか、自分がいつも魅力的と感じているのは男なのだと―。

まだ若き彼は苦悩に苦悩した。

自分が女性なら、こんな苦悩はしなかっただろうに。

誰にも話せない、苦悩。


プローチに出逢うまではそうだった。

しかし、オカマである事を公言しながら、美しさの探究をしようとするその人は、親身になって聞いてくれた。

苦しみを共有してくれた。

そして、心は女として過ごす覚悟を決めさせてくれた。

そんな第2の人生を歩ませた、自分にとっても思い入れのある店。

そして、何よりこの店はプローチにとって―


『過去にね、英雄の子孫にここらの家の大人が襲われたのよ。最も英雄にいい顔をしなかった罪として。アタシは無力だった。妹と隣の家の子と、何とか命からがら逃げるのがやっと。そんなアタシ達を匿ってくれて人のお店なの。・・・その人も、その数年後に殺されちゃったのだけど。その人はみんなを心から笑わせたいって人で、料理を作っては匿った人たちに振舞っていた。アタシは結局恩返しすら出来なかったけど、せめてもの手向けとしてこの店をアタシが守ろうって思ったの。あの日から、親も、生活も、あの人も、何もかも守れなかったアタシだけど・・・せめてこの店だけはって。』


(絶対に、絶対に失わせては駄目なんだ・・・!)

「・・・!アオイちゃん何する気?」

様子に気が付いたガタイのいい女装従業員が、小声で聞く。

「ユウキさん・・・。・・・ボクは、ボクのやる事をします。」

「アオイちゃん・・・。うん、カッコイイ目ね。何をする気なの?サポートが必要なら、やるわ、アタクシも。」

アオイと呼ばれた従業員は、プローチから過去に聞いた事を思い出す。

『強い人ってのはね、心が強いのよ。筋肉なんか見てくれだけでもなく、武器を上手く使えるかでもなく、ましてや魔力の強さでもない。本当に困った時に頼りになるのは、心の強い人。そして、そういう人たちはアタシたちみたいなのでも、真っ直ぐ見てくれる人なのよ。イイ男の見分け方はそこで判断なさい、見た目なんかよりカッコイイ大事なものがあるわ。』


「そうだ・・・あの人は簡単にボクの性別も気が付いていた。それでも・・・全く気になんてしてなかった。あの人だ・・・きっと助けてくれるならあの人しかいない・・・!」

「アオイちゃん?」

「ボク、助けを呼んできます。プローチさんの想いの詰まった店を、壊させる訳には行かない!舜さんならきっと・・・!」

「・・・!危ないわよ・・・なんて、覚悟はもう決まってるって目をしてるわね。・・・行きなさい。バレそうになったら、アタクシが盾になるわ。」

2人は頷いて、コソコソと動き出す。


(物音・・・?)

咲希は後ろを見て、思わず声を出した。

「下がれ、あぶ・・・。」

バレた方が危ないと、慌てて口を閉じたものの―カマソッツはその方向を見てニタリと笑ったような気がした。

「あら、助けを呼びに行こうとしてるのね?悪い子・・・。」

(しまった・・・!いや、私が守ればいい話・・・!)

2人の前に出ようと、咲希は駆け出す。

「遅いわ。アピアルちゃんとやらも速さじゃ叶わないでしょ?」

しかし、咲希が立ち塞がる前にカマソッツは咲希を真横へと吹き飛ばした。

「ぐあっ!?くっ!逃げろ!早く!!」

「行きなさい!アオイちゃん!ここはアタクシが食い止める・・・!」


「随分舐められたものね?貴方ごとき・・・時間稼ぎにもなりはしない!」

立ち塞がったユウキに、カマソッツの羽が迫り来る。

(死・・・!?)

ユウキが目を瞑り、死の運命を悟って―

首に痛みが走った。

血が少しだけ垂れていく。

「あ・・・あら?生きてる・・・?」

目を開けると、血で真っ赤な左手が見えた。

羽を左手で受け止めている、アピアルの手。

衝撃でゴムが切れたのか、パラパラと長い髪を靡かせる。

「今、貴女のダンスパートナーはアピアルちゃんでしょ?」

「へぇ・・・独占的な目。フフ、そんなに欲せられたのなら踊ってあげる!」

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