212話 人質
「休憩はもういいだろ?それじゃあ次行ってみようか。」
男が魔弾を放つ。
その先には、足から血を流している人―
炎がその魔弾の行く手を遮るように飛び込み、漣が現れる。
1発、構えた腕で受ける。
それと同時に現れるのを予期して放たれたもう1発が頭に当たる。
「散乱弾。」
漣の身体がビクリと動き、炎になってまた戻り。
「が・・・っ。」
苦しみ悶える声が少し放たれて、倒れて動かなくなる。
「どんな気分なんだろうな。死ねないってのは。生きたまま脳を掻き回される気分は。うえー想像したくないね。」
「・・・・・・。」
「まともにやりゃ俺より幾らも強い奴が、ほんの数人盾にされただけでこんなんなっちまう。憐れだねぇ。」
「・・・・・・。」
着弾した後、そこから何発もあちこちに魔力を放つ魔弾。
漣は既に脳に3発も打たれ、一言も発せずに倒れ伏している。
「さて・・・脳にだけ撃っても芸がない。俺たちの邪魔させない為にも、心苦しいか痛みつけられてくれ。」
男はニヤニヤ笑いながら、その手に魔力を込める。
「まずは心臓。耐えず動くこの臓器が傷跡だらけになってしまったら、鼓動の度に痛むのかね?」
「ガッ・・・あっ・・・!?」
「お次は肺。息をする度に激痛に悩まされる人生なんて可哀想だね。」
「あぐ・・・うぅ・・・。」
「胃腸もまとめてやっておこう。食事すら苦痛になるように。」
「ぁぁぁ・・・ぁぁ・・・。」
「後は・・・そうだ膀胱とかどうだろうか。」
「・・・・・・。」
動けない漣へ男は無慈悲に魔弾を放ちまくる。
その魔弾が、小さな小さな魔力となって、漣の身体をいたぶっていく。
「ハハッ、虚ろな目になってるな。さて、今のお前で助けられるかな?」
魔弾は捕らえられてる人質の方へ。
「あああああ!?痛い痛い痛い痛い!?助けて!!」
「アハハハハハハ!大丈夫大丈夫、簡単には死なせないさ。アハハハハ!」
悲鳴が次々あがっていく。
動けない漣はそれを、朦朧とする意識の中で聞き続ける。
(・・・まだ・・・でもこれ以上は・・・。)
漣の両手が炎になって、消えた。
「ん?うぁ!?」
そして男の背後に回していた炎から、その両腕が槍を振るう。
男はすんでのところで致命傷は避けたが、右肘から上が吹き飛んだ。
「この!よくも!よくもよくもよくもよくも!俺の右腕を!!!死ね!何度でも死ね!!許しを求めて俺に詫び続けろクソアマ!!!」
目へ、耳へ、口の中へ、至る所へ。
男は魔弾を放ちまくり―
漣は地獄の激痛に襲われた。
この国に来て、十賢人の生き残りの話を聞いて。
気が付いたことがある。
内にあるその魂の、眠りが浅くなったということに。
もし、今その人の能力を使えば、起きてしまうだろう。
起きて、またこの絶望の世界を眺めさせてしまうだろう。
(それでも・・・誰かを犠牲にしてまで起こさなかったら、君は悲しむだろう?)
たった1人、犠牲にするべき覚悟は決まっている。
それは舜だけでなく、その人もそうであるように。
「クソっ!お前が殺したんだからな!!」
女は人質を犠牲にしてまで向かってくると思い、せめて最期にその人質だけでも殺さんと魔力を放った。
「ひっ!?」
「復讐鬼!」
怯えた人質から黒い魔力が現れる。
「なんだ!?」
「そいつの持っているお前への恨みを魔力化させてもらった。クク・・・アハハハハハ!さあ、死ぬ準備は出来た?」
黒い羽根を生やし、高笑いするそれはさっきまでの舜とは違って見えた。
(まずいまずいまずいまずいまずい!!)
さっきまでは死んででも人質を殺そうとした女が、死にたくないと言わんばかりに必死に逃げ出す。
「逃がすとでも・・・―!」
飛んで追い掛け、その右手にある黒い刃だけの剣を薙ぎ払おうとして・・・。
左の剣で反対からの魔力と斬り結ぶ。
「っう!」
中途半端に振るわれた右手の剣は、女の左腕だけ斬り飛ばし―逃がしてしまった。
「舜・・・君に変わった方がいいかい?」
そう呟いた少しあとに、羽が消える。
舜はさっきまでの刃とは違い、いつもの諸刃の剣を出して構える。
意識を集中させ、右に、左に、後ろに素早く動くそれの動きを、動かずに判断する。
(正面・・・!?)
剣と蹴りがぶつかり合う。
「よう・・・さっきぶりだな。」
「さっきは逃げた割に余裕見せすぎじゃない?襲うのは正面からなんて、ライガ。」
相対した2人は構え直す。
「はん・・・邪魔なのが消えたから殺しに来ただけだ。ただの挨拶の一撃防いだだけで、随分饒舌になるじゃねぇか。」
「変なのに寄生された上で弱くなってちゃ、生前のライガが可哀想だからな。」
ジリジリといつ仕掛けるか動くライガと、ピタリと止まって動かない舜。
風が少し音を立てた時、それをゴングとして2人の戦いは始まった。




