211話 全面戦争
「うげっ、なんで1番厄介なのが私のとこ来るのよ・・・!」
走ってくる舜を見かけ、嫌そうな顔をする女。
(変だ・・・ここが1番魔力を大きく感じたのに・・・こいつがそれを・・・?)
舜は自身の感覚と目の前にいる敵とのズレに困惑する。
(もしこいつがそうなら・・・何かある。こいつじゃないなら・・・何かいる。)
言葉ではあといの違いでも、対応はそうでは無い。
間違えたら命取りである。
「ここでお互い終わるの待たない?ほら、見えるでしょ?」
手のひらを向けた方向に子供が縛られている。
いつでも撃てる、と言わんばかりにその手のひらに魔力を込める。
舜は剣を出し、全神経を集中させる。
「何普通に武器出してる訳?あの子、殺したいの?」
「ああ、人質は無駄。」
舜はいるかもしれないもう1人を警戒しながら、目の前の敵を対応しないといけない。
「・・・たとえアンタが何人も殺してきてたとしても良心の一欠片位残ってるでしょ?」
「たった一人の犠牲でいい・・・そうすればあんたたちのやりたいこと全部潰せる訳でしょ?」
舜の目は、覚悟を決めていた。
「へぇ、本当に連れてこれたんだ。」
ハルとプローチを見て、女は表情を変えず淡々と離す。
「は、はい!レイン様!連れてきました!」
「うん、うん。それじゃあ、ミャクオンの手向けって事で。あなたは用済み、さようなら。家族の元へ、送ってあげる。」
「え・・・?」
レインの手に青い魔力が集まっていく。
言葉の意味を理解したハルは、生きてく気力が無くなったかのように膝から崩れ落ちた。
「ヌォォォォア!!!」
「おっと。」
「逃げなさい!ハルちゃん!ここはアタシが食い止めるわ!」
プローチが隠し持っていた肉切り包丁を手に、レインへ立ち塞がる。
「ぁ・・・。」
「逃げなさい!生きなさい!!早く!!」
「でも・・・私・・・沢山の人を裏切って死なせたのに・・・。誰も・・・誰も居なくなっちゃった・・・。」
プローチは必死に肉切り包丁を振り回しながら続ける。
「だからこそ生きなさい!生きて贖罪なさい!アナタの罪は消えないけれど、それでもアナタが罪を償う限り手を伸ばす人はいる!愛してくれる人はいる!アタシがその一人になってあげる!だから・・・生きなさい!!!」
ハルはその言葉にようやく立ち上がり、フラフラと逃げ出した。
「無能力者なのに、生意気。」
「アタシはね・・・オカマなのよ!」
「だから何?」
レインはプローチの肉切り包丁を丁寧に避けていく。
力、速さ、防御。その全てを魔力が高めている為、幾ら筋肉質なプローチでも身体能力にら絶望的な差があった。
だが、それでも希望が一つだけプローチにあった。
(アタシは向こうにとって人質・・・!殺す事は出来ないはず・・・そこに勝機はある!)
レインの反撃が甘い理由もそこにある。
下手に手を出して、殺してしまったら。
武器を一つ失う事になるのだ。
「アタシは負けられない!この国の為に動いてくれたあの子達の為にも・・・ハルちゃんの為にも!」
プローチはその想いを叫びながら、猛然と斬りかかった。
「咲希様。お迎えにあがりましたよ。」
「・・・!こっちにも攻めてきたと思ったらお前は・・・―!」
「十道聖・カミラ、よろしくね。」
咲希の残るバーに、色白で高身長の赤い髪の女が現れる。
「それともここで死ぬ?抵抗しなければ、痛みなくイカせられるけど。」
「どちらも断る!」
「困ったわね。勝手な行動をしたビャクシ様と違って私は真希様直々の御命令。あの方の期待を裏切る訳にはいかないのよ。」
咲希は怒りと悲しみの宿った目で、カミラを睨む。
「お姉ちゃんは・・・本当におかしくなってしまったんだな。」
「おかしく?いいえ、あの方は変わらず優しさに溢れてるわよ。ああ、そういえばビャクシ様はそう勘違いを吐き散らしてた事があったっけ。」
咲希は魔力で出来た爪を伸ばす。
「ふふ、可愛い。変身できないのに必死にそんなもの生やして・・・。それじゃあ、多少手荒に連れ帰ろうかしら。」
カミラは両手を広げ、真っ黒な魔力でその身を包んだ。
「変身・首斬蝙蝠。」
二足歩行の、人型に近い蝙蝠がそこに現れる。
「じゃあ、可愛がってあげる!」
「・・・っ!?」
目にも止まらぬ速さでその羽を振るったカマソッツに、咲希はあっさり爪を折られた。
(速い・・・!)
再度、魔力で爪を伸ばしながら、咲希の頬には冷や汗が流れていた。
「時間稼ぎが目的だが、あんたにゃまあそもそも時間稼ぎしか出来ないわな。今後あんた対策もしなきゃ・・・なあ、どうやったら死ぬか教えてくれないか?まあ教えるわけないよなハハッ。」
「・・・・・・。」
「おいおい、返事してくれよ。まるで俺が一人で喋ってる不審者みたいじゃん。」
「・・・・・・。」
「ああ、それとも―」
男は振り返る。
倒れている桃色の髪―漣を一瞥する為に。
「返事する余裕すら無くなったか?おバカさん。」




