209話 急襲
「・・・?」
酒場へ帰って来た舜は、その静寂さに悪寒が走る。
「愛花?漣?雪乃?」
「はい、舜さん。雪乃はここに。」
寒さすら感じる雪乃の瞳が、いつ戦いが起きてもおかしくないことを伝える。
「何があった?」
少なくとも、今ここが襲われてる訳では無いということは判断出来る。
「英雄の子孫からの宣戦布告と―他にも暴れてるのがいます。」
「その言い方だとローグじゃないな・・・?」
「ええ―」
バールームの街道にて
「はっ!動きは悪かねぇがよ!」
「・・・っ!?」
漣は金網に叩き付けられる。
「俺はテメェが勘で動きを変えるのを"見てから"動きを変えられる。後出しジャンケンみたいなもんだ。お前じゃ勝機はねぇよ。」
「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・つぅ・・・!」
漣は既に息が乱れている。
身体中のあちこちが痛み、それでも尚、目の前の男を止めんと睨んでいる。
「ふん、テメェらを知る為にあいつを追ってみたが・・・所詮この程度の奴らか。自惚れも傲慢も何してやがるんだか・・・。」
(・・・!こいつ・・・パーツに蘇生された人か・・・!)
「じゃ、死ねよ。」
漣の首に剣が突き刺さり、更にそれを蹴りで深々と刺した。
炎が舞い上がり、漣が去ろうとした男の前に立ちはだかる。
「・・・大人しく死んでろよ。弱い奴が何度立ち上がろうがイラつかせるだけだろうが。」
「他の・・・人のとこには・・・行かせない・・・!」
漣の意志に応えるように、不死鳥が炎から現れ飛ぶ。
「弱いやつはイラつくがよ・・・力を隠して戦うような舐めたやつはもっとイラつくな。その鳥が何だが知らねぇが・・・それ事ぶちのめしてやんよ!」
「悪いが・・・その前に俺が相手だ。」
「!!」
剣と剣のぶつかり合う音。
「舜くん・・・!」
「雪乃から軽く話は聞いた。・・・久しぶりだな、ライガ。記憶があるかは知らないけど。」
ライガは距離を取り、右目を細める。
「テメェなんぞ知らねぇが、随分・・・イラつかせる顔だ。」
「そりゃいいね。お前の最期に見る顔かもしれねぇんだ、今のうちにイラついとけよ。」
2人の睨み合い。
「その人が自惚れを殺した人だよ。あと分かってると思うけど―殺すなと言われてるのもその人だよ。」
近くの屋根の上から声がする。
「・・・淫蕩も来てたか。邪魔する気か?」
「そうね。今のあなたに必要なものが手に入るとは思えないから。」
ライガは声の方向を睨むが、人影はない。
「だとよ、運が良かったな。」
「大口叩いてた割に・・・逃げる気?」
「ハン・・・その程度の安い挑発にゃ乗らねぇよ。」
そして姿を消した。
(追い付けない・・・な。)
舜はその姿を追うことなく、見送った。
「来てくれてありがと。あの人・・・強いね。」
「こんな事の為に付けた力じゃ無いはずなんだけどね・・・もう1人もどっかに行ったな。多分アピアルだろうけど。」
舜は先程の声がした方をチラリと見て呟いた。
「愛花は?」
「英雄の子孫の方の対応に行ってる!酷かったんだよ!舜くんも見たら分かるはず・・・!」
そう言って漣は舜の手を引っ張り走って行く。
しかし、ある程度走った後キョロキョロと不安そうに見渡した。
「・・・無くなってる。」
「無くなってる?何が?」
「英雄の子孫が見せしめに作ったものがあったんだけどね。あれは・・・なんて表現すればいいんだろ。」
「私に英雄の子孫について情報を教えてくれた人全員の首を、突き刺して見せしめにしてたんです。」
代わりに目の前に降りてきた愛花が答えた。
「戦況は?」
「1人、殺りました。他は姿を表してません。」
回想
『ははっ!小娘が来やがったか。どうだ?お前達の情報がつつにゅっ!?』
ジャンプし両足を軽く折り曲げ、足の裏に魔法陣を作りその魔力で高速で近付き
魔力の出来た剣で顔を横に真っ二つに―
回想終わり
「少なくとも今回倒したのは大したことない強さでした。」
「あと5人・・・。いや、英雄の子孫の勢力が増えていれば分からないか?」
愛花の報告を聞き、今回の標的では無い可能性まで舜は模索する。
ふと、その前に聞かなきゃ行けないことを舜は思い出した。
「愛花、大丈夫?疲れてない?」
「―はい、大丈夫ですよ。舜兄と共に戦えます。」
「頼もしいよ。でも・・・一旦プローチさんの所に戻ろうか。」
舜は踵を返して、歩き始める。
こちらの情報が割れていて、こちらは情報が少ない。
舜は考えながら、奥の手を使うかを悩んでいた。
ある建物の中。
「チッ・・・雑魚が英雄なんざ目指すから。誰よりも弱かった癖に・・・。」
「だけどあいつは良い奴だった。英雄に最も憧れ、英雄のために怒り悲しみ、そしてこの国を良くすることに関しては人一倍だった。」
「だから・・・だからこそ嘆いてるんだろうが・・・。」
仲間の死を確認した彼らは、思いを口々にする。
「・・・ただいま。」
「帰ってきたか・・・!あの酒場の連中の首を渡せ!」
「・・・取れてない、かなり守りが厳重だったし・・・ミャクオン死んだの、分かっちゃったから。・・・あのまま戦う気には、なれなかった。」
「・・・忌々しい連中だ。仕方ない、反対派の奴らを殺して俺たちは本気だということを分からせてやるか。」
「なんだ・・・。」
「なんで・・・頭の中で女の声がする。」
「分からない・・・。」
「僕がやりたいことは何か、君が誰なのか。」
「ああ、でも1つ思い出した―」
「ここは僕の故郷で―」
「僕がヒーローになろうと決心した地なんだ・・・!」




