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愛の歌  作者: Dust
9章
212/229

208話 遺された意志

1度考え事を中断して、舜は洞穴の中へ入る。

2人の遺体と、端の方で積み重なった骨。

「その2つはそんなに経ってないな。片方は子供か。」

片隅の骨の方を見ながら、舜は呟いた。

「・・・日記がある。」

「見させてもらうか・・・。」

怜奈から紙を受け取り、舜は中身を読み始める。


情報屋の女からの話を信じ、バールームから逃げ出した

別の国へ逃げられる訳ではない

そもそもバールームを離れるつもりもない

残るもう1人の英雄が到来する

あの英雄もどきとは違い、かつて我らが尊敬した本物の英雄だ

きっと今のバールームの現状を正してくれるだろう

唯一、子孫の中でまともと言えるリダンさんだけが協力してくれた

今もこの穴の前で見張ってくれているが、張り詰めすぎなければいいが



今日も今日とて待ちぼうけだ

食料が心許なくなってきた

かなりの量持ってきたはずだったが、もうそんな時が過ぎてしまったのか

英雄はまだ訪れる気配がない

まさかと思うが、あの情報屋が嘘をついたのだろうか

しかし、彼女から買った他の情報は全て正しかった

今の世の中だ、もしかしたら他のところで世直しをしてるのかもしれない

しかし我らとて、あまり待てない


危険だと分かっていたが、それでもこの国の現状を英雄に伝えるべく

今日、ウーダとシャンが英雄を捜索しに行った

早く我らを助けてくださいと

それと同時に幼い息子を除く、残った5人近くで食料探しも開始した

食べれるか分からない植物、それに貴重なタンパク質として虫

こんなものを食べないといけないが、しかしこれもいつか来るバールームの平和の為に



久々に動物の肉を食べた

息子は食べるのを躊躇ったが、それでも生きる為に食べた

少しやせ細っていたが、それでもありがたい

5人で分け合っても数日分はある

しかし腐敗対策が難しい

ひとまず、涼しい所に置いておくしかないか



仲間がおかしくなり始めている

肉を食べ切ってから、また植物や虫を食べ始めているが

視線がおかしい

私は息子を守らねばならぬ

たとえ何をしてでも



また肉が食べられた

この前のよりも食べれるところは少なかったが

4人で少しずつ食べようと話になった

今まで考える余裕が無かったが、そういえばリダンさんは何を食べているのだろう

いつも洞穴の前にいる気がするが、どこで食材を確保してるのだろうか

お裾分けも考えたが、やめた

今は自分と息子が生き残る分で、精一杯



恐れていた事がついに起きた

英雄様、まだお着きになりませんか

あろう事か息子を食材として見たカーンを何とか拘束した

英雄様、早く

もう、限界だ



にくをたべた

いつのまにかできていたにくを

しあわせだ

わたしはしあわせだ



きがついた

もういっこにくがあることに

だからかりをした

おいしかった

わたしはだいじょうぶ

えいゆうさま、わたしはだいじょうぶ



めのまえにくある

でもたべれない

いきる、ない

さよなら

えいゆう

どうして

さよなら



「・・・・・・。」

舜は2つの遺体を見た。

片方はやせ細った子供で、擦り傷はいくつもあれど、致命傷はない。

一方もう1つの男は、首や腕に多数の引っかき傷と―

頭に何かを強く打ち付けた痕。

「餓死と自殺・・・か。」

舜は日記を閉じてため息をついた。

「何か分かったか?」

洞穴の外から咲希の声がする。

「・・・怜奈、行こう。ここに居てもどうしようもない。」

「・・・うん。」


「もう1人の英雄が来ると聞いて待っていたが、その過程で亡くなったらしい。・・・日記を見るに、最後の死者は2日前だ。」

「・・・間に合ったかもしれないんだな。・・・・・・。こっちのは外傷があった。耳の後ろの所に―」

「それは俺が付けたやつだな。他には?」

「―・・・なかった。・・・他に中には、あの骨とかは?」

舜は少し答えるのを躊躇い、

「狩りをした動物の骨、かも。」

そう答えた。

咲希に本当の事を伝えずに。


「後は・・・英雄が来る?」

「多分・・・復讐鬼の事だ。」

「来るって聞いたと言う事は・・・何者かが私たちを見張っていた?ローグか?」

「分からない。確かなのは情報屋を名乗っていたことと、それが女だったということだけ。」

今の世の中、情報を食い扶持にしてる人はそれなりにいる。

例えば安全な場所の提供。

例えば護衛してくれる人の紹介、または逆に護衛を欲しがってるところの紹介。

だが、それでも知り合いの情報屋の姿がふと思い浮かんだ。


「まあ、誰が情報を渡したのか考えるのは後でいいか。とりあえず言えることは、一旦英雄の子孫の離脱者という宛が外れ、どうするか。」

リダンという名の英雄の亡骸を見て、ふと思う。

中にいる人たちを守る為に、死して尚守り続けんとした。

そして中の人は救いを求め続け、死んだ。

「・・・求めてた英雄の復讐鬼の代わりに、俺がやるよ。俺はただの、人殺しでしかないけど・・・。だから、全員安心して眠ってて。」

そうとだけ言い残し、舜はナチャの石に魔力を込め、プローチの酒場へ帰還した。

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