207話 洞穴を守る怪異
バールームから少し離れた地。
ナチャの石を用い、外へ出た舜、咲希、怜奈の3人が、離脱した元英雄の子孫の1人を探しに散策している。
「洞穴・・・と言ってたよな?となるとあの山は怪しいな。」
「流石咲希!」
「その褒め方はさすがに不器用すぎないか?」
何とか咲希の気分を晴らそうと躍起になり過ぎている舜は言葉に詰まった。
「・・・隊長がここまでやろうと思う程、貴女が大切で必要ということ。」
「・・・・・・っ!・・・置いてくぞ!」
「・・・これが咲希の扱い方だよ。」
怜奈は目を閉じ、髪を風に靡かせ、すました顔で全身からドヤオーラを出した。
「参考になるなぁ。」
「するなんなもん!!」
足速に歩く咲希をしばらく2人は追いかける。
「咲希、ストップ。」
その足を止めさせたのは、さっきまでとは違う冷たい舜の声だった。
「あそこに人がいる・・・が、様子がおかしい。何故かまるで生気を感じないのに、殺気だけが伝わってくる。」
「・・・確かに微動だにしないな。案山子か?」
まだ遠く、小さく見える人影を見て咲希も不思議そうに呟く。
「案山子ならここまで殺気は感じない。・・・咲希、もう少し眺めていて。」
3人とも視力は良好だが、竜族という特殊性からか、咲希は飛び抜けていた。
視力だけではなく、聴覚や嗅覚も人と比べて高い。
そんな咲希に舜は観察をお願いする。
「動かないし・・・音も鳴らさない。じっとしているなんてもんじゃない、微動だにしない。」
「・・・なるほど。じゃあちょっと、仕掛けてみるか。」
舜の前に魔法陣が浮かび上がる。
「そして星々は地に堕ちゆく!」
その魔法陣をぶん殴り―円が衝撃で広がった後、収縮と共に巨大な魔力がビームのように飛んで行った。
「お、おい!敵対するかはまだ分から―!?」
咲希が驚き、感じ取った方向を向く。
「気を付けろ舜!魔力の中を突っ込んで来ている!それとこれは―腐臭・・・!」
視界を覆う魔力の中で、足音が突っ込んでくる。
舜は殴りかかった方とは反対の左手で剣を作り出し―
剣と手斧がぶつかり合う。
両手に小ぶりな斧を持つ、甲冑の男。
顔はお面を被り、全身で見えるところは目元と1部のみである。
そのお面の穴、影から見つめてくる目は、見たものを恐怖させるような、不気味なものに見えた。
「そう、やっぱり・・・死んでる。なにか引っかかるな・・・。」
右手の斧を剣で受け止めながら、左手の斧を振られないよう間合いを詰める。
そのまま剣を消し去り、後ろへ下がろうとする甲冑の相手へ斧が振りにくい距離を維持していく。
「咲希!怜奈!洞穴の中を見てきてくれ!」
「分かった!」
舜の指示に2人は走って行く。
「余所見すんなよっと!」
その2人を見ようと、首を動かそうとした甲冑の男に、舜の左手の掌底が顎へ炸裂する。
顔が上向いたその一瞬、右手で作り上げた短刀を、甲冑とお面の隙間を縫いながら、耳の後ろの突起した骨―乳様突起目掛けて刺す。
そして舜はようやくその懐から後ろへ飛び去った。
「グルルルグァァ!!」
「やっぱ動けるか。血も出てねぇな・・・いつ死んだんだ?」
顎への一撃で脳震盪を狙い、乳様突起への攻撃は平衡感覚が失われるはずである。
脳震盪にならなかったのはまだいいとして、耳の役割の1つである平衡感覚があの一撃で狂わなかった。
(となると動きを止めるには・・・身体の切断だが。いや・・・それよりもしかしたら・・・?)
両手の斧を避けながら甲冑ごと斬り裂けるかどうか。
舜は試す前に、考える。
その時、遠くから声が聞こえた。
「舜!中は数人の死体だけだ!」
「死体・・・。」
甲冑の相手は洞穴の入口のすぐ目の前にいる咲希を見て、怒り来るったように吼えた。
そして突撃していく。
「おい!中の人はみんな死んでるそうだ!何を守るためにお前は死んでもまだ戦っている!」
並走しながら、舜は甲冑の男へ呼びかける。
しかし、その声には一切反応せず、ただひたすら咲希目掛けて走っていく。
「く・・・来る・・・!」
咲希は身構え、その爪を鋭利に伸ばす。
「・・・やってみるか。」
咲希との距離が縮まり、舜は呟いた。
「何故、死人が動いている?死んだ人間が生き返るのはおかしいはずだ。」
ガクンと甲冑が沈んだ。
足が、動かなくなったのだ。
それでも腕だけで何とか前へ進もうとする。
しかし、次第に身体は動かなくなっていき―
「・・・何をしたんだ?」
「おかしな点を指摘しただけ。」
死者は生き返らない。
それは1つの理である。
(そう、生き返るのはおかしいんだ。じゃあ・・・。)
一方でパーツにより生き返った人達がいる。
(パーツはセカイのルールを破れるほど力を持っている・・・?・・・7邪神が関わってる可能性もあるか。)
セイユにセカイと対抗する為に7邪神を集めろと言われた。
すなわち、セカイのルールを破る力が邪神にはある。
(1番考えたくない可能性は・・・。)
(既にこのセカイはルールが機能しなくなり始めるほど・・・何者かによって歪められてる場合―。セカイそのものが手遅れになり始めている場合、か。)




