20話 星はいつも変わらず輝けど
君の眼にはどう映る?
ただ仮面を被ってるだけなのにね。
誰もがみな人によって変える仮面を等しく、ね。
レイガ
前に戦が起こった所と正反対の方角。
仮に四凶がこの前の場所にいるならば、ここまではかなりの遠回りかアウナリトを通過しないと来れない場所。
そこで舜達は山道を歩いていた。
「ここってこの大陸の端なんですよね。」
愛花は遠くにあり見下ろせる海を見る。高いここからは色んなものが見えやすい。小さな集落がいくつか見えるが人はあまり住んでそうにない。
「こっちには来たことが無いんだよね。被害少なさそうって思って。」
舜もその海を眺めながら下の方で異変がないかを確認する。
「お、これ下に降りれるやつですよね。」
魔道具によって作られた機械を見て愛花が言う。
「そうだね、乗ってみる?」
このまま下ったところでこんな場所に住んでる人も少ない。
故に襲おうと思う人もいないだろう。
「しかしガラス曇ってますねぇ。」
「中が暖かいんだろうな。」
愛花が扉を開け中に入り、怜奈も続く。
結露を見ながら、ふと舜は眼鏡を外した。
「・・・?」
何かザワつく。思わず後ろを振り返るが何も無い。
(どうしたの?)
そんな舜に気が付き、イパノヴァが足を止める。
「・・・・・・。」
舜は首を傾げる。
「舜兄ー!動き出しちゃいましたよー!」
声に振り返ると2人を乗せた魔道具が下っていくのが見えた。
「後から行くよー!・・・ごめんな、イパノヴァ。待たせちゃ・・・・・・。」
次の瞬間だった。
まるで雷でも落ちたかのような衝撃。
思わず、振り返り固まる。
禍々しい魔力。それは偃月刀を持ち、漆黒の鎧を全身に身に付け、同じく漆黒の鎧を付けた馬に乗っていた。
「な―」
(危ないっ!)
舜の腕を引っ張り、代わりにそれと相対したイパノヴァは指を口に当て・・・。
そして目の前に信じたくない光景が広がった。
イパノヴァの体はあっさりと偃月刀で2つになり、地に落ちた。
「・・・・・・ぁ―。」
言葉にならない声。イパノヴァの服のポケットから何かが光を反射する。
あのアクセサリーだ。
肌身離さず持っていたのだろう。
「てめぇ―!!!」
舜の中で巻き起こる絶望。激高。そして悲哀。
全てを込め剣で殴りに行き―
現れた怜奈が舜を小脇に抱え坂を降りた。
「待て怜奈!頼む待ってくれ!」
「・・・後で、何してもいい!・・・だけど、それは聞けない!」
怜奈がここまで慌てるところを舜は初めて見た。
あれにまともに挑んで勝てないのは舜にも分かっていた。
だけど。
だけど―
「せめて・・・イパノヴァの遺体を・・・。」
舜は力なく項垂れた。
怜奈の反応からしても舜を助け出せたのがギリギリなのは分かってしまった。
もし、この状況だから外に出ずにいようと言っていれば。
もし、みんなで一緒に下っていれば。
イパノヴァとの思い出がいくつも駆け回る。
坂の終わりであまりにも急ぎすぎた怜奈は倒れ、舜と怜奈は地面を勢いそのままに滑った。
「うわ!どうしたん・・・で・・・。」
愛花は2人の表情、状況を見て全てを察した。
そして上を警戒する。いつ、その相手が降りてくるかも分からない。
愛花は歯を食いしばり、涙を堪えて、今できる精一杯の事をやろうと。
「・・・隊長、ごめんなさい。」
「・・・・・・怜奈は何も間違ってない。・・・間違っていないよ。」
まだ、ここは危険な場所だ。
「・・・一旦、全力で離れよう。・・・安全を確保してから―話そう。」
舜はフラフラと立ち上がる。
そして、3人はその場を後にした。
小さな集落まで来た3人は宿を借り、何があったのかをポツリポツリと舜が語った。
その後、しばらくの沈黙が流れる。
その無言を破ったのは愛花だった。
「四凶・・・だったんですか?」
「・・・あれは、間違いなくそうだと思う。」
怜奈が答える。
「どうして・・・こんな所に・・・。」
愛花の疑問は最もだった。
だけど舜にはその疑問を考えられる程の余裕はなくただただ自責の念に駆られていた。
「舜兄・・・。」
その様子を愛花は心配したがうまく声をかけられず、また静まり返る。
こうして日が落ちた。
夜、舜は眠ること無くただただ座っていた。
何かが闇夜に動いた。
「怜奈・・・どこか行くのか?」
かすれた声だった。
「・・・周りを見てくる。」
「危険だから、ここにいて。」
2人はしばらく黙り込む
「・・・分かった。」
怜奈が折れ・・・次の瞬間舜の意識が無くなった。
「・・・おやすみなさい。・・・せめてゆっくり休んで。」
外へ出た怜奈は空を見上げる。
綺麗な星空がいつもと変わらず輝いていた。
朝。
目が覚めた舜はパッと起き上がる。
辺りを見回すが既に起きていた愛花しかいない。
「怜奈は!怜奈はいる!?」
舜は思わず愛花の肩を掴んで叫んでいた。
「落ち着いてください!外にいますから!」
窓から外を見ると怜奈は外で特に何もせずに佇んでいた。
「・・・ごめん。」
「いえ・・・。私は大丈夫ですけど・・・。」
舜はフラフラと後ろに下がり、額に手を当て、壁にもたれ掛かりながら座り込んだ。
「・・・大丈夫ですか?舜兄。」
「・・・・・・・・・・・・何とか。」
愛花は舜の前に来て同じく座る。
「帰ったら、一緒に悲しんで一緒に泣きましょ。だから―ね?」
愛花は優しく声をかける。
「・・・行きましょ。怜奈ちゃんが安全を確認してきましたし。」
そして舜に手を差し伸べる。
舜はその手を―――取って立ち上がった。
「・・・あ。」
外に出ると怜奈が少し気まずそうな顔をした。
「無事で、良かったよ。うん、無事ならいいんだ。気にしないで。」
舜はそう無理に笑ってみせ、すぐに暗い顔に戻った。
愛花はその舜の横について、ただただ背中を支え一緒に歩いた。
帰り道は酷く長い時間に感じた。
機械を使い、山道を登り、しばらく歩き―。
「・・・あの場所、今は安全かな。」
「・・・うん、大丈夫。」
道中、あの道を通る。
遺体は、無かった。
ただ血で汚れたアクセサリーが落ちていた。
「・・・。」
舜はそれを握って膝から崩れ落ち、手を胸の位置で合わせる。
そしてフラフラと立ち上がって、ゆっくりと帰り道を歩いた。
帰り着いた舜はまず、オーフェの所へ向かった。
報告を、特に仲の良かった彼女に先ずしないといけない。
「・・・オーフェ、今いい?」
ドアをノックして声をかける。
「ああ・・・大丈夫だ。」
部屋へ入るとオーフェはベッドから舜の顔を覗き込む。
舜はオーフェの横まで行き、座る。
「・・・・・・・・・イパノヴァが―」
「待て。・・・言わなくていい。・・・・・・そうか。」
オーフェは少し俯き、そして向き直す。
「・・・今は、詳細は聞かないでおく。それで・・・お前はどうするつもりだ?」
舜はしばらく何も言えず、目を逸らしていた。
「・・・言いたくないなら、いい。言いたくなったら僕はいつでも聞くから。」
「・・・今はさ、あんまり考えないで起きたかったんだ。でも、ずっと考えてる―。」
オーフェはただじっと見守る。
「あれを、あれをどうやったら倒せるか―。」
(・・・四凶の1人に出くわしたのか。)
オーフェはその一言で理解する。
「舜、まずは落ち着こう。」
「・・・止めるつもりなら、多分無理だ。」
「違う、止めはしない。」
オーフェは手を伸ばして舜の頬に触る。
「人が死んだ後、何のために葬式をやると思う?死者のためなんかじゃない。あれは生きてる人間が踏ん切りをつけるためだ。それと同じだ。お前も今、踏ん切りをつけるためにそう思っている。それは何も間違いじゃない。だが―」
オーフェはじっと舜の目を見る。
「だが―落ち着かなきゃ出来ることも何も出来ないで終わる。まずは冷静に、だ。」
「・・・・・・。」
舜は俯く。
「イパノヴァが居なくなって僕は悲しい。だけど、それと同じぐらいお前がこのまま無理をして何が起きた時―僕は悲しいんだ。だから、もし自分だけじゃ気持ちを抑えきれないなら、僕のために抑えてくれ。な?」
「・・・オーフェ。・・・うん、ありがとう。」
舜は少し、落ち着いた様子になった。
オーフェは舜が誰かのために動ける人間だと知っていたのだ。
舜が部屋を出たあと、1人オーフェは呟いた。
「イパノヴァ、もし立場が逆ならお前は舜を止めたか?止められたか?・・・僕は、正しい事をできたか?・・・イパノヴァ、不器用な僕と違ってお前なら―どうしたんだろうな。どうして欲しいんだろうな。あんなに一緒にいたのに、分からない。・・・僕は。」
オーフェは目を閉じ、イパノヴァを思い浮かべる。
「・・・僕は、生きているあいつの事を第1に考えて行動するよ。・・・ごめんな、イパノヴァ。」
そしてイパノヴァの死を乗り越えられないままそれぞれの時間は等しく過ぎていくのだった。
今回は真面目なあとがきです。
メンバー1人死んであのノリはちょっとなぁってなったからです。
最初に言っちゃうとイパノヴァはこの書き直しスタート時に構想を練り直して生まれた、死ぬ事が決定づけられて作られたキャラでした。
ぶっちゃけ死ぬって事しか決めてなく、どういうキャラにしようかなーって最初は特に思い入れもなく作っていたのですが。
構想に練り込み、キャラ像を作り上げ、どういう風に死ぬかを決めて。元々途中までは喋れない設定は誰にでもと決めてたのですが(死因も舜に危機を言葉で伝えられなかったから間に入って死亡予定だった)、それじゃあこの子のことをよく書けないかなと一部の人は聞こえるようにして。
そしたら書いてるうちに凄い愛着湧いちゃいましてこの回書くのにかなり書きたくないなと思いながら書きました。
ヒロイン5人でそれぞれルートあるんですけどどのルートでも死ぬ予定なんすけど・・・この子の6個目も作りたいなぁ・・・ってなってます。
ここからイパノヴァの設定を明かしていきます。
イパノヴァの元ネタになったのは「イパネマの娘」を聞いて静かな人を思い浮かべたからでした。私は基本的に曲を聞いてそのイメージでキャラを作ってます。彼女のモチーフはイパネマの娘です。
で、歌詞の内容知らないなと調べて彼女に日焼けしてる設定が追加されました。歌詞要素は割とここだけです。
名前の由来は「イパネマの娘」から「イパ」、イパネマの娘のジャンル「ボサノヴァ」から「ノヴァ」で「イパノヴァ」です。検索して自分のこの作品しか出てこないオリジナリティに溢れたいい名前だなと少し思ってます。
能力のメルセゲル・イルシャードは単純に自分が静かなら相手も静かにしてしまおうって感じで神話調べてエジプト神話の沈黙を愛するメルセゲルに辿り着きました。メルセゲルに守られながらその膝元で永眠するという話があるみたいで日本語表記の我が膝元で永眠せよはそこから来てます。
・・・イルシャードは何かの単語の何語かです。決めた時のメモが雑すぎてちょっと解読できませんでした・・・。これからもちょくちょくそういうの出てくると思います・・・すんません・・・。確か守護の何語かなんですけど・・・エジプト神話だしアラビア語かな?って調べたら違いそうで・・・えへへ。
いや本当にこの子は幸せにしたいなと思ってます。外伝的なの書こうかな。他の作家さんもこういうキャラいるのかしら?