203話 与えられた選択肢
静かな街並み。
どことなく不気味さが無音と共に到来するような錯覚。
「・・・・・・。」
舜達も自ずと無言で歩く。
何処までも襲う静寂を打ち破ったのは―
「・・・!?今のはあっちから・・・!」
悲鳴だった。
誰よりも先に舜の身体はその聞こえた方角へ走って行く。
(あそこか・・・仕留められるが・・・。)
泣いている子供、倒れている大人。
その周りに2人の男。
敢えて舜はその前に躍り出た。
「・・・なんだ?見ねぇ顔だな。英雄の子孫ではねぇな。」
「何をしている?」
「仕事だよ仕事。こちとらカオス様の命令の元、働いてんだよ。」
舜は少し眉をひそめた。
「・・・命令?」
「そうよ、子供は決して殺さず、その子の前で魔力を使え。やり方は問わん、とだとさ。だからガキ連れてる馬鹿が歩いてりゃ襲うのさ。こんなご時世、こんな国でよく夜を守る人も居ないのに歩くもんだってな。」
舜は少し考えようとしたが―
その前にやるべき事をやる事にした。
「おい、なんだ?こっちのバッグにはカオス様が・・・ギャッ!?」
「・・・っ!?てきたっ!?」
2振りで十分だった。
なんなら片方は加減して殺さずに出来るほど。
「随分・・・警戒がなってないんだな。レベルの低い・・・こんなのが本当にカオスの命令の元・・・?」
舜は疑問を口にしながら、生きてる方の腕を掴み持ち上げる。
「殺さないであげたんだから疑問に答えてもらおうか。」
「やめ・・・痛え・・・離し・・・!」
「その腕、斬り離して欲しい?」
「本当だ・・・本当だよぅ・・・カオス様にそうしろって・・・。俺たちだって四凶様に言われたら断れねぇんだよぅ・・・。」
舜はため息をついてその手を離した。
「痛っ!・・・見逃して・・・見逃してくれるのか・・・?」
「悩んでる。・・・子供の前で魔力を使え、が命令だったんだな?他には?」
「無い・・・!無い、だかりゃっ―」
鋭い一閃が、静寂を与えたあと、鮮血を流れさす。
「じゃあ親殺すのは命令じゃないじゃん。」
(とはいえ・・・こうなるのが予想出来ない男でもない。・・・見逃してた?・・・・・・。)
「舜兄。思ったより敵は多そうですよ。」
「・・・ん?・・・あー・・・。」
さっき一瞬とはいえ大声を出された。
「・・・先にそっち見てきてくれてたの?」
「まあこっち側は舜兄1人でも大丈夫そうでしたし。とりあえず怜奈ちゃん雪乃ちゃんとちょっと錯乱ついでに別のとこに誘導はしましたけど。」
騒ぎは遠くに聞こえてる。
だが見当たらなければ範囲を広げ、見つかるのも時間の問題だろう。
「ちょっとあなたたち。こっちよ。」
男の声に振り向くと、ピンクの服を着た男と、漣と咲希がいる。
「早く来なさい。隠れ家に案内するわ。」
「・・・。」
「早く。」
「え、あ、はい。」
有無を言わせない迫力があった。
坂道を降り、降り、入り組んだ小道。
1件の酒場の中へ入って行く。
「ふぅ、良かったわ。全く、四凶配下に喧嘩売るなんて凄い新人ちゃんね。でも危なかったわ、あと少しで多数集まるところだったから。後先考えなさい、アタシが来なきゃどうする予定だったの?」
「え・・・?いや、普通に全員相手取る予定だったけど・・・。」
ガタイのいいピンクの服の男は景気よく大笑いをした。
「若いわねぇ。そういう無鉄砲な男、嫌いじゃないわ♡」
「・・・・・・。」
「あ、アタシはプローチよ。よろしくね。」
舜は圧に少し押されながらも、気になっていたことを聞いた。
「英雄の子孫・・・とやら?」
「いいえ!違うわ!この酒場はどちらにも属さない人達の隠れ家よ。四凶配下も英雄の子孫も、普通の人たちからしてみたらいい迷惑してるのよ。」
そう言いながら建物の奥の方へ入って行く。
「お、姉さん。いい男連れてきたねぇ。あ、ちょっと化粧崩れてるんじゃない?」
「ヤダ!恥ずかしいわ!」
舜は少し躊躇しながら、それでも聞いて見る事にした。
「聞いていいのか分からなかったんだけど・・・プローチさんの事は女性として扱った方がいいのか?」
「もう!こんなプリティな女捕まえておいて・・・なんてね。どちらでもいいわよ、そんなの!距離が埋まらない方が寂しいんだから、接しやすい方法で接してくれればいいの。ほら、女の心は海のように広いって言うじゃない?オカマの心は宇宙なのよ!」
「宇宙・・・・・・。なら、気軽に接しさせてもらう。」
プローチが化粧を直しに向かってる間、1つのテーブルで舜達は話し合っていた。
「しかしまあ・・・普通に全員相手取ろうとしてたのは相変わらずというかなんというか・・・舜くんなら出来るかもだけど、たまには愛花の心労も気にかけてあげて?」
「・・・ごめん。」
「もう覚悟の上ではありますから・・・どんな道でも少しでも舜兄の負担が少なくなるようお供しますよ。」
「愛花の方が順応してた。」
愛花の返答はあったものの、舜は申し訳なさを感じる。
「舜さん、気にかかることがあるのでは?」
「うん、カオスのつもりになって考えてみたんだけど・・・。」
雪乃の促しに舜は考えてた事を口にする。
「わざわざ門番がカオスの名を伝え俺たちを入れた事、そしてこの国の現状を見せた事。カオスは自分たちのやる事を隠そうとしてない・・・むしろ、それを見せた上で俺たちが協力出来るかの判断を促してる気がするんだ。」
舜は一息つく。
「魔力者は20未満の者しかならない、そして子供の前で魔力を使うよう指示する・・・それで多少の犠牲が出ようとも魔力者を増やそうとしているとしか思えない。その多少の犠牲を、呑めるか、どうか。」
「少なくとも舜の中で結論は出てるんだろ?」
咲希に言われ、舜は頷いた。
「俺は当然・・・呑まない。」




