202話 バールーム
「準備いいよー!」
「よし・・・それじゃあ・・・全てを壊せ、全てを壊すもの!」
横で愛花と漣に支えられながら、舜は折れた左腕に手を当てる。
そしてぐらりと身体が傾き、倒れそうになるのを柔らかい感触が受け止めた。
「・・・ありがと、雪乃。」
「いえ、当然の事ですから。」
背中から支える雪乃に振り向きもせずにお礼を言う。
「今何で判断しました・・・?」
「?いやだって見えてる範囲に他のみんないるし・・・。」
折れてた方の腕側にいて上手く支えに行けなかった愛花は、その発言で少しホッとした。
「痛みは消してないんですよね?」
「うん、折れてたのだけ。どうも自分に使う分には魔力消費が高すぎてね。」
フラフラと何とか支え無しで立てるようなった舜はふと気になったことを小声で聞く。
「・・・咲希、なんか暗くないか?」
「なんかも何も・・・庇われて舜くん怪我させちゃったから凹んでるんだと思うよ。」
漣の答えに舜は少しキョトンとした。
そして少し考えた上で舜は―
「よぉし!左腕完全復活!実質被害0だね!」
痛む左腕を、まるでそんな事ないと言わんばかりに動かしながら、明るく聞こえる声で言った。
(逆効果だろうなぁ・・・。)
(今は逆効果でしょうけど・・・どうフォローすべきかな?)
漣と愛花の思う通り、咲希は声に少し疲れた目を向けて、また下を向いた。
「あ・・・愛花、助けて。」
「今は・・・そっとしてあげましょう。いつまでも弱い所を見せる人じゃありませんから。」
愛花は優しく囁いた。
舜へのフォローはこれで十分で、後は落ち着いた後咲希にどうフォローしようかと愛花は思案する。
その時クラクションが鳴った。
近くに止まった車に、みんなで乗り込む。
「・・・目的地はリティガルに向かう途中にあるバールームでいい?」
「うん、お願いするよ怜奈。」
3列シートの1番後ろから舜は返答した。
その横では魔力供給の為に愛花が手を握る。
「ゆっくり出来る場所ならいいですね。」
「そうだね・・・あんまり大きな国ではないけれど。」
バールームは小さな国である。
別の大陸出身の彼らはそこがどんな国か、殆どの知識がない。
目的地へ向かう車の中で、舜はウトウトといつの間にか眠りについていた。
「着きましたよ舜兄。」
「ん・・・いつの間に寝てた・・・?イテテ・・・。」
「やはり痛むんじゃないか、この馬鹿。さっき動かしまくってたくせに。」
真ん中のシートから呆れた顔で咲希が呟く。
「・・・おはよ、咲希。」
「はぁ・・・なんか・・・。まあ、いつも通りで有難いのか何なのか。・・・遊園地では・・・その・・・ありが・・・と。」
「ん。」
「何をニコニコ笑っている・・・愛花もだ!はぁ・・・言うんじゃなかった。」
そんな事を言いながら、実際は言わない方が苦しむ子だと分かっている2人は更に可笑しそうに笑った。
車から降りると少し離れたところにそんなに高くない柵と、門番のように立ってる人が見える。
「さて・・・入れるかな?」
舜は愛花と一緒にその門番の方へ歩いていく。
しばらくの会話の後、残ったメンバーの方へ舜は戻ってくる。
「・・・入れるってさ。・・・・・・。」
「どうしたの?舜くん。」
「カオスから入れるよう言われてるんだってさ。・・・そして、ここはカオスの派閥とそれ以外の派閥で若干対立してるっぽい。どうする?このままリティガルに直接向かうのも有りだけど。」
「ここに用事が無いのは確かだけど・・・ちょっと気掛かりだよね?対立って、一体どんなものなのか。そのカオスとやらと協力するかの判断にも繋がるかもだし。」
漣が真っ先に質問に返す。
「そう・・・だね。気になりはする。・・・他のみんなは?」
「・・・どちらでも。・・・多分この3人はあなたの意見を尊重するよ?」
怜奈の発言に咲希は頷き、雪乃は結論が出るのを静かに待つ。
「・・・それじゃあ、とりあえず入ろうか。休めなさそうならその時さっさとリティガルに行けばいい。」
そして全員でバールームの中に入って行った。
「想定通り、バールームに入ったそうです。」
「そうか、下がって良いぞフーロ。・・・さて、久しいな。」
「挨拶は不要だ。お前が呼んだのであろう、要件を話せ。」
ロジクはぶっきらぼうに言った。
「近々奴らに仕掛ける気であろう。そんなお前に1つ、忠告をしておこうと思ってな。」
「忠告?」
・・・・・・
・・・・・・・・・
「では、サラバだロジク。」
「ああ、恐らくもう会うこともないだろう。忠告は感謝する。・・・お前の事だろうからお見通しだろうがな。」
「・・・・・・。」
咥えていた葉巻を手に、去っていくロジクを見つめながらカオスは一息つく。
「―全ては、人類の為に。」




