196話 その想念―自惚れ
「クソがっ!」
腕を斬り落とされたオウコツはその巨体を後ろ足で持ち上げる。
「おー・・・その身体だとここから踏みつけも出来るんだ・・・。」
予想だにしてない行動にどう対応するかなと舜は呟く。
視界の端で影が動いた。
「掴まって!」
その声に舜は視線を動かさず、ウプウアウトの毛を掴んだ。
ズシンと地響きが鳴り響く。
「チィッ!さっきからちょこまかと!」
反撃が空振りに終わり、オウコツは激昂する。
「寄生虫ゥ!腕を治せ!」
オウコツが叫ぶと、斬れた片腕が黒い複数の飛行体となり、オウコツの腕目掛けて飛んで行く。
「火雨」
その方向を遮るよう現れた漣の周りに火の粉が舞い、その飛行体へと襲いかかる。
「邪魔だ!小娘!」
その漣を吹っ飛ばそうとオウコツは巨大な腕を横に振るう。
「させないよ!テイル・クローバー!」
ウプウアウトは三叉に別れた尻尾をメイスのように、その腕を食い止める。
「止められないのは斧だけでしょう?」
「な・・・ガァッ・・・!」
「紫電一閃!」
ガクンとオウコツの身体が低くなる。
「面倒な動きされるかもだから、後ろ足は貰ってくよ。」
「貴様らァッ!」
「うわっと。」
オウコツは前足だけで身体を持ち上げ、シッポのようにグルンと振るった。
「おせぇんだよ寄生虫ゥ!」
それを躱させる隙をつき、残った片腕で飛行体をまとめて掴んだ。
「延!焼!」
まとめて掴んだことで、漣によりそれぞれに与えられてた小さな火種が、大きな火となり襲い掛かる。
「アチィ!クソ!離れろ寄生虫!」
しかし、飛行体は元に戻る事しか考えてないかのように火を纏いながら斬れた片腕になろうとする。
「火のように揺れ動く魂よ!」
ウプウアウトの周りに複数現れた蒼い小さな炎が、ゆらりとオウコツの元へ。
ウプウアウトが吼えると共に、その炎はそれぞれの炎と、そして漣の炎と混ざり―
オウコツの巨体はより大きな炎に包まれた。
「どう!?」
「・・・動かないね。」
燃え盛る炎を見ながら、漣とウプウアウトは様子を見守る。
「・・・まだ!」
確信めいた様子で漣は槍を構える。
「クソ・・・何故だ・・・俺様は最強なんだ・・・最強の俺様がこの程度の攻撃で押されていいはずがない。」
「なんかまずい気がするね!」
炎と煙でオウコツの姿は見えない。
「ちょっと熱そうだけど・・・これで貫く!切り開く閃光!」
助走をつけて、駆け出したウプウアウトの身体が光となる。
そして光速で炎の中へ突っ込んで行き―
弾き飛ばされた。
「あ・・・く・・・。」
そのまま受け身も取れず地面に叩き付けられる。
「そうだ・・・最強の魔力者である俺様に・・・魔力の攻撃が通る訳が無い。」
炎が弾かれるように消える。
「・・・!」
オウコツはその見た目を変えていた。
シルエット自体は人型に戻っている。
しかしその身体は隙間だらけであった。
見えている内部の燃えている心臓から黒い棒が繋がっており、その黒い棒が人の形になるようゴチャゴチャと繋がっている。
頭は肉食動物の頭蓋骨のような形で、目は青く燃えた炎がそこにある。
「はっ!無駄だァ!」
「っ・・・!」
身体が見えた瞬間に首目掛けて斬りかかった舜の剣が、折れた。
(この細さで・・・ビクともしない・・・。)
「言ったよなァ!?」
鈍器のように下から上へ舜の腹目掛けて殴りつける。
舜の身体は遥か上空へ吹っ飛んだ。
「俺様に魔力の攻撃は通用しねぇ!」
そしてその場で両腕を上から下へ振り降ろした。
遥か上空にいる舜の身体が、上からの衝撃で下に撃ち落とされる。
落ちると同時にクレーターが出来た。
「・・・っやぁ!」
その声と共に、横から槍が身体の隙間をすり抜け心臓目掛けて刺し穿たれた。
「やっぱりダメ・・・!?」
「何度も言わせるなよ。テメェらの魔力じゃァよォ!」
グチャリと上から漣の身体を潰す。
「意味ねぇんだよ!オラ、苦しめ!」
炎になる漣へ、自身の魔力の炎をぶつける。
炎はあっちこっちへフラフラと舞いながら、別れては集まりを繰り返すだけで漣の身体に戻らない。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
恐怖からか叫びながら、咲希が攻撃しようとする。
「さっきまで見てるしか出来なかった雑魚がよォ!適うわけ・・・あん?」
顔も向けず、裏拳で終わりにしようとしたオウコツが、その腕を止められた。
「しぶてぇなテメェ。」
顔を向けると、先程地面に打ち付けてやったはずの舜が咲希の前に出て、その裏拳を両腕をクロスして受け止めていた。
「スゥ・・・邪魔だァ!」
「なっ!?」
「きゃぁ!?」
その舜を咲希ごと、叫んだだけで数十メートル吹っ飛ばす。
「フハハハハハハ!見たか!俺様こそが最強なのだ!!」
オウコツの強い想念が、力となって顕現する・・・。




