195話 自惚れVS殺し合いの天才
肉体が、骨格ごと変化していく。
身体が巨大になっていく。
高さだけで10mはあろうか。
ドシンと音を立てて新たに出来た後ろ足が地に着く。
「グガァァァァァァァ!!!!!」
肌は血のような赤紫に染まっていた。
長い四足歩行の動物のような胴体と、その上にある人としての胴体。
「ふぅぅぅぅ・・・良い気分だァ・・・俺様の力は!」
失われていた片腕も黒い腕が新しく生えてきている。
その両手に巨大な斧を持つ。
「ハッハッハ!俺様は怯えてる小物を見るのが大好きなんだ!だけどよぉ、それ以上によぉ!」
オウコツの魔力が高まっていく。
「いたぶるのはもっと好きなんだよォ!!!」
(これ喰らったらマズイ・・・!!)
漣は横っ飛びをし、すんでのところでそれを躱す。
「キュキュッキュッ!」
その斬撃からアトラクションを守るよう飛び出た使い魔がぶつかり―
大きな魔力の渦が発生し、跡形もなく消えた。
(あれを喰らったらあの魔力で暫く復活を妨害される・・・!でも!)
今ここで食い止められるのは漣しかいない。
しかし躱しながら戦うのでは、結局被害が大きい。
(あれを何とか早く処理・・・私に出来る・・・?ううん、やらなきゃ・・・。)
漣が覚悟を決めた時だった。
「なんだぁ?あの動物は。」
オウコツの視線に漣が振り返ると3m位のオオカミが走ってくる。
そして1人の影がそこから飛び出した。
数分前。
「待って待って!私に争う意思はないって。」
「誰だと聞いた。」
「私はビャクシ、竜族の生き残りの1人、真希様と一緒に行動してるんだ。で、ちょっと前に真希様が咲希ちゃんに・・・わっと!」
大きな音が鳴り響いた。
次の瞬間、ビャクシと舜は外に飛び出る。
「観覧車が壊された・・・!?」
「・・・氷?雪乃もそこに居るのか。」
壊れた観覧車は氷で動きを止め、被害は思いの外小さい。
しかし、壊した何者かがそこに居るはずである。
「・・・・・・。」
舜は悩んだ。
その場に駆けつけるべきなのだが、しかしそれはこの場に咲希と得体の知れない相手を残す事になる。
しかし、その悩みはビャクシの言葉で解決した。
「行きましょうか、一緒に。」
「お前の仲間じゃ無いんだろうな?」
「まさか!じゃあ・・・私に乗ってちゃんと捕まっててね。」
乗る?と舜が訝しんだところで、ビャクシは魔力を高め叫んだ。
「変身!切り開きし軍神!」
蒼い魔力に包まれ、蒼銀の毛のオオカミが現れる。
『さあ!2人とも乗って!』
凄まじい速度で駆けたウプウアウトは、辿り着くと共に急ブレーキをかける。
「わわっ!わぁぁ!!」
何とか振り落とされないよう必死に咲希はウプウアウトを掴む。
その一方でブレーキの勢いを利用して1つの影―舜がオウコツへ向かって飛びかかっていた。
「地衝烈牙!」
「無駄だ!たかが脆弱な存在が何をしようとも!」
舜の知る強大な技が、あっさり斧に掻き消される。
「やはり俺様こそ最強!虫けら共がいくら集まろうが無駄だァ!」
そして右手の斧を地面に向かって振り下ろす。
(力の使い方・・・暴れるバケモノ退治なら、遠慮なくやれる・・・!)
自身の力を恐れず、己の信じる方向へ。
「な・・・何!?」
その剣は受け止められるはずのない斧と鍔迫り合った。
「・・・良かった、舜のやつ、悩みは無くなったようだ。」
その姿、表情に苦悩の様子が消えてる事からホッとした咲希の横で、漣は悲しそうな表情で舜を見ていた。
「ダメ・・・それは・・・・・・それじゃあ多分いつか―」
漣は上手く言い表せない不安でいっぱいになった。
「私が・・・ううん、私たちが支えれば―それでも・・・。」
「漣?」
「この俺様の力は・・・絶対のはず!貴様ごときが俺様の力に歯向かうなど、許せん!」
オウコツは鍔迫り合いしてない反対の斧を振るおうとするが―
素早く駆けるウプウアウトが、その斧の柄を噛み砕き、その腕に引っ掻き傷をつける。
「チッ!小賢しい犬っころが!だがよぉ!」
オウコツは必死に魔力を込める。
「まずはこいつから押し潰す!四凶最強の俺様相手にここまで粘れたのだけは誇りながら死ぬといい!」
「―最強?お前如きが?・・・・・・クロムの一撃の方が何十倍も重かったぞ。」
「ほざけ!」
魔力が右腕に集まる一瞬を舜は見逃さない。
「纏魔・原点。」
舜のその瞳が赤く染まる。
「うぉぉぉらぁぁ!!!」
「何ぃ!?」
そしてありったけを込めたはずのオウコツの斧を力だけで弾き返した。
「寄生虫ゥ!俺様の全てを返せ!」
とっくの昔に、生前のオウコツより強くはなっているのだが。
負けを認められないオウコツは叫ぶ。
「もっかいやる?負けないけど。」
「グゥォォォォ!!!」
オウコツの右腕がさらに肥大化する。
「舐めるなクソが!!」
そして舜の剣目掛けて横に振り払い―
鍔迫り合いで負けたから、勝とうとしたのがいけなかった。
それは綺麗に空を舞い―
くぐり抜けるよう前に走った舜に懐に潜られ―
足に魔力を込め跳び上がった舜に、まるで生前最期の戦いを彷彿とさせられるように片腕を斬り落とされた。




