191話 そして1人は対峙する
「・・・ここは。」
1面黒の室内。
後ろの気配に舜は振り向く。
白銀の羽、細長い尻尾と髪に隠れた耳元から伸びる双角。
女性の姿をしているが、間違いなく人外の姿が近付いてくる。
「・・・やっぱりただの遊園地の訳はないか。・・・何の用だ?」
「被害に遭う前に危険人物に逢いに来ただけよ。」
「危険人物・・・ねぇ。」
何を指して危険としたか、舜は彼女をじっと見る。
「使い魔ちゃん達から聞いてるわよ。貴方、使い魔ちゃん達に殺気を向けたわね。まあ・・・今も私に向けているけど。」
「殺気・・・?・・・あっ。」
回想。
少し前の舜(何か隠れてる・・・襲うつもりか?)
愛花「キャー!」(舜兄!ここお化け屋敷ですから!お化け屋敷ですから!!)
舜(・・・そっか。・・・あそこに何かいるな?来るなら・・・たたっ斬る・・・。)
愛花「キャー!」(舜にー!!!)
回想終わり。
「それはごめん!ほんとにごめん!!」
「謝った!?え?・・・え?謝った・・・?」
「こう・・・隠れてこちらを窺われると敵か?ってなって・・・。」
「こっわ。お化け屋敷より怖いものが入ってきたって訳?」
パチンと指を鳴らす。
机と椅子が現れた。
「ま、座って話そうか。貴方のこと信用し切った訳じゃないけど、嘘はついてないから。嘘であっても良かったと思う内容だけど。」
「・・・そうだね、申し訳ない。」
2人は椅子に座った。
「改めまして自己紹介。テイパーよ、見ての通り魔族。」
「舜だ。・・・一旦人間って名乗っとこうかな・・・?」
「何それ。ま、警戒され過ぎてても目的は達せないしここの説明をしておきましょうかね。」
目的と聞いて、舜は彼女の目を真っ直ぐ見つめ直す。
「私たちはね、生物の感情を食事にしてるの。食事と言っても、私たちが食べたからと言ってその人から感情を奪う訳じゃないのだけどね。向こうの世界じゃ恐怖とかばっか食べざるを得なかったのだけど、たまたま開いた空間に飛び込んできてこっちに来たの。」
「感情・・・じゃあこの遊園地は楽しんで貰う代わりに食事を提供してもらおうって魂胆?」
「そう!人間って素敵だわ、美味しい楽しいって感情をポンポン置いていく。・・・全く人が来ないけどね。なんでかしら?」
心底不思議そうに言う。
「立地だろ?近い国からでも結構離れてて、昨今の情勢じゃ周りに誰もいない場所に行きたくないし。」
「そんなもんなのかしら?せっかく広大で安全な場所だったのに!誰も居ないってことは敵もいないって事じゃない。」
「その理屈も分からなくもないけど・・・誰も居ないからこそ襲われても咎める誰かが居ないとも言えるからね。あと交通の便がないでしょここ。車で結構走ったよ。」
ふんふんとテイパーは興味深そうに聞いている。
「次は貴方の話。貴方、何かが突っかかって楽しめてないでしょ?食べ飽きた殺意以外、何もくれないもの。」
「楽しめては・・・ないな。警戒してたのはあるけれど・・・。」
「任せなさい。貴方の心の突っかかり、可視化してあける。」
テイパーは手のひらを舜に向け、魔力を使う。
「私の能力は何かを形作る事。この遊園地も結構時間かかったのよ?・・・出てきたわ。」
「・・・これは・・・昔の俺?」
ゆっくりと創り出された舜は目を開ける。
まだ子供の姿の舜が、黒い瞳で舜を睨む。
瞬間、舜は目が燃えるような感覚に陥った。
その両の瞳が赤くなる。
黒の瞳と赤の瞳がぶつかり合う。
「・・・あら?・・・下がってた方が良さげね?」
テイパーは何か不穏な空気を感じてそそくさと下がった。
「どうして?」
子供の舜が口を開く。
「何が。」
「どうして・・・死んでないの?」
「・・・・・・。」
2人は同時に剣を構えた。
「死なんか望んだつもりは無いが。俺の背負ってるもん、全て捨てろと?」
「最初に背負ったその人を捨ておくつもり?」
それは存在していいはずが無いもの。
「最初?」
「同じ痛みを知って、同じ境遇にあって、同じ心を持った。一緒に寄り添って永遠に眠るだけで救われるのに。」
1つの身体に全く別の他人の人格が入り込んだ。
「復讐鬼か。・・・それを望むとは思えないけど。」
「あの人には寄り添う人が必要なんだ。」
2人とも舜ではあるが、全くの別人の舜同士である。
舜の復讐鬼含め3つの人格が、存在している。
それは許されない事である。
後から魔力を経由して与えられた復讐鬼と違い―
どちらかが消えるべき舜である。
そうでなければならないのだ。
「ね、優しい人。この前は抗ってしまったが故に・・・今こうなってしまった。あの時、殺したくない一心で振り切ったから―こうなってしまった。」
心の中で229号が囁く。
「あの子が何で、何故消えるべきなのか・・・または消えるべきはこちらなのか。ちゃんと答えを出してね。」




