190話 Have fun!
「すごいすごい!ジェットコースターなんて初めて乗った!」
はしゃいで帰ってくる漣に舜はほっとする。
「あ、そういえばスタンプ押すとこなかったな?・・・あれ!?」
漣は駆け寄りながらスタンプラリーの用紙を見せ付ける。
「スタンプ!押されてる!」
「・・・出口はどう見えてる?」
「んーっと・・・ある!!!1回出入りしてみようか?」
「そうだね・・・頼むよ。」
漣はそのまま壁へと走っていき―消えた。
程なくしてまた現れ、走って帰ってくる。
「普通に出れたよ!」
「そうか・・・。え?これ何目的で閉じ込められてんの?」
舜は首を傾げる。
「舜兄、これで出れるのであれば私たちも楽しみましょ!」
「まあ・・・下手に別の手段をとってややこしくしても仕方ない・・・か?」
「やった!じゃあ一緒に回りますよ!」
愛花も漣を見て羨ましかったのか、舜の手を取り引っ張っていく。
その姿は10代のあるべき姿なのかもしれない。
そう思った舜は―
「もし・・・世界が平和なら・・・こんな世界じゃなかったら・・・こうやって遊んで楽しむのが当たり前の一部になるのかな・・・。」
ポツリと呟いていた。
「―楽しい事だけ見て。やりたい事だけして。たったそれだけなのにどうしてこうも難しいんでしょうね。楽しい事ややりたい事のための苦労なら簡単に乗り越えられるのに・・・現実はそうじゃない。」
「・・・うん。凄く、わかるよ。」
愛花は足を止め振り返る。
「ね、舜兄の幸せってなんですか?」
「幸せ?・・・なんだろう。」
「やりたい事でもいいですよ。」
愛花は優しく舜の目を見つめる。
「何がしたい・・・とかで動く事は少ないかも。その時その時で想ったから動くというか・・・その時にそうしたいと思ったから、が近いと思う。後悔することも多いけど・・・次は後悔しないようとか考えたりもするけど、結局はその時その時の最適解を探すというか・・・。―こう、考えてしまってる時点で違うのかも。例えば・・・そう、きっとこんな風に考えなくていいような・・・何気ない1日こそが俺にとって幸せなんだ。ただ誰かとどうでもいい雑談したりとか、きっとそんな1日が。」
「つまり!私が傍に居ればいいと!愛いやつめ!」
「そうなるね。」
「ちょっと!認められると照れるんですけど!」
一通り話したあと、愛花はまた手を引いていく。
「それじゃあ楽しみましょ?2人の何気ない1日を、一緒に。」
「じゃあ・・・目指すはアトラクション制覇?」
「お、やったりますか?お供しますとも!」
少しは舜の顔色はマシになっていた。
「それじゃあ最初は〜あ!お化け屋敷ありますよ!」
「ふふ、悪いけどそう簡単に怖がったりは出来ないが・・・お手並み拝見だね。」
「キャ〜!」
何か出る度に愛花は舜に抱き着く。
それは傍目から見たらイチャイチャしてるカップルだろう。
そしてお化け屋敷から出たあと、2人は若干疲れた様子でベンチに座った。
「・・・ごめん、愛花。」
「いえ・・・その・・・仕方ないですよ・・・。」
舜の今まで歩んできた人生において。
隠れたところから急に姿を表す=殺しにかかってくるという認識が出来上がってしまっており。
何か出る度に当然のように一撃を入れようとしてしまう舜を、愛花が必死に抱きついて止めていた。
「めっちゃ怖くなったよ・・・俺自身のことが・・・。」
「少しずつ・・・少しずつ普通の生活ができるようなりましょう・・・!」
せっかくマシになった顔色がまた暗く沈む。
「次!次は別の乗りましょ!ほらこのジェットコースターは落ちるところの写真撮れるみたいですよ!」
幾つかあるジェットコースターの内、1つに愛花は引っ張っていく。
「キャー!!」
「・・・・・・。」
乗り終わった後、2人で写真を除く。
「・・・・・・えっと、これ楽しんでます?舜兄。」
横で完璧な笑顔で撮られてる愛花と違い、普通にしてる時とおなじような表情で写真が取られてる。
「その・・・昔使ってた魔道具での訓練思い出しちゃって・・・落ちながら剣を捌いてくやつ。」
「・・・・・・次!」
回転ブランコ。
(高速での移動・・・周りの確認を如何に怠らないか・・・高所だから見える物も多い・・・。)
バイキング。
(揺れ動く物体の上でどれだけ普段通りに動けるか・・・。)
・・・・・・・・・・・・。
「・・・ごめん・・・ほんとにごめんなさい・・・。」
2人のスタンプはまだ押されていない。
「謝らなくていいですよ。・・・・・・。」
(愛花のも押されてない・・・明らかに俺のせいだよなこれ・・・。)
(分かってはいたけど・・・殺し合いがあまりに生活に根付いている。・・・それだけ、過酷で悲惨な道を進んで来たって事なんですよね・・・。何とか・・・せめて今だけは楽しめる何かを・・・。)
2人はお互いの事を想い、黙り込む。
そこにピエロが近付いてくる。
舜目掛けて指を指し―。
「・・・!舜兄!?何処に・・・ピエロも消えた・・・!?」
舜とピエロが消えた。
「ちょうどよかった。愛花ちゃん1人だね。」
「・・・雪乃ちゃん!今舜兄がピエロに―。」
「そっちは大丈夫だよ。ちゃんと見張れてる。」
ゆっくりと軽い笑みを浮かべて近づいて行く雪乃の表情は見てるだけで背筋を凍らせるような感覚に落ち入れさせた。
「ねぇ・・・愛花ちゃん・・・。あなたはなんで・・・嘘をついたの?」




