187話 愛は奪うもの
(流石に速い―!)
舜がナチャの石を握ると同時に、隙と言わんばかりにクロムが詰める。
(ナチャは間に合わない―!)
舜は新たに剣を創り直し、石を握ってた反対の手だけで防ごうとする。
剣がぶつかり合う音。
「・・・何のつもり?淫蕩。」
「アピアル・・・?」
その間に、アピアルが入り込み2人の剣を自身の剣で止めていた。
「その人は殺すなって話、でしょう?」
「あの人間はアレにそれを交渉したってだけで・・・私は関係ない。」
「アレに生き返らせてもらったのに?・・・アレの気分次第では死ぬのに?」
「その時はその時。今、この人以上に私の優先するべきことは無いよ淫蕩。」
アピアルは見向きもしないまま、片手を伸ばす。
「愛は奪うもの。」
「・・・!何をしたアピアル!」
その手の方向にいたのが少女だと気が付いて舜は叫ぶ。
「流石のアピアルちゃんとあなたでもこの3人同時は厳しいからね。3人目を使わせてもらう。」
「3人目・・・?」
「おい嫌気。ワーキャーやってるがそいつは俺の標的でもあるのを忘れるなよ。」
「私たちの戦いに入って来れないあなたごときが偉そうにしないで、金銭欲。」
「おう、俺は欲そのものだ。だからそいつの命が狙える絶好の機会を待ち続ける・・・最後に取られても文句を言うなよ。」
クロムとシェフティが睨み合う中、アラタが腕を構えた。
「この世の悪は・・・消さねばならない。」
その標的は再び少女である。
「チッ・・・!」
「大丈夫よ、そもそもあなたは忘れてるかもだけどね?」
アピアルは武器を霧散させ、もう戦いが終わったかのようにウインクした。
「その子、あのセイユの妹なのよ?義理だけど。普通じゃないのは当然でしょ。」
「・・・待て!アピアルはセイユの事を・・・!?」
次の瞬間、巨大な魔力が少女の元から感じられる。
「・・・!何が起きてるんだよ!!」
思わず叫ぶ舜に答えるものは何もいない。
「私は・・・エルオール・・・この国の意思・・・私の国に仇なす者は・・・全てきえろ!!!」
そして爆発のように白い魔力が国を覆った。
(なんだ・・・!?空!?落ちている!?何が起きたんだ・・・!)
舜は今の状況を理解しようとしながら受身を取ろうとするが―
何者かに抱き寄せられた。
「・・・。」
「・・・・・・ふふ、そんなに見つめて惚れちゃった?」
ストンと降りたアピアルにお姫様抱っこされたと気が付くのに3秒かかった。
「・・・とりあえず降ろして。」
「はいはーい♡ねね、腕に当ててたんだけどどうだった?」
「・・・・・・。」
降ろしてもらった舜は頭に片手を当てる。
もはや何がなんだか分からない。
「お前は・・・どこまで知っている・・・?」
「そうねぇ・・・とりあえずエルオールちゃんの事は知ってたでしょ?あとあの蘇生組も知ってて・・・今エルオールちゃんが何をしたかも知ってる。」
「・・・全部教えて。」
「あなた達がパーツと呼ぶ存在。アレが強い想いを持った8人に自身の魔力から生み出した生命体を植え付けてる。それが蘇生組。エルオールちゃんは本人も言ってたようにこの国の意思そのもので、セイユがここに辿り着いた時に世話をしてたら同じく理を外れた存在。で、エルオールちゃんは今私たちをこの国から追い出して二度と入れないようにした、ここまではOK?」
舜は黙って聞いていたが、ふと気になったことを口にした。
「なんでアピアルは知ってるんだ?」
「愛の伝道師だから!」
理由になってない言葉に舜はその答えを諦めた。
「もうエルオールには入れない、か。とりあえずみんなに連絡しなきゃ・・・。」
「あ、愛花ちゃんにしてあげて。あの子、他の人が急に消えて慌ててるだろうから。」
「・・・・・・。」
舜はアピアルを怪訝そうに見ながら、言われるがまま愛花に電話をした。
「あ、舜兄!今目の前で怜奈ちゃんが消えて・・・!みんなも居なくなってて・・・!」
「・・・えっと、説明すると長くなるんだけど―。」
舜は魔力によってこの国から追い出され、更に入れなくなったことを伝えた。
「みんなも・・・それに巻き込まれて・・・?」
「多分・・・むしろ愛花だけよく巻き込まれなかったな。」
「えっと・・・とりあえずみんなの荷物まとめて向かいますので外で合流しましょうか。」
「分かった、俺はその間に他のみんなに連絡しとく。」
電話を切って、溜め息をついて・・・。
「・・・アピアルが居なくなってる。・・・・・・。」
もう聞けることも無かったかもしれなかったが、それでも事情を知ってる人であるだけに居なくなったことに再び舜は溜め息をついた。
「さて・・・淫蕩の裁判だが・・・。」
「新しく入った奴がどっちに入れるかだったな。さっさと終わらせようぜ。」
「ふん、あの男を殺す絶好の機会を奪った、反対だ。」
ドスンと1人の隻腕の大男―オウコツが降りてくる。
「決まりだ、俺様が殺してやる。」
「待て―。」
「あん?何だ?悲嘆。」
「あの時は反対したが・・・俺が賛成に入れさせてもらう。好き勝手暴れようとした3人を止めた、それで十分だ。」
オウコツは裁判中ずっと妖艶な笑みを浮かべていたアピアルをきっと睨んだ。
「・・・だとよ。運の良い奴だ、今は殺さないでやる。」
そして大声で笑い出した。
「しかしあの嫌気を一度は殺し、今度は無傷で逃げ帰っただ?おもしれぇじゃねぇか。そいつを殺せば俺様の強さも分かるってもんだ。誰も邪魔するんじゃねぇぞ!今度は俺が殺しに行く!」
「自惚れそれは―」
止めようとする悲嘆と呼ばれた影をクロムが制する。
「いいんじゃない?あんた如きに負けるとは思えないし。」
「言ってろ雑魚が。俺様が1番強いってのを分からせてやる。」




