表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の歌  作者: Dust
7章
190/228

186話 足りうる力、足りない何か

「お待たせしました!」

「待ってねぇ。」

教会で、少女は果物の入ったカゴを手にニコニコで人影に近付いていく。

「ここに居るのであれば待っていたとみなします!」

「泊まるとこが無いだけだっての・・・まったく。」

人影のお腹が鳴った。

「お腹の口は正直ですね!」

「チッ・・・さっさと寄こしやがれ。」

人影―ピュラが影から姿を現した。


「明日もまた来ましょうか?」

「言っておくが何時までもここにいるって訳でもねぇからな。」

「そういえば目的をまだ聞いてませんでしたね?」

ピュラは少し考えた後、意地悪く笑った。

「人を殺しに来たんだ。分かったら会うのは最後にしときな。」

「いけません!あなたはそんな人ではないはずです!」

「私の何を知ってんだよ何を。」

「目を見れば分かります。あなたの良心が。」

ピュラは舌打ちをした。

かつて似たような事を言われたのを思い出して。

その言ったアラタはピュラの復讐の邪魔をするだけして、なにかに飲まれて消えた。

「余計なやつの事思い出しちまったじゃねぇか。腹が立ってくる・・・。」


「あん?」

ちょうどその時、教会に1人男が入ってくる。

「あいつ・・・!?」

それはちょうど思い浮かべていた人物と同じ姿をしていた。

雰囲気が禍々しい。

「なんだ?随分殺気立ってるじゃねぇか。―あの時お前を攻撃した私を、探して来たか?」

ピュラは真っ直ぐ向かってくるアラタに身構えながら声をかける。

「変身―!アガートラーム!・・・悪を排除する。」

「悪たぁ、そいつはいいなぁ!正義のヒーロー様は悪を殺すために悪と同じく暴力を使うと来た!・・・っと!?」


アラタは腕からマシンガンを放つ。

物陰から物陰を走りながら避けるピュラを弾幕が追いながら。

「周りの被害も考えられず何が正義だクソヒーロー!」

割れたガラスが散乱し、柱には傷が付き、木製の机などもいくつも壊れている。

マシンガンが止むと同時にピュラは立ち止まり魔力を込めた。

「纏魔・・・!?」

ピュラは時間が止まったかのように錯覚した。

纏魔を使おうとした彼女の目に映ったものは―

アラタが再度構えた腕を見てだった。


その腕はピュラを捉えておらず―


始まった戦いに震えながら小さくなっていた少女へ―


ピュラは血が熱くなっていくのを感じた。

(何をしようとしている!そんな小娘放っておけ!)

(お前はあの男を殺すだけ、それ以外は要らぬものだ!)

怨念が彼女を掴み、纏おうとする。

ピュラはそれを―


「テメェ!!!」

振り切った。

彼女の身体はその腕に掴まれるより先に少女の前へ。

そして、その背に何発もマシンガンを喰らう。

「お姉さん!」

「動・・・かないで・・・!」

マシンガンが止み、白煙が立ち込める。

(身体が・・・動かない・・・まだ・・・まだ倒れたら―。)

「よくやった、ピュラ。」

その声にやっとの思いで振り返ると見覚えのある背中があった。

「ああ―グラン様―よかった・・・これで安心・・・―」

そしてピュラは穏やかな表情で倒れた。


「・・・人のままでよかった。羨ましい―」

ピュラがグランと見間違えた男―舜は心の底からその言葉を吐き出した。

「で、だ。何の真似だアラタ。返答次第では―お前相手に人の心は見せないが。」

アラタは答えることなくまた腕を構える。

「それがお前の掲げる正義か。俺もよく考えるよ―人の為に力を振るおうとするが、力だけじゃ足りないんだ。他に何が必要か、必死に必死に考えてる。でもな―」

舜はドンと強く踏み込む。

凄まじい速さでアラタの前まで向かうと、アラタは少女に向けて照準を変えることで牽制する。


「力で無理やり解決する事なら大体できるんだよクソッタレが。」

アラタの首を掴み、そのまま腕力で押していく。

ブレた腕から放たれた弾丸は明後日の方向へ飛んで行った。

そしてそのままアラタを壁に押し付け―

ゴキっと嫌な音が鳴り響いた。

アラタの首がカクリと曲がっている。

「・・・・・・。」

舜はアラタを一瞥し、そして自分の右手を見た。

今まさにまた1人殺した、その右手を。


「・・・大丈夫?」

舜はそのままふらっと少女の元へ歩いていく。

少女の息は荒い。

「落ち着いて―と目の前で殺った俺が言ってもな・・・。・・・漣を呼ぶか。」

ピュラとの関係を一対一で終わらせようと一人で赴いたが、こんな事になってるなら一緒に来てもらえば良かったかなと舜は頭を搔く。

「―逃げて・・・!」

デバイスを取り出した舜に、少女は叫ぶ。

直後、背後からの殺意に剣を持って振り返り、その一撃を防いだ。


「・・・!?」

「こんにちは!!アッハ!」

重たい一撃は舜の剣をへし折り、その身体を浮かせて後ろへ押し下げた。

黒の鎧が禍々しく光る。

「・・・クロ・・・ム・・・!?」

「・・・あ、それ私の名前?ふーんまだ記憶が曖昧でさぁ。ま、そんな事より―貴方。ようやく見つけた・・・私が興味持てる相手・・・!本能で分かる、心で分かる。貴方が、私にとっての運命!」

舜は冷や汗をかいた。

一対一で勝ち目の薄い相手。

前回は油断をついたから勝てた。

しかし今度は―


「あ、その子は私はどーでもいいよ。気にせず戦お?」

「そりゃどーも。・・・。」

舜はその言葉を信用せず、少女を守りながら、しかし前回とは違うやり方で殺さないとと必死に頭を回す。

「おいおい待てよ、そいつを殺すのは俺にやらせろ。」

「シェフティ・・・生きてた・・・いや、クロムと同じく生き返ったか?」

奥からシェフティが現れる。

「・・・そうか、アラタもか―」

折れた首を無理やりグギリと音を鳴らし、骨をくっつけてアラタも戦線に戻ってくる。

(ナチャで逃げる・・・?・・・応えてくれるかどうか。)

あまりに厳しい戦況に、舜はナチャの石を握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ