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愛の歌  作者: Dust
7章
186/228

182話 決別

「・・・っ!?」

血がポタポタと垂れる。

咲希は刺された腹部を抑えながら、信じられないものを見るような目で真希を見た。

「あぁ・・・サイアク・・・情に流される情けない真希様なんて見たくなかった・・・。」

「あ゛あ゛?真希様がんな事する訳ねぇだろナター!意味があるに決まってる・・・ね、真希様。」

真希は黙って何かを見つめている。

「・・・まあ、これは。」

「ラミツ様は何かお分かりで?」

か細い声で修道女のような女に小柄の女が聞く。

「あれを見たらショウウにも分かりますよ。」

「・・・・・・。」

ソレを一瞥した後、誰もが黙る。


そして真希はその身を翻し立ち去ろうとした。

「待って・・・!なんで・・・!」

「咲希・・・そろそろ私の言う事も分かっただろう?このままでは我々は世界から消される・・・。私と共にそれを抗わない者は、せめて消される前に殺して記憶に遺す。故郷の人々のようにね・・・。」

「!?・・・まさか・・・竜族は・・・。」

「ああ。私の記憶の中に遺した。お前もいつか残しに行くよ。世界から存在ごと消されないように。」

コツコツと響く足音の中、漣に支えられた咲希は真っ青な顔でただ、汗の落ちる音だけを鳴らしていた。


「・・・・・・あの。」

「何?」

漣におずおずとクルンチュの元にいた女が話しかける。

「・・・遺体・・・消えちゃって・・・。」

「!? なっ・・・え・・・?」

真希達が見ていた方向にあったもの。

「消える瞬間は!?」

見てませんと何度も何度も首を振る。

「何が・・・どうすれば・・・。」

あまりにも突然の出来事に漣の思考はこんがらがる。

だが目の前の咲希の様子を見て、第一優先事項を決めた。

漣はただ、咲希に寄り添うだけだった。



敵が目の前にいる。

敵。敵。敵。

(だけど・・・だけど・・・。)

目の前にいる敵は斬るべきである。

(だけど・・・俺は知っている・・・。力で解決出来る限界を・・・力でしか動けず後悔を重ねた・・・だからこそ・・・。)

(俺は俺の理想を目指す!)

「邪魔を・・・するなぁァァ!!!!!」


肉が斬られた。だが骨までは達していない。

その腕でハダンの顔を握り壁に叩き付けた。

「あ・・・ガッ・・・!」

「手を出すな、そうすれば誰も殺さない。聞こえたか?」

返事を待つ前に離してやる。

加減はした。

動こうとすればまだ動ける。

だがハダンは大人しく顔を押えながら座り込んだ。

子供の方を一瞥する。

その目は復讐に燃えてはいるが・・・今の舜には本能が近付いては行けないことを警告していた。


そして舜は―言葉に詰まった。

悪人だらけの集団であれば力でおしまいで良かったかもしれない。

知り合いが殺されて、でもそいつらの仲間は別に悪人でも無くて。

何を要求しに来た訳でもなく、ただ怒りのままに突入しただけ。

怒りで、我を忘れていただけ。

それでも無関係の人を巻き込まないよう配慮はしていたが。

まさか―誰一人としてあの殺しを良しとしてないとは思わなかった。

(分かっていたのに―力で解決出来ることの限界なんて・・・分かっていたのにまた・・・。)

後悔が押し寄せてくる。


だから。

だから言ったのに。

「お前は生きてちゃいけない存在なんだ。」

「・・・!」

よく知っている声だった。

よく聞く声だった。

よく聞かせる声だった。

己自身の声だった。

心臓に油が差し込んだかのような苦しみだった。

1つの心に、もう1つの精神が宿っていた事に。

今ようやく―舜は気が付いた。


「おや、これはこれは。どうしたんだい?悲壮な顔をして。」

その声にハッとした。

「・・・え?」

目を疑うしか無い光景にそれ以降声が出なかった。

「今度は死人でも見たような顔をして・・・まあ1度死んだのは間違いないけどね。」

死んだはずの、ホテルの女性が歩いてきたのだ。

「あ、そういえば名乗ってなかったね。私はセイユ・・・そう、あのセイユだよ。だから復活くらいするのさ、私はあのセイユだからね。どいつもこいつもこの国で面倒事、嫌になっちゃうね。」

セイユの目は鋭く光る。

「で、だ。とりあえずまず面倒事の1つ目の解決に来たって訳。君たちもあんだけ部下が暴れようとしてたんだ・・・分かってるよね?」


ようやく舜はその禍々しいオーラに口を開いた。

「待って、この人達は―!」

そのオーラが何をしてもおかしくないと思った事。

そして、暴力はもう必要ないと思った事。

だから舜は自分に向けられてなくても止めようと口を挟んだ。

「ああ、部外者は要らないよ。」

そのオーラが舜に向かうこと無く・・・舜はなにかに閉じ込められて消えた。


(油断した・・・!)

殺意が完全に無かった為、舜は為す術もなく落ちていく。

ほんの少しでも向こうに殺す気があれば、舜は対応出来ていたのだが。

(水・・・?真っ暗で何も見えない・・・閉じ込められてるのか?)

最後に見えた光景から舜は辺りを見回す。

だが何も見えない。

閉じ込められてるならそれを触って壊せばいいだけ。

しかし、どのくらいの大きさなのかも検討が付かない。

「そのまま眠ろう。」

その声につられるかのように。

舜はただ無抵抗に落ちていった。

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