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愛の歌  作者: Dust
7章
185/228

181話 ココロの奥

「貴様ッ・・・!」

「待てハダン!止まれ!」

「しかし教祖様!殺られっぱなしで・・・!」

「仕掛けたのはロベルの方だ!止まれと言っている!」

そのやり取りを舜は鋭い視線で見つめる。

「殺す気で来るなら殺す。さっきから言ってるように、邪魔をするな。・・・?」

甲高い声が聞こえる。

「ダメ!お願いだから戻って!ダメ!!」

(―子供?)

小さな子供達だった。

各々持てる何かを握り締めている。

「お兄ちゃん達をいじめるな!」

「・・・っ!」


その怒りの籠った目に、思わず舜は1歩引いた。

後ろでは起きてと泣き叫ぶ子供や、同じく舜に憎しみの視線をむける子供たち。

「くっ・・・駄目だ!いい子だからやめるんだ!」

教祖が慌てて1番先頭の子の元へ駆け付け抱き締める。

だがその横をすり抜けて1人の子供が走ってくる。

「・・・・・・。」

呆然と舜は眺めていた。

「ダメ!ひっ・・・殺さないでください!子供達だけは・・・殺さないで!」

先程子供を止めようと叫んでた女が、舜のすぐ近くでその子供を抱き止めながら震えている。


「どうして!どうして!!祈れば魔力者になれるんじゃないの!?どうして今!あの人を殺すための力が!!!」

「お願い・・・お願いだからやめて・・・。」

阿鼻叫喚の中、舜は更に1歩後ずさった。

魔力がその顔目掛けて飛んでくる。

右手の甲に魔力を込めて払い除け、その方角を見た。

ロベルと呼ばれた男の死体に近寄っていた少女が、自身の手を眺めている。

そして―魔力者に目覚めたばかりのその子は短剣を作り出す。

「やぁあああああ!!!!!」

舜はあっさりとその短剣を蹴り飛ばした。

無論、少女はまた新しく短剣を作り直す。


「その子は殺させない!!!」

ハダンと呼ばれた女が舜に斬りかかる。

「殺すつもりはない!」

剣を受け止めながら、はっと身体を強ばらせる。

(思わず反撃しかけた・・・まだ話せば聞くかもしれない・・・!)

ああ、優しい人。

「でも今じゃない。」

「・・・!君は229号。・・・ここは?」

「君の心の中だよ。安心して、まだ君はその殺意に逆らわなくていい。私に委ねて・・・。」

殺せ。殺せ。コロセコロセコロセコロセコロセコロセ。

抗えるその日まで。

決してその本能に逆らうなかれ。


「・・・!」

太ももに激痛が走った。

まだ魔力者に成り立ての少女の短剣が。

まだ成り立て故に温存など考えず全ての魔力を込めた一撃が。

その太ももに深々と刺さった。

舜の目にはもうその相手が子供には見えてなかった。

それは自身への殺意を向ける敵でしかない。

だから舜はその剣を―



「思ったよりクルンチュは役に立たなかったな。奴の能力はもう少し使えるかと思ったが。」

早足で歩く女に9人の人間が後ろをついて歩く。

「惜しいですね。きっと悩める子羊達を救えたはずなのに。」

女に最も近い位置で付き従っている修道士が応える。

「あ?まず救われるべきは俺だろうが。」

荒々しく1番後ろでつまらなそうにしてる女が言いのけた。

「まあ・・・真希様に拾われながらまだ救われてないのですが・・・なんと哀れな・・・。」

「まずテメェから消してやってもいいんだぞ?」

「まあ・・・どうしましょうか。」

女は細い目でそれを眺めながらも歩みを止めない。

「よい、その怒りは必ずメズサスの、そして我ら十道聖(じっどうしょう)の役に立つ時が来る。」

「真希の姉御・・・ウス、俺やります。」


「あぁ・・・サイアク・・・またサイアクな事が起きてる・・・。ただでさえこんな劣悪な二足歩行の生物の姿で居なきゃいけないのに・・・。」

「この姿も悪い事ばかりではないさナター。それよりこのクーユーで良ければ君の不幸を聞こうか。」

「誰か見てる・・・私たちをやれると勘違いしてる・・・サイアク・・・。」

ふむとクーユーは真希を見る。

「捨ておけ。奴に今仕掛けるつもりは無い。」

「まあ・・・それでどこへ向かわれてるのですか?真希様。」

「あれが帰らぬうちに・・・身内に顔でも出そうとね。」

「姉御の本物の身内・・・羨ましいな、消し去りてぇほどに。」


「やれやれ・・・1人なら対処出来るんだけどやっぱりボクには荷が重いねぇ。」

ルーネはスナイパー越しに第3勢力を眺めながら、小型のマイクを通して話しかける。

「いつかぶつかるのは間違いありません。観察しつつ何か情報があれば私に。」

「りょーかいフーロちゃん。その位ならボクに任せてよ。」

スコープで見つめるその人間たちはある宿屋の方へ向かっていく。

「さて・・・今あの宿には誰がいるかな?場合によっちゃ・・・連れて逃げてあげた方が親切かね。」


「戸を開けよ。中に人がいるのは分かっている。蹴破られたくなければな。」

「・・・誰だ!」

ドアの向こうから声がする。

「運も味方してくれてるようだ。・・・その声、咲希だろ?」

「・・・・・・・・・・・・え?」

ドアはゆっくりと開いた。

「・・・お姉・・・ちゃん・・・?」

「久しく姿を見せず済まなかった咲希。迎えに来たよ。」

「生きてたんだ・・・生きてたんだ!良かった!!」

咲希は真希に抱きついた。

「他の・・・他のみんなは?」

「残念だが私は私以外の生存者を知らぬ。ただ・・・あの時たまたま外に出てた者でも無ければ生存は見込めないだろう。」


咲希は離れ、目を袖でゴシゴシと拭きながら聞く。

「迎えに来たって・・・?」

「また共に暮らそう咲希。我らは今全ての生物の為に動きながら共に暮らしている。そこに力を・・・いや、咲希と共に暮らせるのであれば力を貸してくれなくてもいい。」

「・・・・・・・・・。」

咲希は少し困ったように笑った。

「ごめん、お姉ちゃん。私はまだやらなきゃ行けない事があるんだ。あの日、私はある人に救われて・・・その人に恩を返せないうちは帰れない。」

「・・・そうか。・・・・・・残念だ。」

「・・・咲希!下がって!!!」

後ろから見守っていた漣の叫び声が響いた。

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