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愛の歌  作者: Dust
7章
184/228

180話 それぞれの影響

彼女は魔力の扱いに異様に長けている。

彼女の魔力の威力は異常な程強い。

しかし、それでもかつて彼女―愛花と互角に渡り合った人が居るように。

彼女の戦い方そのものは決して上手くない。

更に殺しもあまりよしとせず、まだ数えられる程度にしか殺してなかった。

今もまだ殺した事が心に引っかかる。

そんな彼女が今―


地獄を魅せていた。

戦いに舞い降りた天使のような見た目で。

連れ去る悪人の魂を。

彼女本人が戦いに慣れてしまった訳では無い。

当然殺しに慣れた訳でもない。

ただ彼女は愛する人と同じ痛みを共感出来た。

かつて自身を救ってくれた彼が、必死に助けられるものを助けようと手を伸ばし。

助けられなかった痛みを、幾つもの人から奪った痛みを。

だから持っていたのだ。


ありったけの覚悟を。


その想いが彼女を強くする。

強さが、彼女の戦いっぷりに繋がり、

死人が、増える。


クルンチュが構えていた拠点は正面きって抵抗するものが既に現れない程、一方的な殺戮を受けていた。

(どうする?)

(さっきから殺さない相手もいる。何かあるんだ、殺されない方ほ・・・!?)

「なっ・・・お・・・!?」

2人が倒れたのを見て、我慢の限界が来たのか。

久々に彼女の前に男が立ち塞がる。


「お、おい!何が目的だ!なんで仲間たちを殺す!」

「・・・安心して、あなたは殺さない。」

「だからって引き下がれるかよ!いきなり殴り込んできて、遂に無抵抗な奴まで殺しやがって!」

「・・・殺すべきかどうかはちゃんと判断してるから。」

「判断だと・・・?自分勝手な判断材料でか!何様のつもりだ!」

「分かるんですよ。舜兄は歪みって言ってたけど・・・きっと私と見てるものは違うんでしょうけど。悪人の周りに纏う黒いモヤは。」

「何を意味の分からないことを!」

会話で足を止めながらも愛花は後ろの気配に気が付いている。

本来の愛花なら気が付かなかっただろう。

(舜兄なら・・・どう動く?)

彼女は爛と光る赤い目で目の前の男を捉えながら、舜の動きを模倣しようとしていた。

舜の思考を模倣しようとしていた。

―だから気が付けたという事に彼女は気が付いてない。

憧れとしてずっと見続けていた彼女だから出来た荒業である。


後ろから飛び出してきたその不意打ちに、愛花は目を合わせないままその剣を魔弾で弾き返した。

「あなたも、手を引けば殺すつもりはありませんよ。」

「ほざけ・・・好き勝手させて溜まるかよ!」

「殺しに来た相手に加減をしてあげる程・・・優しくはしないんですよ。」

倒れ伏したもう聞こえていない相手に、ポツリと呟いた。

「やめろ・・・もう殺すな・・・!」

「・・・・・・。」

愛花は辺りを見渡す。

「他に、何処に拠点はあるんですか?」

「言うかよ・・・同志が殺されてくって分かってるのに。」

「あなたが全く知らない・・・が通るほど甘くはありませんが。」

愛花の視線に男は視線を逸らした。


「多分・・・お前が狙ってるようなやつがいるのはここだけだ。元々は祈りを神に応えてもらって、命の危機を脱した。そんな真っ当な信者しか居なかったんだ。」

「・・・・・・。」

「だが信者が増えれば当然力も手に入る。その力を狙った奴が暴走していた・・・信じて貰えるかは分からないがこれが真相だよ。」

その目に、嘘は無いように思える。

「私が狙ってるような人間がどんなのか分かっているのであれば、教祖がいる場所も教えて貰えますよね?」

「・・・!・・・お前が間違えない可能性はないのかよ。」

「・・・どうでしょうね。」

その答えを持っていない愛花はこれ以上は時間の浪費と聞き出すのを諦めた。

敵と認識されながら情報を得るにはこれ以上求められないとも思った。

(舜兄なら次は・・・。)



「教祖様!お逃げください!何者かがこちらに!」

「・・・・・・良い、いつかこんな日が来るのは分かっていた。」

教祖・ブリムは信者の声も聞かず、座り待っていた。

ドアが荒々しく開け放たれる。

「教祖と話に来た。邪魔をした奴だけ・・・斬る!」

舜はキッパリ断ってから中に入っていく。

その間に男女が立ち塞がった。

「聞こえなかった?こっちは知り合いが殺されてるのを問い詰めに来てんだ。・・・邪魔をするな。」

「教祖様ご安心ください。ここは私たちが。」

「待て、下がれ。その人の主張は私が聞かなければいけない事だ。」

「聞く価値もありませんぜ!こんな人殺しの匂いが漂ってる奴なんて!」


振り下ろされた槌を舜は剣で受け止める。

「待ってくれ!くっ・・・頼むそこの人!殺さないでくれ!私の責任なのは分かっている!」

「・・・教祖がやめろって言ってんのに向かってくるんだ。」

女の方は教祖と男を見比べながら立ちすくんでいる。

「ふん!貴様が幾人も殺してきてる事くらい見れば分かるわ!俺は騙されんぞ!」

男がブンブンと大振りして舜に迫る中、舜はどうするかを考える。

(警告はした・・・。だけど・・・。)

漣の言葉が頭にグルグルと回っている。

(悪い奴かは分からない。・・・殺しにかかってくるまでは見極めたい・・・少し甘いか?・・・それでも。)

殺し合いを良く知る舜が、珍しく甘い選択を取った。


そして見極める為に、敢えて目の前で大きく隙を作る。

女の方が動いたが故に警戒をした、まるでそんな風に見える顔の動かし方だった。

その視界の端ではきっちり男を捉えている。

(さあ・・・どこを狙ってくる?)

その槌はきっちり、舜の頭をフルスイングしようと横に大きく振られた。

それだけで明確な殺意が、十分判断ができた。

だから―

大振りの攻撃を難なく躱した後、その隙に相手の鮮血を舞わせた。

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