179話 誰よりも強いものは―
激闘を経て、やっと落ち着いた舜はふと自分のデバイスを見た。
「・・・ん?漣から?」
「その傷結構深いんだろ?先に・・・あら?」
既に舜はその場に居ない。
「・・・やれやれ、そんなに信頼出来なかったかねぇボク。」
落ちてる血の跡を見る。
「ま・・・露払い位はしてあげようじゃないの。」
そう言ってスナイパーライフルを創り出す。
「3人だったかな?君が殺したあと復活した部下たちは。」
血の跡から舜の移動経路が浮かび上がる。
その路の間にいる人間を、1人、また1人、そして最後の1人が地に伏せる。
「・・・さて、ここらでボクも避難しようかな。・・・どうやら第3勢力までお越しのようだ・・・。」
「・・・あれ?・・・雪乃も来たんだ?」
教会から出ようとしてるところを見かけた怜奈は声をかけた。
「ええ、舜さんに頼まれましたので。」
「・・・そう、私は咲希から。」
雪乃は奥へ常に視線を向かわせている。
「・・・!」
訝しんだ怜奈もその気配を察した。
「・・・頼まれたって、こっち?」
「・・・来ますよ。構えてください。」
2人は近くに現れた気配に動きを止める。
ゆらりと男が現れた。
胸に1つ、腕に2つ穴が空いている。
「お・・・俺の・・・俺様のなま・・・ななま・・・なまななまぇええぇええは・・・。」
ピタリと動きを止める。
禍々しい魔力が辺りを覆い、黒い物体が彼の身体を埋める。
「ヒトハ8ツノオモイカラナル。カノセイゼンニオモイシツヨキソウキハキンセンヨク・・・。」
氷が言葉を遮った。
「もう1人います。」
「・・・うん。」
目の前の男に視線を向けたままの会話であったが、それでも目の前の轟音に2人は改めて向き直った。
氷をあっさりと砕いていた。
「俺様は・・・シェフティ・・・。・・・成程クルンチュ如きに頼らなくてもこれなら殺れるぜ・・・。」
勢いよく駆け出そうという所で今度は脚が凍らされる。
怜奈が何かを蹴り上げる。
「こんなもんで俺様は止まら・・・。」
鐘が落ちてきた。
「優先順位は無事の確保です!」
「・・・殿は任せた。」
2人はそそくさとその場をあとにする。
「ふんぎ・・・この・・・!バカにしやがって・・・テメェもいるなら手伝えよ!」
何とか凍り付いた身体を動かしながら鐘を退かし呻くよう怒鳴る。
「・・・嫌。・・・だって私"嫌気"だもーん。」
「ほう・・・まずはお前から殺してやろうか・・・!」
「・・・あなたも、私の心は踊らせらんない。相手にならないから辞めた方がいいよ。」
影はそのまま伸びをし、歩いて行く。
「・・・淫蕩の裁判があるからアンタを連れて帰んないと行けないの。あーやだやだ、なんで私なんだろ。」
「・・・今の時点ではまだ、あいつらは触れるな・・・?なんだこの頭に響く・・・ぐっ・・・。」
「それ、早く受け入れた方が身のためだよ。」
シェフティは黙って睨む・・・が、何かを察したかのように別の場所へ視線を移した。
「もう一人きてるな?傲慢か?」
「そ。なんでもう1人いるのに迎えに行くのが私なんだろうね。」
「・・・あいつ、仕掛ける気か?」
「きょうみなーい。」
陰はフイっと消えて行った。
それを追うようにシェフティも消えた。
「漣!」
「舜くん!あのね・・・!」
宿に飛ぶように帰った舜は漣の言葉を待たずして理解した。
頭に血が上っていくのが分かる。
毛布はかけてあるが・・・あそこにあるのは知っている人間の遺体だと気がついてしまったのだから。
だが怒りより先に飛び出した言葉は
「咲希は!咲希は無事!?」
だった。
「あ・・・。・・・済まない舜・・・私が・・・出てしまったばかりに・・・。」
「・・・咲希。」
目を腫らしてる咲希を見て、舜は握り拳を固めた。
「安心して。その無念・・・代わりに俺が全部ぶっ潰すから。」
「・・・待。」
「待って!」
咲希のか細い静止を打ち消したのは漣の静止だった。
「全員が全員悪い人じゃないかもしれない。だから、待って。」
「・・・あれは?」
ようやく、もう1人小さくなって震えてる女を見つけた。
「その悪い人じゃなかった例、かもしれない人。」
「・・・・・・。」
舜は漣の目をしっかりと見た。
「・・・そうだね。・・・でもこのまま見てる訳にも行かないから。」
「やり方・・・考えてくれるんだよね?」
「勿論・・・・・・・・・ありがとう、漣。」
漣は舜を見送ったあとぽつりと呟いた。
「お礼・・・良かった、あの人は善良でいようとしてくれる。」
そして、念の為宿に残るのであった。




