177話 Anything to kill you.
太陽が沈み、静寂の黒が辺りを包む時の中で。
眩い光が何度も火花を散らす。
(・・・魔力切れを待つか。)
「とでも思っているのかね?」
クルンチュは素早く動く赤い閃光に問う。
「だとしたらどうする?」
背後から剣を振りかぶりながら舜は答える。
当然のようにそれは防がれまた火花が散る。
「私の能力は予想がついてるのだろう?それとも甘く見積もってるのかい?」
「問いが求めてるのは答えだけ、小学生でも分かる事だけど?」
ふっとクルンチュは笑う。
「ならば見せてあげよう。絶望というものを!」
風がざわめく。
木々が揺れる。
それ程の膨大な魔力が集まっていく。
「決して使い切れることの無い魔力だ!時間は物事を解決してはくれない!さあどうする!」
「叩き潰すに決まってんだろ。」
人影に遅れて落ち葉が舞う。
後ろで、右で、左で。
「見えているぞシュン・アザトゥー!」
舜が仕掛ける前に、クルンチュが目にも止まらぬ速さで踏み込んだ。
「・・・っ!」
「知っているとも、君はその形態だと普段の硬さは無いということを。まるで豆腐を切るように斬れたものだ。」
脇腹から血が漏れ出る。
「・・・殺し損ねたな。」
「何、チャンスは一度じゃないさ。・・・!」
「それもそうか。次は殺す。」
勝ち誇って嘲笑うような舜を前に、クルンチュは首を抑える。
そこからも血が流れ出ていた。
手を離した時には傷は治っていた。
「ふむ・・・なるほど。ならこれならどうだ?」
「・・・・・・わぁ、悪趣味。」
クルンチュの身体を黒く硬い皮膚が覆っていく。
大きさは2mを超え、指は鋭く伸び、異形の姿へと。
「知っているぞ、君が対人以外を苦手としていることを。そしてこの使い切れぬ魔力で作る力と硬さだ、もう君如きでは・・・。」
「全てを破壊するもの。隙だらけだ、心臓を貰うぞ。」
舜の手刀が胸を貫く。
「構わないさ。もっと強く、もっと硬く、そして死なない。たかが心臓など要らないならな。」
引き抜いた舜はグチャりとそれを潰す。
「・・・いや、待て。今何を壊した―?」
「お気になさらず。」
ガクンとクルンチュは膝から崩れ落ちた。
「なんだ・・・?魔力が・・・身体を崩壊させてく・・・?」
必死に作り直し、魔力を抑え込もうとするが叶わない。
「魔力の核か・・・!」
「チッ・・・悪いがそれに耐えられる身体を作られる前に殺す!」
(そうだ・・・単純な話、溢れ出る魔力に耐えられる身体さえ作れれば向こうに勝ち目は無い。もっと身体を・・・カラダヲ・・・カラ・・・!)
実際のところ、舜は何も仕掛けずただ眺めていただけだった。
クルンチュは自身の魔力に焼かれ消え果てるまで、その身体を作ろうとした。
「作れる訳ないだろ。・・・で、お前はいつまで見てるんだ?」
クルンチュを倒した舜は闇の中に目を向けた。
「あれ!?閉まってる!おーい!愛花だよー!開けてー!」
ドアの外から声がする。
隠れてろと言われた宿屋の女は恐る恐るその声の方を向く。
「・・・あれー?おかしいな、みんな出てるのかな?」
その声は紛れもなく聞き覚えのある声だった。
(何も知らない・・・?慌ただしかったし聞かされてないのかな・・・それにもし敵がその気ならぶち破ってくる・・・よね?)
女は思い立ち、
「今開ける!」
そう声を出してドアを開けた。
「ひっ!?」
「やっほー、声真似上手かったっしょ。さあ、お前らやれ。」
そして数人の魔力者が宿屋に突入してしまった。
「あの・・・布教・・・なんですよね?」
「姉御、なんで新入りなんて連れてきたんですか。邪魔っすよ。」
1人、訳も分からず少女がオドオドしている。
「顔が良くて気に入ったから!今日で私たちの力・・・じゃなかった、神の裁きを教えてあげて。」
「はぁ・・・よし、新入り。決して目を離すなよ。今日からお前も俺たちの仲間だ。」
(間に合え・・・間に合え間に合え間に合え!)
愛花は必死に走る。
やっと見えた宿屋はどこか突き破られた跡は無い。
愛花はドアに手をかけ、開かなかったので魔力でぶち破った。
「無事!?」
「んだ、思ったより早かったな。もっと悲惨な死体にしてやるつもりだったのに。」
宿屋の女は目を開いたまま倒れていた。
その目に光は無い。
「姉御、あれは要注意人物の愛花です。」
「そう、まあ舜や怜奈よりはマシだな。」
クルンチュの別働隊として動いていた女はクスリとわらう。
(優しくて人殺しに慣れてない甘甘ちゃん・・・動揺してるうちに殺しちゃうか♪ふふ、そしたらまた私たちの力が知れ渡って・・・クルンチュ様に教祖を代わってもらって私がNo.2!)
殺さんと走り出した女に対し―
愛花は死体を見て固まっていた。




