176話 Warriors who seek strength
数分前。
まだ、舜達からの連絡が届いてない時。
愛花は1人、夕ご飯の買い物をしていた。
「んー・・・一応お安く済ませた方がいいよね?舜兄お金には困ってないとはいえ―。」
虫の報せと云うべきか。
彼女は何か嫌な予感に立ち竦んだ。
直後、喧騒が遠くから聞こえてくる。
「・・・・・・。」
愛花は考える。
学生時代、実力はありながら戦術面や座学面を苦手として来た彼女が、考える。
舜と共に過ごした日々は、その思考を研ぎ澄ませるには十分だったのか、はまたまただの勘なのか。
「宿の人達が危ない・・・!」
愛花は買い物カゴを投げ捨てて、走って向かう。
「妹が帰ってきてない、大丈夫だろうか・・・。」
「そっちは怜奈に連絡がついてる。怜奈なら大丈夫だ、問題が起きる前に辿り着けるだろうし腕もある。自分の心配をしてた方が―」
宿屋で咲希が宿主である姉の方と話してる時だった。
突如として轟音が鳴り響く。
「・・・爆発音!?近い・・・!」
咲希は冷や汗をかいた。
(出るなとは言われてる・・・が・・・・・・。)
ここに残ってるのが舜なら、悩まずに向かうのだろうか。
「大丈夫、私は弱くない・・・。」
彼女はポツリと自分に言い聞かせる。
すぐに向かえなかった自分を勇気づけるように。
「鍵を持っていく!お前はずっと隠れてろ!例え誰がどう訪ねて来ようが私が帰ってくるまで開けずに隠れてろ!」
咲希は急いで向かう。
強き人ならそうするだろうと思った行動を。
パワー、スピード。
そのどちらをも舜を上回っていた。
それ故に単純にそれを活かして振り回すだけで、シェフティは舜とまともに打ち合う事が出来ていた。
「随分無駄が多い動きをするんだな?」
「はっ!強がりを・・・!?」
だが剣の技術は舜の方が上である。
一瞬の隙をついてその首を掻っ切らんと振るわれた刹那の一撃は―
剣の刃がへし折れ、小さな切り傷を付けられた程度であった。
「ばーか!防御もあがっ・・・!」
「纏魔・原点。」
更に隙が大きくなった所を、魔力を1点集中させた剣で心臓を穿いた。
「気をつけるんだ、シェフティ。今のは硬くなっているのを見越した上でわざと剣を折られ、そして必殺の一撃を放たんと最初から狙っていた。」
「大丈夫っすよ、クルンチュの兄貴!俺は今兄貴の力でむてっ・・・。」
両腕両足が斬り落とされた。
「この・・・無駄だっつ・・・!?」
思いっきり蹴り飛ばされて宙へ。
少しずつ再生していく手足をばたつかせ、吹き飛ばされていく。
数秒後、何かが背中に叩き付けられた。
「・・・門?」
遠くへワープしたはずの門まで、蹴り飛ばされていたのだ。
「・・・はっ、とはいえクルンチュの兄貴のおかげでノーダメのようなもん・・・。」
目の前に、恐怖が映りこんだ。
真っ赤に染まった瞳が、一筋の線を描きながら高速で向かってくる。
そしてその胸に再び、深々と突き刺された。
「全てを壊すもの。」
「はっ・・・はっ・・・ふっ、落ち着いて考えればクルンチュの兄貴のおかげで向こうは何も出来ないのと同じなんだ。」
内心の恐怖を振り払うように血を吐きながら、ようやく完全に再生した腕でその剣を抜こうとした。
「ぬ・・・抜けない・・・!?」
門に深々と刺さったその剣を動かす事が出来ない。
「ひっ!?」
片腕を掴み、淡々と剣を新たに突き刺す。
もう片方の腕も剣で門へと固定させ、全てを壊すものをそれぞれに使った。
「う・・・動かせねぇ!何をした!」
舜は冷たく、その赤いままの瞳で一瞥してから背中を向けた。
「おい!クソなめやがって!動け!クソ!」
「気を付けるよう言ったはずだが。」
そんな舜の前にクルンチュが相対する。
「そうだ!クルンチュの兄貴!もっとパワーを!」
「残念だが・・・君はそこでしばらく反省したまえ。」
シェフティは青ざめた顔で血をゴボゴボ吐いた。
「あ・・・あにぃ・・・何故・・・能力を・・・・・・?」
「聞こえなかったかい?それとも理解をしなかったか。君如きの為に使ってやる魔力は無いと言ったんだ。」
ガクりと力なく、シェフティは項垂れ動かなくなった。
「・・・見捨てるんだ。それはあれを抜けるほどのパワーを想像出来なかったからか?」
「成程、情報の通り素晴らしい才能だ。先程君が壊したのは剣の刃かい?無理やり刺された剣で身体を斬って出られないようする為の。」
しばしの沈黙が流れた。
「・・・大丈夫?」
「あ、怜奈さん。はい、私は大丈夫でございます!お姉様が守ってくれ・・・あら?お姉様がどこか行かれましたわ・・・?」
「・・・お姉様?」
宿屋の妹を保護した怜奈は、彼女の発言を不思議がる。
「ええ!教会近くでお腹をならしていたのでリンゴを差し上げたのですが、その方がとてもお強い魔力使いでして!」
「・・・そう、そんな人が。」
怜奈は周りに既に誰も居なくなってる気配を感じてから、相槌を打った。




