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愛の歌  作者: Dust
1章
18/229

17話

誰も信じずに生きれるほど人は強くない

誰をも信じて生きれるほど人は愚かでもない


オーフェ

「どう思う?我が美しき副隊長にして高貴な―」

「はいはい、いつものはいいから。さっきまでの動きと全く違うね。攻撃が通らない巨体が素早かったから一旦引いた。けど今は・・・見た目の通り鈍重。だったら犠牲者無しで退けたはずなんだ。」

キッソス隊は見通しのいいところからその観察をしていた。

何か攻略の糸口を見つけられたらすぐ戦場に舞い戻れるように。

背後にいた3人がザワつく。

「うん、なんでスタイルが変わったか、やっぱりみんなも引っかかるよね。」

「いや、お前ですら真面目になるレベルなのかってところが。」

「・・・・・・。はぁ・・・本当はテキトーにサボって他部隊が活躍してるところ見たかったけどさー。そうも言ってられない時はちゃんとやるって。」

キッソス隊副隊長の女ははーっと溜息を着いた。

(にしても・・・感じ的には魔力切れ?・・・・・・。 )

「それで、どう思う?我が美しき副隊長に―」

「はいはい。・・・私の考えとしては―」



鎧はイパノヴァにより何度も動きを止められ、リーンやリビの猛攻を食らうものの一切怯む様子はない。

イパノヴァの魔力が切れない限りは、ひとまず誰かがやられることは無いだろう。

だが、攻めあぐねているのも事実。

「1つ確認だ。・・・舜、お前はさっき何を食らった?なぜ動かなかった?」

オーフェは鎧をしっかり観察しながら聞く。

「鎧の隙間を見たら、動けなくなった。・・・近付いた後はあまり鎧を見ない方がいい。」

「そうか、分かった。・・・まあ僕の最初の目的は鎧本体じゃなく、お前が壊した鎧の残骸の方だ。壊れた所に大きな穴ができたならともかく、ご丁寧に元通りなら見る事はないだろう。」

そういえばと舜はさらに情報を伝える。

「あとあの剣は思ったより見掛け倒しだ。魔力が殆どこもってない、鈍器だと思っていい。―それを力いっぱい振るわれると痛いけど。」

「痛いで済むお前が変態なだけだ。僕は当たる気は無いし受け止める気すらないぞ。」

それなら大丈夫だねと舜は笑う。


オーフェは鎧が反対方向の仲間と戦ってる隙をついて残骸を取り、戻ってきた。

「よし、それじゃあ舜。少し目を瞑れ。見られたくはない。」

「分かった。・・・何する気がは分からないけれど無茶はしないでよ?」

舜は目を瞑る。

ゴギッガギッという音がなる。

そして、それを―

(・・・ゴクン?待て、飲み込んだ?え?食べてる?)

舜は思わず目を開ける。

「何やってんの!?」

「見るなと言っただろ。・・・ヤバい、吐き気が―」

「ほら変なもの食べるから!ペッしなさい!ペッ!」

舜はオーフェの背中を摩る。


「・・・大丈夫だ。そして、そうか。そういうことか。」

オーフェは舜と向き合い、そして倒れ込む。

「・・・オーフェ?」

「少し我慢しろ。すぐ終わる。」

いきなり舜の首筋にオーフェは噛み付いた。

「・・・ご馳走様。」

舜の血を吸ったオーフェは口元の血を手で吹く。

怪物の素質を齎すもの(ティフォン・アネモス)。・・・僕は、何者にもなれる。」

オーフェは呟く。

そして鎧の怪物を見て笑う。

「お前の負けだ―僕はもう、お前を食べたのだから。」


そしてオーフェは走り出した。

しかし、それはあの鎧の元ではなく―

「お前が本体なんだろ。・・・じゃあな、化け物。」

緑のスライムに触れる。

鎧が何かを察したかのようにオーフェに斬りかかろうとし、

(・・・させない!止めるのは''腕''!)

イパノヴァが対象を指定してその動きを止めた。

それだけの時間があれば十分だった。

そしてオーフェは叫ぶ。

怪物の素質を齎すもの(ラグナロク)!!」

緑のスライムは弾け飛び、鎧は崩れていく。

「・・・え?」

オーフェの言葉に舜は困惑した。

そして、それ以上に目の前の光景に絶望が襲う。


オーフェが、倒れ込んだ。

その直前に何かが弾け飛んだかのように、オーフェの全身から魔力が放たれながら。

「オーフェ!」

自身の怪我など無かったかのように舜は一心不乱に走る。

「オーフェ・・・。」

その体に触れ、上体を起こさせた時。

オーフェの口から出たものを思わず舜は反射で受け止めた。

その手は真っ赤に染まった。

"赤い"血を見て、舜は一早く動く。


舜はオーフェの体を横向きに寝かせ、顎を上向かせる。

下の腕はまっすぐ横に伸ばさせ、上の腕は顎の下に入れこませ固定する。

上側の膝を曲げさせ、衣服を緩めさせる。

(オーフェ!)

イパノヴァも鎧が完全に鉄クズと化したのを確認してから駆けつける。

(無事なの!?)

「・・・これ以上は現状何も出来ない、かも。」

オーフェは意識がない。赤い血を吐いたという事は喀血だ。下手したら窒息も有り得る中、舜は持てる限りの知識で動くが―これが正しいのかどうか、舜には確信がなかった。

祈るようにして、オーフェの下側の手に触れる。



リーンが険しい表情をしながら、駆けつける。

「その症状は、多分魔力の核が暴走したんだ。」

「・・・核?」

「・・・魔力者の魔力の源はその核なんだ。だけど、体の魔力が著しく無くなると作り出すより魔力を周りから集めようとする。・・・そして、その最中に邪魔になるものを吹き飛ばそうとするんだ。」

オーフェが倒れる直前、弾け飛んだように体外に魔力が放たれたあの光景。

「・・・じゃあ、その邪魔なものって。」

「体、そのもの。あたし達が触りあってもちょっとしか共有出来ず、キスならもっと共有出来るように邪魔になるの。」

「その症状だとすると―内部の損傷と魔力不足が今の問題点・・・だよね。」

リーンは頷く。

舜はオーフェの口周りから血を拭いてあげる。

そして覚悟を決め、その頬に触れ―


「・・・何を・・・やろうと・・・してる・・・変態。」

オーフェの意識が戻った。

「何って・・・そ、そう!目覚めのキスだよお嬢様。」

「・・・顔が真っ赤だよ、王子さん。」

リーンの言葉にバタバタと顔を仰ぐ舜。

「・・・おい・・・手は・・・握るの・・・許してやるよ。」

オーフェは意地悪げに―しかし辛そうな表情が隠しきれてない笑みを浮かべた。

そして、回復体位からゴロンと仰向けに寝転び、片方の手を舜に、片方の手をイパノヴァに伸ばす。


(無事でよかった・・・!)

「・・・まあな。・・・さすがに僕も・・・こうなるとは予想外だったが。」

そして2人の顔を見てオーフェはまた意地悪げな笑いをする。

「両手に花だな・・・ふふ。」

「おい、俺を花カウントするな。」

「なんだ・・・今の時代はBLTだぞ・・・舜。」

「BLTはサンドイッチだろ。・・・んでもってLGBTでも向こうの意思も確認せず花に無理やりカウントしていいわけじゃないだろ。」

オーフェはふふと笑う。


「その言い方だと・・・理解はあるようだな。」

「まあ、そう思うのに何一つ変な事は無いと思うよ。俺だってなれるなら猫になって自由に生きたいとは思った事あるし。」

(猫・・・!うんうん、可愛い猫になれると思う!)

イパノヴァが目を輝かせる。

「猫と同じにされるのは・・・あれなんだが・・・。」

オーフェは言い淀む。

「・・・やっぱり言わないでおこう。・・・今の関係が幸せなんだ。」

「そっか。」

舜は余計な詮索をせず、オーフェと目を合わせる。


「いや・・・空気読んだ感じ出してもらってあれだが・・・純粋にお前の女装が似合いそうって思っただけなんだが。」

「やらないよ!?」

(確かに似合いそう!)

「眼鏡外したら美形だしね。あたしなら可愛いしてあげられるよー?」

リーンが乗り気で言う。

「やらないってば!」

オーフェは満足そうにくくくと笑う。

そして丁度その頃、かなりの被害を出しながらも―辺りにアウナリトの勝利を知らせる鐘が鳴り響いたのだった。

今回は真面目な後書きとなります。

オーフェの設定の話です。

1つはその能力。食べたもの全てを扱える、そんな利便性の高い能力故物語内でもオーフェが警戒していました。

そしてもうひとつ、これは初期設定にのみあった案なのですがオーフェが男になりたがっていたというものです。

元々の案ではたくさん食べる事を女らしくないと言われたり、かっこいい男物のスーツに憧れる、男に産まれたかった人物という設定でした。そしてそれを差別的に見られるかもしれないという不安から人をあまり信頼せず、数少ない信頼相手がイパノヴァという設定で考えてました。

鎧(リビングアーマーの設定だったもののその事を知ってるキャラがいなかったからリの文字も出なかった)相手にラグナロクの使いすぎで舜が魔力不足になり動けず、それを助けながら逃げたオーフェが紆余曲折あって舜にバレるものの、舜もそのトランスジェンダーの考えを否定することなく、特にそれに対して珍しがったり嫌がるような反応を一切示さずあっさり受け入れた事で信頼して能力を明かし、イパノヴァと3人で鎧を倒すという設定でした。リビとかリーンとかの前にそもそも戦争前に戦う予定で、3人だけで出陣した13話は元々リビングアーマーとの戦争の初期設定の名残で3人で出させました。そして結果として舜は愛花に初期設定の名残と言うだけで説教を食らう可哀想な目にあいましたね、合掌。

さて、ここからが問題だったのですがこのオーフェの設定で内容を書こうとした時に実際のトランスジェンダーの方に迷惑をかけないか、嫌な思いをさせないかを酷く悩みました。

結果として今の設定のオーフェが誤魔化すために舜に女装の話をしたのか実際に舜の女装が見たかっただけか作者の私ですら分からない、という設定にさせてください。

少なくとも今の設定のオーフェで確実に言えることはかっこいい服を好んで着て、少々ガサツっぽい言動をしつつその裏には優しさが溢れている、簡単に人は信頼しないがかといって突っぱねる事は出来ないような人、そんな人物のつもりで書いています。ちなみに彼女がよく着る服は黒いコートです。これに関しては内容にちゃんと落とし込まなきゃ見た目わからんよな・・・って反省してます。オーフェに限らず他のキャラの衣服とか好みも書けてはないのですが・・・。

長くなりましたが、今回の後書きはここで終わらせていただきます。読んでいただきありがとうございました、次回もよろしければ是非読んでいただけると幸いです。

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