172話 料理修行
エルオールの街並みを歩き。
「ようこそいらっしゃいましたお客様。」
「少し聞きたいことがあるんですけど・・・。」
ホテルを見かけ、15歳位の手伝いをしていた少女と舜は会話をする。
「・・・ありがとうございます、ここで少しお世話になりますね。」
「まあ!こちらこそありがとうございます。どうかあなたに神の光が照らさんことを。」
「さあやるぞ料理修行!!!」
「おー!!!!」
部屋に入るなり、漣と愛花は2人で盛り上がる。
キッチン付きのホテル。
道中買ったガイドブックを見て、2人がここがいいと舜にせがんだのだった。
「部屋は何部屋借りれたんですか?」
「3。船と同じ別れ方でいい?」
1部屋に集まりながら、舜は雪乃と咲希に鍵を渡した。
「さあ!料理監督!買い物に行こう!失敗しそうになるまで止めなくていいからね!」
「おー。じゃあ、ちょっと2人の保護者しながら街を見てくるね。」
「はい、何かありましたら呼んでください。」
舜は2人の先導に付いていきながら街を眺めていく。
傍目から見れば、それは見た事ない景色を楽しそうに見つめてるだけの観光客。
「・・・愛花、緊張しなくていいよ。料理はちゃんと出来るようなるって。」
「・・・えへへ、そうですよね。」
たわいのない会話。
だけど、愛花は少し表情が硬い。
調査を含めた視察、敢えておもむろにあちこちを見て回る舜と、いっそ下を向いて歩く愛花と、一旦頭の隅に置いといて料理を本気で楽しむ事にした漣と。
「・・・どう思う?」
「神に選ばれてはいるだろうね。今の世の中で他所の国から来てあんなに堂々と歩けるなら、それは力がある証拠だ。」
それを眺める4つの目。
(・・・2人だけ、だけど接触はしてこない。・・・まだ大丈夫。)
(今の舜兄の雰囲気、多分あそこら辺に・・・2人?・・・だけど、まだ私が何がするべきでもなさそう・・・。)
(料理楽しみだなぁ、私自身で美味しいもの作れるようなったらあれこれやってみたいもんなぁ!)
・・・三者三様に歩いていた。
「とうちゃーく!おっきいスーパー!」
「・・・エルオールはちゃんと無能力者でも伸び伸びと過ごせてるんだなぁ。全ての国含めてももしかして1番安全だったりするのかな?」
「今のリエーなら張り合えますよ。・・・いつかアウナリトも張り合えるといいなぁ。」
もう、つけられてる気配はない。
「愛花、今回は簡単な見回りだしもう得られる情報も無さそうだよ。だから本格的に料理修行に腰を入れていい。」
ホッとしたように愛花は表情を和らげる。
「では!気を取り直して本日買う材料を発表します!蜂蜜、りんご、ヨーグルト、赤ワイン、インスタントコーヒー、チョコレート、ウスターソース、一味、にんにく、醤油、ケチャップ、味噌、七味、生姜。」
「お、カレーかぁ。いいね!」
「待て待て待て待てどこにカレー要素があったんだ。あれか?隠し味か?隠し味選手権でもやるのか?どれが1番隠れるかの。」
漣がやれやれと首を振る。
「口出しが早ーい!大丈夫だって!だって、材料聞いただけで私がカレーって判断できたんだよ!」
「・・・ルーで誤魔化せる範囲・・・か・・・?」
愛花がキョトンとする。
「へ?ルーは買いませんよ?言ってないじゃないですか。」
「あ、カレーじゃない?いやでもその材料で何作るんだ・・・?」
愛花がえっへんと胸を張る。
「スパイスから作ります!」
「スパイスはどこにあったんだよ。」
「言ったじゃないですか、一味と七味。」
「唐辛子の割合が増えた七味じゃねーか!」
わちゃわちゃとツッコミながら、舜はカレールーとじゃがいもと人参と玉ねぎをカゴに入れる。
「監督権限執行!材料はしっかり監督させてもらいます。」
「えー?」
しぶる漣を宥めるよう、舜は続ける。
「ほら、次はお肉決めようか。何肉がいい?」
「鳥!!!」
漣は元気よく精肉コーナーに向かった。
「さて、さっき言ってた材料の中からどれが1個だけ隠し味にしようか?」
「じゃあ舜兄、数字言ってください。」
「4。」
ふふんと愛花は意地悪そうに笑う。
「では問題。私が4番目に言った材料はなんでしょうか?彼女の言った事、ちゃんと覚えてくれてます?」
「赤ワインか。んー・・・もう1個位あってもいいかもしれないな。」
「なんで覚えてるんですか・・・?あ、適当言いました?」
舜は意地悪そうに笑い返した。
「じゃあ7番も追加しようか。愛花、取ってきて。」
「分かんない!私が分かんないです!」
赤ワインとウスターソースを隠し味と決め、ホテルに帰り着いた3人は料理の準備を始める。
「玉ねぎは薄切りでいいよ。あ、愛花、切り終わったじゃがいもは一旦水にさらしといて。」
いつの間にか、舜の指示を聞いて慣れない手つきで料理を作るという形になっていた。
「赤ワインで煮ていこうか。あ、肉はまだ。野菜がある程度煮えたら入れて、肉の色が変わり始めたらお水追加して。」
「「はい!」」
「・・・楽しそう。」
「そうですね。舜さんが楽しそうでなにより。」
眺めてる2人の下で咲希が苦痛の声を上げる。
「おい、私はいつまでこの腕立てをやればいいんだ。」
「・・・強くなりたいんでしょ。」
「そうは言っても・・・そもそも筋肉より魔力関連の訓練とか・・・!」
「・・・ふふ、あっちも楽しそうですね。」
「楽しく・・・ないわい・・・!」
「・・・向こうに突っ込める元気があるなら、まだ、やれる。」
鍋の様子を見ながら、横目で愛花は眺めて笑う。
「ね!あ、舜くんウスターソースはどのくらい?」
「少なめでいいよ。隠し味だし、多すぎても味が変になっちゃうからね。」
「クソっ・・・楽しそうって事にされて料理進められるのも・・・腹立つ・・・!」
なんやかんやあって、出来上がったカレーが運ばれる。
「ゼーゼー・・・。」
「・・・咲希、ご飯が来たのに寝転がったままは良くない。」
「誰のせいだ!!」
1部屋に6人だと若干狭かったものの、みんなで机を囲む。
「では・・・いただきます。」
「「「いただきます!」」」
舜が1口食べるのを、愛花は固唾を飲んで見守る。
「・・・ど、どうですか?」
「・・・・・・ん、美味しい。これでカレーはマスターしたね。」
「やった・・・ふふ。」
愛花は控えめに喜んでから、自分もカレーを1口運んだ。
「ご馳走様でした。じゃあみんな皿運んできてー、洗うぞー。」
「あ、手伝いますよ舜兄。」
愛花は舜の隣に立って、舜から渡される洗われた皿を吹く。
「ねぇ、舜兄。料理って・・・幸せですね。」
「・・・そうだね。作った料理を美味しそうに食べて貰えると、うん。」
愛花は何かを閃いたかのように、ドヤ顔をする。
「みんなをおなかいっぱいにできて、私は胸がいっぱい。どうです?上手くないです?」
「・・・料理は美味かったよ。」
「あ!返された!ぐぬぬ・・・!」
冗談を言い合いながらも、2人は微笑みあった。
愛「愛花ちゃんです!」
漣「漣ちゃんだよ!」
愛「間に合わなかったけど、せっかくのバレンタインシーズンだから舜兄に料理を作りたいなの回でした!」
漣「・・・バレンタイン意識なら隠し味チョコで良くなかった?」
愛「・・・あっ!?」
漣「それではまた次回!」
愛「お楽しみに!!」




