171話 神の国、エルオール
「・・・・・・わざわざ来たってことは何があるんだろ?」
「ふむ、何、これからの話だ。」
船を降りた舜達とカオス達は歩きながら話す。
「エルオールの現状についてだ。」
舜達が船で着いた国、エルオール。
「セイユとエルオール教についてならある程度知ってるけど・・・。」
はるか昔、人々を導かんとした存在・セイユ。
そのまま国の名前を取り、エルオール教として今まで語り継がれてきた。
「新興宗教を知っているか?」
「・・・え?あのエルオールで?」
「発端は他の国だ。だが、エルオール教を目の敵にしている。」
舜は即座にカオスが何を言わんとしてるかを考える。
「その新興宗教は何を崇めてる?まさか・・・。」
「パーツだ。魔力者とそれ以外ではパーツという神に選ばれたか否かの差があると。そして、選ばれた連中は新たな人類として旧人類を排除すべきだ―とまで行き過ぎてる連中が居る。」
「・・・よっぽど自身が特別でありたいんだな。そうでも無いと心が壊れる程弱かったのか。」
ため息混じりにそう呟いた。
「人間なぞ、みなそのようなものだ。だから神に求める、だから他人に求める。人によって何に、何を求めるかは違うがな。大切なのは己の弱さを見据えられてるかどうかだ。」
「・・・そうだね、自身は強いと思ってるからこそ、何でもしていいと思ってしまう人は沢山見てきた。・・・今回もその類なのかな。」
力は人を惑わせる。それは心の弱さからだろうか。
「まあ・・・俺がやる事は変わらないよ。多分、それを知ってても知らなくても・・・。」
「ふむ・・・そうかもしれんな。」
行き過ぎた連中もいる、その発言から全てが悪でもないのかもしれないとは思いつつ。
そんな彼らの前を人影が遮った。
「あんた・・・あんただ!あんたなら・・・どうだ?出来るか?いや、しかし・・・あんただ!あんた!」
「・・・何?」
目の前の赤紫の目をした男は舜を指して何かを半狂乱に叫んでる。
「あんた!俺を殺せるか!殺せるか!?殺してくれよ!なぁ、あんたのその目は人殺しの目だ、間違いねぇ。だが俺は死ねん、あんた!あんただ!」
むっとした顔で愛花がその話を遮る。
「なんですか?藪から棒に、失礼ですよ?」
「ほう・・・あんたも強い目だ。どうだ、俺を殺してくれないか?」
愛花は舜の顔を伺う。
舜も困ったような顔で愛花にどうしようかと視線を向けた。
「フーロ、見せてやれ。」
「はっ!」
舜達が何もせず、ただたじろいでいるとカオスがフーロに声をかけた。
次の瞬間、レーザーがその男の頭を焼き消した。
「・・・っ!?」
漣が思わず息を飲む。
「・・・何も、ここまでしなくても。」
「いや・・・ここまでしても駄目って事か。」
「・・・へ?」
目を逸らした愛花とは違い、舜はカオスの指示の意味をしっかりと勘づき、その頭の消し飛んだ男を見つめている。
胴体からぐにゃぐにゃと肉が蠢き、それは少しずつ顔と成していく。
「ひっ・・・!?」
「・・・雪乃、漣の目を塞いでやっててくれ。みんなも見たくなけりゃ見なくていい。」
舜はその姿を見ながら、後を付いていた仲間の気を遣う。
「痛い・・・痛い・・・殺してくれよ、なああんた。殺してくれよ。」
「・・・不死・・・か?・・・何年生きてる?」
ようやく顔がしっかり元通りになった男は苦痛に呻きながら、立ち上がる。
「200から先は・・・数えてない。ただ200を数えてた時より・・・何倍の時間も過ごした。なあ・・・殺せるか?」
「何とも・・・何故そうなった?そんなに前なら・・・魔力者として能力に覚醒したって訳でもないんだろ?」
「知らない!知らねぇ!ただ目の前に・・・俺は何も知らない!知らないんだ!!」
舜は悩んだ末に、歩き始める。
「せめてなんでなのか分かれば何か考えるけど、分からないなら俺には無理だ。お前が普通の人間なら殺してやれたけど。」
舜の能力で壊せるかもしれないが、間違えた時のデメリットを考えると安請け合いも出来ない。
特にこれから、問題があると分かっているエルオールで過ごすというのに。
「なあせめて試してくれ。あんたは何かが違っ―。」
目にも見えない速度で適当に振り払われた舜の剣に、その首が舞う。
だが、当然のように血が首と頭とを繋げ、グニョグニョとくっついた。
「な、無理。」
「痛い・・・そうか、済まない。何か違うと思ったんだが・・・。」
(舜くん舜くん、その、ラグナロクは試してあげないの?)
(・・・もし、これが邪神関係なら。間違えた時の魔力消費がとんでもない事になるかもしれない。今は迂闊に触れないんだ。)
(そっか・・・もしかしてシィラと同じ邪神が影響してるかもしれないもんね。)
漣は同情しつつも目を逸らした。
「・・・さて、俺たちはこの国に用はない。ここで一旦お別れだが・・・この国に俺の部下が1人いる。いざとなったら好きに使え。・・・次に会う時もどうか共に世界の為に協力し合えることを願おう。」
「・・・・・・まあ、またどこかで。」
カオス達に見送られながら、舜達は街の方へ向かった。
「さて、カイツよ。」
残ったカオスは先程の死にたがりの男―カイツに話しかける。
「お前の直感は正しい。あいつは確かにお前を殺せるものだ。」
「・・・・・・。」
カイツのその目に、生気が宿る。
「殺して欲しければ、それに相応しい場面を作り出すことだ。例えば―」
カイツはフラフラと立ち去った。
「さて、舜。悪いが・・・もし敵となった時の布石も打たせてもらおうか。」
カオスは無表情に、葉巻をくわえた。




