170話 かなたの理想、あなたの理想
(さて・・・)
ゆっくりと目を開ける。
隣に愛花が居てくれても、重苦しい夢に来たものだと諦めたように笑う。
(空気で分かる・・・この重い空気は・・・。あのじっけ・・・。)
何かと目が合った。
デフォルメされた小さな愛花がいる。
「・・・は?」
「いたぞー!!!!」
「「「いたぞー!!!!!」」」
普段の愛花より1段階高い声で呼びかけるとぞろぞろと小さな愛花が集まってくる。
「は?は?は?」
それらは集団で飛びかかり、倒れたところを蟻のようにみんなで運んでいく。
実験室の空間が歪み、消えていく。
重たい空気が、消えていく。
「いや・・・助け方があまりに・・・物理的・・・!!!もっと精神的にこう・・・!!」
舜はそのままどんぶらこと何かの部屋へ運ばれて行った。
「「「そぉい!」」」
「わー!!!!????」
ぶん投げられ、ふわふわのベッドの上へ。
「・・・ふふ、暗い気分なんて消し飛んだでしょ?」
「・・・愛花?」
ちゃんとした頭身の愛花がいる。
「それじゃ、マッサージしてあげますよ。疲れが吹き飛ぶように。・・・ふっふっふ!股間のリンパが溜まってますね!」
「待って待て待て何それ何それ!?」
わちゃわちゃと指を動かす愛花の両手を必死に止める。
「愛花はこんな詰め方してこないけど!?」
「冷静に考えてください?あなたの夢の中なんですよ?彼女にこんな事言わせてこんな事させようとしてるなんて、純粋にあなたの欲求なのでは?」
「冷静に言わないでくれる!?恥ずかしいんだけど!?!?」
愛花の力が緩み、ふわっと笑う。
「冗談はさておき・・・舜兄はもうちょっと自分の為に動いてもいいと思いますよ?」
「・・・。」
それはまるで本物の愛花に言われたかのようで―
その時、ドアのノック音がした。
「こんにちはー。あなたの心の闇でーす。入れてくださーい。」
「・・・随分フルトに来るんですね?」
「フランクな。」
「フランクなフルトってなんなんでしょうね?」
「あれは別々じゃなくて確か1個の単語で・・・・・・あれ?フランクフルトってなんだ・・・?」
頭がズキリとした。
「そしてフランクって何となくで使ってますけど、合ってます?」
「そもそもフランクを使ってなかった事を除けば、多分。」
頭がぐちゃぐちゃする。
(言語・・・考えてみれば言語が通じない国は今のところなかった。文字だってどこでも同じ文字で通用する。だけど俺の名前はヤパニオから取った文字・・・それでもなんでみんな読める?・・・やっぱりこの世界は・・・?)
暗い闇と明るい光と難解な状況と。
「僕と君の仲じゃないか。中に入れてくれないか?」
「舜兄、耳を貸さなくていいですよ。」
頭がぐにゃぐにゃする中で、それでも舜ははっきりと。
「あれは・・・俺が受け入れるべきものだよ。」
それだけは徹底していたかった。
様々な人の正義を見た。
様々な人の力の根幹を見た。
それを自分の力で一方的に捩じ伏せてきた。
「相手が自分より力のないものを殺したとて・・・果たして君がその自分より力のないものを殺していいという理由になるのかね?なぁ・・・舜。」
だから、せめて自分は自分を責め続けないといけない。
「舜兄・・・。」
「同じ穴の狢、と言いたいんだろうね。いいんだ愛花。ああやって客観的に責めてもらった方が―殺しが選択肢の中に常に入ってしまった俺が、せめて最初に俺の決めた範囲内でしか殺さないようしてくれる。」
そこだけは譲れないものとして―
「鍵を閉めたつもりはないよ。入ってこようと思えば入ってこれるはずだ。」
ギィィとドアが開こうとする。
「カカレー!」
「「ォォォォォーーー!!!!!」」
そのドアに向かってチビ愛花達が飛びかかる!
チビ愛花達の勇気が世界を救うと信じて!
「どんな夢だよ!!!」
目が覚めた舜は起き上がると同時に叫んでいた。
「クソ・・・変なところで打ち切られたし・・・!」
ふと隣に愛花が寝ている事を思い出し、様子を伺う。
「・・・起きてない、どころかうなされてる。」
愛花を揺さぶってみる。
「・・・ん・・・んん・・・あっ・・・舜兄・・・。」
目を覚ました愛花は舜を見て笑った。
「どうでした?夢の方は・・・痛い事とか無かったです?」
「あれをどんな夢と表現していいのか分からないけど・・・痛い目を受けたりはしなかった。・・・うなされてたけど愛花は?」
愛花は申し訳なさそうに笑った。
「今日は、その、舜兄が普段見てる夢を自分も見れたら、何か支えになれたりとかって考えちゃって・・・そしたら・・・。」
「まったくもう!気持ちは嬉しいけど2人で幸せな夢を見ないと意味無いじゃん!」
そう言って愛花の頭を撫でた。
その言葉は本心では無いのだけど。
自身は、自身の罪を真っ向から受け止めたいのだけど。
それでも舜は、愛花の為にそう言い切った。
「さて・・・愛花はお疲れだし今日は部屋でゆっくりする?」
「着くのは・・・明日の予定でしたね。そしたら・・・ふふ、部屋で我儘に付き合ってもらおうかな。」
その日2人は、ただただ雑談を繰り返した。
その時だけは心の重りが無くなったかのように。
ただただ晴れやかな気分で。
そして―いつか話疲れ眠り込み、幸せな夢から目を覚まして。
船は着港する―
激務の中、1日ちょっと書いては置いて、ちょっと書いては置いてを繰り返してました
次回はもうちょっと早めに更新できるようにガンバリマス!




