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愛の歌  作者: Dust
7章
173/229

169話 that day

「さて・・・。」

舜はカオスから受け取った実験の資料を眺めながら、ベットの上で寝転んでいた。

「・・・そういえば、パーツを倒す目的は一致してるのにそこに関する話はしませんでしたね。」

愛花は今日あった事を思い出しながら、ふと気になった事を口に出した。

「向こう的には俺たちが協力していい存在なのかすら分かってなかったのと・・・。」

カオスが"現状"は争う事は無いという事を強調してたのを思い浮かべる。

「・・・まあしばらくはお互い邪魔にならないよう慎重に動くべきだろうね。余計な事をしたら敵対しかねない。」

「・・・・・・・・・。」

愛花は舜の隣に倒れ込む。


「疲れたらいつでも隣の可愛いを供給してくれても構いませんからね!」

「よーしよしよしよし愛花は可愛いなぁ!」

「えっへっへっへっへ!」

ひとしきり愛花を愛でた所で舜は視線を紙に戻す。

「・・・私で良かったら、その胸につかえてる何かを聞きましょうか?」

「・・・・・・面白い内容では無いよ。」

「構いませんよ。あなたとならどんなものだって分かち合いたいので。」

舜は目を閉じる。

「まだこんがらがってるところもあってさ。頭ん中、整理しときたいんだ。そうだね、最初にある記憶は―。」



それは絶望だった。

散々な目にあって、沢山の後悔と悲痛を重ね。

それでも尚人の為になれるのならと思った人の。

裏切られたという、涙だった。

本来ならその人の意思は消える筈だったのだろう。

俺に行われた最初の実験で、その人の魔力が身体の中に注入された。

その前の俺は―空っぽだった。

特に何も無かったんだ。

そこに、その人の、復讐鬼の想いが入り込んだ。


・・・何も?


うん、何も。

記憶もそうだし・・・何も知らない、分からないまま実験施設にいたのに、それに対して特になにか思う訳でもなく。

そして、初めて他人の感情に触れて、こう思ったのを覚えてる。

俺はこの人の為に、この人と共に静かに死んであげるべきなんだ、って。


実験としては成功だった。

俺は魔力者となり、他の魔力者と組まされ、魔力の限度等を実験された。

どの位の衝撃なら魔力で弾けるか、とか。

貴重なサンプルが死なないようにきちんと場所を選んで刺したり、撃たれたり。

今思えば、俺の魔力を1点に集めて身体で防ぐってのも、この実験で出来るようなったんだろうな。

魔力者として強くする為にはどうするか、とか。

いつしか捕まえられ、いたぶられた魔力者との殺し合いも始まった。


俺の相方は同い年の女の子だった。

何としても生きのびて、ここから出たいと切に願う、女の子。

お互いボロボロになりながらも、俺は相手の子の願いが叶うよう庇い、相手も何故か俺を庇って、そうやって生き延びた。


ある日。

実験中に急に周りが騒がしくなったんだ。

その日の実験はよく覚えてる。

無理やり皮膚を剥がして、肉を剥き出しにして。

そこでも魔力は弾くのか、痛覚はどうなのかーって。

その実験の最中に、襲撃があったんだ。

俺たちはチャンスと言わんばかりに2人で逃げた。

敢えて暗く寂しい森の道を、雨の中、手を握って、走って走って走って―。

だけど森をぐるっと電気の通ってるフェンスで囲んであってさ。

ちゃんとした出入口には当然見張りもある。

襲撃とは逆の出口が見えたものの、そこはむしろ敵襲もあったせいで厳重で。


だから、殺したんだ。

誰かに言われてやってきた殺しとは違って。

初めて、自分の意思で、その見張り達を。

彼女は後から追い付くから先に行っててと言ったんだ。

当然、騒ぎに気が付いて応援も来てはいたから、それを足止めしてから追い付くと。

俺は―俺は・・・あの時、それを断った筈なんだ。

・・・ここが、混乱してる。整理が出来てない。


ゆっくりでいいですよ。


うん・・・その後、何故か俺は1人で実験施設から抜け出して、その後見つけた魔力者と共に戻った。

彼女を助けようとして―手遅れだった。

彼女は殺されていたところが、その身体を・・・。

・・・・・・。

そしてそこから逃げるように走った。

走って走って走って、そして―。

目が覚めたら、アウナリトにいた。

その時は実験の阻止に向かったアウナリト軍がそのまま倒れてる俺を救出したと説明されてたけど―。

実際はアウナリトが実験をしていて、ローグがそれを襲撃していた。

だから、誰がどうアウナリトへ拾って帰ったのかは分からないけれど。


生きたいと願う少女が死んで。

死にたいと思う少年が生き延びた。

生きたいと願っていたはずのその少女の手によって。


その後は、最初に手に入れた感情のままに動いた。

許せなかった。

力の無いものに好き勝手する奴らが。

許せなかった。

人の想いを踏みにじる奴らが。

許せなかった。

許せなかった。

許して・・・いいものか・・・!


「舜兄。」

優しく手に触れた愛花の手で、ふと舜は正気に戻る。

「時々・・・こんな感じでどうしようもなく感情が抑えられないんだ。」

「・・・大丈夫ですよ。貴方はそれでも、いつだって復讐より先に誰かの為にが来てたじゃないですか。」

「夢に、見るんだ。復讐をしろと。復讐鬼の想いと、彼女の想いを見て、俺が俺に告げるんだ。」

愛花は舜に身体を寄せた。

「なら・・・今日は悪夢を見ないよう、この可愛い愛花ちゃんが隣で寝てあげますよ。そしたら気分も良く、悪夢なんかきっとどっかに行っちゃいますから!・・・な、なんちってー大胆すぎてちょっとドキドキしました?あはは・・・キャッ!?」

舜の気分を吹き飛ばせないかと元気に振舞った愛花に、舜は抱きついた。


「・・・一緒に、寝てくれる?」

「ひゃっ・・・!ひゃい!」

「・・・ふふ、大胆すぎてドキドキしてる?」

面白可笑しそうに舜が言った事でようやく愛花もホッと一息ついた。

「むー。やり返されたし・・・私のがドキドキさせられた・・・。」

「そんな事ないよ。こっちだってドキドキしてる。」

2人は微笑み合った。


2つあるベッドのうちの片方だけに。

2人は身を寄せあい眠りにつく。

お互い触れ合う腕には暑苦しさもあるものの、そこにある暖かみを幸せと感じ。

そして舜の意識は夢の中へと潜り込んで行った。

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