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愛の歌  作者: Dust
6章
168/194

164話 約束

夜中、突き刺すような冷気が厚着を貫く中。

舜達は山へ向かっていた。

「おおー、ロープウェイってやつですね!」

「魔力で動いてる、ね。・・・魔道具なら数百年前の可能性あるけど・・・綺麗だし現代的だね。最近、別種族の何かが作った・・・―」

その言葉を愛花が膨れながら遮った。

「もう!折角みんなでゆっくり気分転換しよう!って話なんですから、考えない考えない!」

それもそうだねと舜は笑おうとしたが、その表情はまだ固いままである。

「4人乗りみたいだよー!二手に分かれて早く乗ろうよー!」

我先にともう乗り場の目の前まで行ってた漣の声が響く。


「その服、寒くないのか?それに汚れるかもしれないが。」

漣の着ている黒いドレスを見ながら咲希が話す。

「大丈夫大丈夫、私炎出せるし服も私の力で戻せるから!」

「ああ・・・炎になった後に服ごと出てくるから言われて見たらそうか・・・。」

その会話の後ろで愛花が緊張した面持ちで、舜の方を振り返った。

「あの・・・。」

しかし、モジモジとしている内に―

「・・・隊長と、2人で乗りたい。・・・ちょっと相談したい事があるから。」

と怜奈に先に言い出されてしまった。

「俺は構わないよ。・・・愛花?何か言いかけてなかった?」

「い、いえ!それじゃあ先にみんなと行ってますね!」


舜は怜奈と2人で乗り込む。

「・・・。」

「・・・。」

切り出すのが難しいのか、暫くは沈黙が続いていたがようやく決心がついたのか、怜奈が切り出した。

「・・・あのね、私は私しか知りえない事がある。・・・そして、それを口外も出来ない。」

「口外も・・・か。・・・どうしてかも?」

怜奈は首を振る。

「・・・復讐鬼によって奪われてた記憶が戻っても、私とこの件を共有はまだ、出来ない。・・・それは、見て、分かった。」

「うん・・・記憶が戻って1番最初の記憶は、やっぱり実験の事で。それ以前の事は何も―。」

まだ、その記憶については混乱もしていてハッキリとしてはいないのだが。

だが、1つ舜は気がかりな事もあった。


「とりあえずは・・・落ち着いて考えてみるつもり。」

「・・・そう。・・・そう。・・・思い、出せそう?」

舜は答えなかった。

こういう時、適当な事を言える人間ではなく、しかしその沈黙は―

怜奈にとっては否定としか読み取れないものでもあった。

「・・・私ね、貴方と再会するまで、この地獄が何時まで続くんだろうって思ってた。・・・食べるものも味がしなくなっていったし、貴方と出会えて貴方の料理で久しぶりに味がして・・・。ずっと、疲れて、疲れたとしか言えなくて、ああ・・・全部言えたらいいのに・・・。」

「怜奈・・・。・・・俺に出来ることなら幾らでもするよ。今は・・・話を聞くことしか出来なくて、気の利いた事も返せないけれど。でも、力の限りは尽くすから。」

その後は、沈黙だけが時と共に流れ過ぎていった。


「・・・着いたね。足元、気を付けて。」

舜は先に降りて、手を差し伸べて怜奈が降りるのを待つ。

怜奈はフラフラっと立ち上がってその手を取り、ゆっくりと降りた。

「・・・絵になるなぁ。・・・いいなぁ。」

先に着いてた愛花はポツリと呟いた。

「お待たせ・・・なんか咲希、疲れてない?」

「愛花が中ではしゃぎ回ったからな・・・次は愛花と別組にしてくれ・・・。」

雪乃がそっと舜の近くに寄る。

「帰りは愛花ちゃんと2人きりになってください。お話したいことがあるみたいですよ。」

「・・・ん、分かった。」

思えば辛い道のりで弱音を吐ける日なんて少なかった。

怜奈も愛花もためこんだものがあるのだろうと舜は頷いた。

特に愛花には過去に、無理をし過ぎた事で泣かせてしまっている。


「舜兄ー?どうしたんですかー?」

「いや・・・ただいい仲間を持ったなと思っただけだよ。」

自分のために泣いてくれたり、雪乃が愛花を気遣って伝えてくれたり、その事を思って舜はようやく表情が柔らかくなった。

舜達は空を見上げながら愛花達の元まで歩いていく。

「しかしあれだね。夜空は綺麗だけどオーロラなんて何処にも・・・。」

山頂付近、みんなで地面に座って空を見る。

寒空の下、白い息が時々黒と星のコントラストに彩りを加えるだけ。

「でも綺麗ですよ。流れ星とか流れないかな。」

愛花は無意識のうちに寄っていたのか、舜と身体が触れ合うほど近くに座っている。


手と手が触れ合った。

愛花は気が付いたかのように顔を赤くし舜を見たが、舜は空を見上げていた。

「・・・寒いね。」

舜は触れた愛花の手の上に手を置いた。

冷たくなった手を暖めるように。

愛花の心臓がドクドクと跳ねる。

そして、ある覚悟を決めたその時。

「わぁ!!」

漣の声が響いた。

空に緑の光が現れたかと思うと吹き出すかのようにそれが広がっていく。

「・・・綺麗。」

「ね。神秘的。」

2人は手を重ねあったまま、暫く同じ光景を焼き付けていたのだった。


「・・・ねぇ、みんな。」

しばらく経って、舜がみんなに話しかける。

「また、見に来よう。みんなで、必ずここに戻って。・・・今から、大陸を移ったり大変だけど、この光景をまた楽しみにさ。」

「みんなで約束、ですね。」

全員で頷きあったあと、名残惜しげにまた空を見た。

そして口数も少ないまま、全員でロープウェイに戻っていく。

「・・・先に4人で乗ってて。愛花、一緒に乗ろう。」

「・・・!・・・は、はい!」

愛花は早まる鼓動を抑えようとしながら、舜と2人でロープウェイに乗った。

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