160話 想い出
「・・・あれ?」
舜は辺りを見回す。
「・・・何やってたんだっけ。」
呆然と何も無い空間でただ一人。
否、後ろから近付いてくる音がする。
「やあ、927号。ううん、今は舜くんって呼ぶべきかな。」
「・・・229号!・・・ごめん、俺は―。」
229号は人差し指を舜の口元に持っていき、黙らせたあとニコッと笑う。
「しょうがないよ。復讐鬼がその記憶を辛いものだと奪ってたんだから。でも思い出してくれた。ねぇ、覚えてる?最初にあった時。」
「ああ。お互いあの時、ボロボロのこの子を守らなきゃって思ったんだよな。・・・っ。」
守る。
何か、頭が痛む。
「・・・消えた!?いや、上か!?」
ピュラは信じられないものを見るように上空を見上げる。
存在しない物を存在したかのように誤認させ、喪わせる能力。
喪ったものが存在しないが故に、失くした時の想像が出来ず、故に対応が出来ないはず。
それなのに、あの動きをした。
「だが、それがどうした!」
完全に対応したはずではないとピュラは血だらけの布を伸ばして、2箇所から攻撃を仕掛ける。
たった2撃。
舜が剣を振るっただけで向かわせていた2つの布が弾け飛んだ。
ビチャビチャと地面に血だけが落ちる。
攻撃を防いだ舜は、ピュラに斬撃を振るう。
「・・・・・・。」
舜が放った斬撃はピュラには当たらず、地面に亀裂を放つだけだった。
「はん!やっぱりまだ感覚は取り戻してねぇな!お次と行かせて貰うぜぇ!」
「大丈夫?」
「・・・ああ、多分。」
「ちょっと歩こ!」
2人は歩を進めていく。
ビジョンが遥か下の方に現れる。
そこには怯えた表情の男がいる。
「・・・懐かしいな、実験の成否を見る為に俺ら2人であいつと戦わされたんだ。」
「そうだね、それが私たちの最初。向こうも私達もみんな被害者で。それが分かってたけど、向こうと違ってお互い戦いなんて初めてで。」
ビジョンの中で、幼い229号が空へ舞う。
そして斬撃が地面に亀裂を走らせる。
「・・・懐かしいね、あの時私はあなたを守ろうとこの技を使った。」
5の斬撃で五芒星の形になった
「確かこの技の名前は―。」
「斬逆惹同。」
斬撃により作られた五芒星が円に包まれる。
そして、五芒星はグルりと向きを変え―
円の中を、地から溢れ出る魔力が染めた。
「・・・ガッ!?・・・はっ・・・!・・・おい!おい聞こえるか!・・・ちっ、12人私を庇って逝ったか・・・!」
ピュラは何とか魔力から抜け出し、悪態をつく。
「・・・っ!」
次の瞬間には舜の剣がその首を斬り落とさんと迫り、見えない何かがその剣を止める。
「・・・・・・。」
「はっ!驚いたか?お前に恨みがあり、私にお前を倒せと協力するものがごまんといる!その人数分私を殺さないとテメェに勝機はねぇんだよ!絶望しろ!そして懺悔しろ!苦痛に満ちたまま死んでいけ!」
舜は何も言わないまま剣を振るう。
「でもこの技じゃ殺し切れなかった。」
「だから、2人ともトドメを刺そうとした。」
2人の攻撃が同時に息の根を止めさせた。
「ええ、私たちの最初の罪。本当はあなたともっと罪を分け合っていたかった。」
「・・・要らないよ。俺の罪は、俺だけのものだ。」
「でも私があなたに更なる罪を重ねさせた。私のような存在を出さないためにあなたは幾人もの人を殺してきた。」
229号は舜の目を見た。
「責任を感じる必要はないよ。その命に、その罪に。」
「違う。・・・俺たちが過去に受けた事を仕方がないと出来ないように、俺のしたこともちゃんと背負わないと駄目なんだ。」
彼女は寂しそうに笑った。
「そう言うと思ったんだ。・・・でも、私はあなたの罪を許したい。私だけは理解者でいてあげたい。そして―私の罪もまた、許して欲しい。」
「テメェの罪が!許されると思うな!!」
舜に血が、剣が、魔弾が、それぞれ襲いかかる。
が、間に入った存在に全て弾かれた。
「テメェ・・・ヒーローさんよぉ、何のつもりだ。」
「・・・・・・僕は、僕の正義を貫きたい。君に正気を取り戻させてみせる!」
アラタがピュラを足止めしてる間、舜はピュラを殺す事しか考えてないようにその目を向ける。
頭が痛い。
ここにいちゃダメな気がする。
「ここでないと今は私は話せないの。もう少し、駄目?」
「・・・駄目なんだ。戻らなきゃ・・・。」
「・・・・・・そっか。・・・じゃあ。」
229号は舜にとって大切な言葉を、お祈りを言った。
「全て、壊しちゃえ。」
「ああ―。」
そして舜は、目を覚ます。




