157話
「ごめん!おまたせ!」
「・・・悪いね、忙しいところに。」
ムスルスは凄い勢いでブルンブルンと首を横に振る。
「私達も調査に行き詰まってた所だから。」
「・・・4件、か。まずは俺の知らない3件が誰の墓なのか・・・教えて。」
少し、気まずい間が空いた。
「・・・ライガとリーグと―。」
この時点で舜は表情を曇らせた。
ムスルスは残り1人を言うのを躊躇ったが、重いその口を開く。
「オーフェ・・・。」
「・・・!」
ふつふつと。
我を忘れそうな怒りが。
舜を支配しようとし―
「はーい、落ち着いて。」
ムイムイが舜の肩を揉みながら真剣にそう言った。
「・・・・・・。」
「・・・落ち着いた?」
「ああ・・・。とりあえず犯人を探し出して動機を聞いてから、だね。」
まだ怒りの炎は消えはしていないが、ムイムイの言の葉でそれに飲まれることはなくなった。
「共通点は能力者である事と・・・それも一定の強さを持っているな。・・・義兄上の墓は?」
「そっちはサナスさんが一応護ってはいるけど、今のところは特に。」
舜は他の共通点を探してみる。
「・・・全員、俺が殺したな。」
「それは・・・関係ないだろ、多分。」
イームが口を挟む。
「それと―遺体は綺麗なメンバーだ。クロムは矢で喉を、ライガとリーグは心臓を刺してオーフェは服毒。どれも、五体満足だ。逆に今回狙われなかったレイガは灰しか残ってないし、義兄上も片腕を斬られた上に最後は崩れた部屋の下敷きに・・・。」
「・・・うん、ちょっと休む?」
舜の顔色を伺って、ムスルスは提案する。
「いや、いいよ。・・・ポロスも下敷きで多分終わったんだよな。・・・あと確か名前は・・・ジャメールは?」
「ぐちゃぐちゃにされた。それは私が見てる。」
「死体の綺麗さ・・・か。確かに死体しか取ってないところをみると、目的は死体だろうから犯人からしたら大事か。」
ムイムイが今までの話を聞いて頷く。
「後は・・・犯人はかなりアウナリトに詳しいってところだな。死体が綺麗と分かっているライガ・リーグ・オーフェの墓の場所を知っていた事と、クロムが埋められてた所も知っていた。・・・そういえば3人も土葬だったの?」
「ドタバタしてたから、土葬で片付けたらしいよ。死人最近多かった上に街も復興作業中で火葬場もこの前の天使騒動で被害に遭ってたし。」
「・・・・・・うーん。」
舜はどうも納得がいかないかのように唸った。
あまりにもそういう事情に明るすぎる。
それもアウナリトの3人だけじゃなく、クロムの件まで踏まえて詳しいのだ。
その上、なぜ魔力者の綺麗な遺体が欲しいのかが分からない。
(例えば、魔力者に強い恨みを持っていて遺体に何かしてやろうと思った、とか。・・・いや、クロムの墓の破壊のされ方を見る限りは無能力者じゃ難しいか?・・・そもそもこの4人に絞る理由がないな、まさか4人に恨みを持ってたこともないだろう。遺体は綺麗じゃなくてもいいはずだ。・・・メヒャーニの連中なら遺体を欲しがるだろうし奴らに手段を選ぶ倫理観があるかは怪しいが―ここまでアウナリトに詳しくなれるならその間も手と頭を動かす連中だしな。・・・野良でメヒャーニの研究者みたいなのがアウナリトに居たってのは・・・考えたくないな。―世の中には変態がいるとは聞いてるが死体フェチってのは・・・男女混合の時点で、ないと、願いたいな。)
様々な動機の可能性を思い耽っているその時、デバイスが鳴った。
怜奈の短刀が空を舞い、リリスに向かって飛び交うが・・・
データである彼女の身体をすり抜けていく。
(ふむ・・・リリスのこの姿は物理攻撃が効かぬのか。・・・?)
ロジクは2人の戦いを眺めながら、ふと疑問に思う。
(何故―俺はこんな不安要素を持ったまま戦いに臨んだ・・・?あの時は納得していたが・・・そもそも、リリスの機能は全て確認済みだ。)
リリスの姿は傍目から見れば普通の女、そのものである。
「・・・これは何だ?誰だ・・・?」
そもそも、誰の姿を模してその姿になったのか。
そして、何故今になって気が付いたのか。
(何者かに、何かされたな―。)
遠くの屋根の上からその戦いの様子を眺めている女がいた。
「ふふっ、その何かは愛の力なだけよ。・・・他のものは知らないけれど―。」
風が彼女―アピアルの横を通り過ぎて行く。
「・・・どういう結末になろうが、どうかその愛の消えぬよう。さて、私は結末を見届けず―行きますか。」
後ろ髪を引かれながらも彼女はその場を離れることを決めた。
この後、訪れる何かを察したかのように。
「・・・アピ姉?・・・アピ姉、どこー?」
1人の少女が、手を伸ばして辺りのものを触りながら確認し、アピアルを呼ぶ。
「はーい!アピアルお姉さんですよー!」
「あ、いた。もう、私まだ目がちゃんと見えてないんだから何も言わずに置いてかないでよ。」
アピアルはにこやかにその少女の頭を撫でる。
「それじゃあちょっと旅行をしましょう。」
「それじゃあって・・・急だなぁもう。」
その手を引いて歩き始める。
「大丈夫よ、私と愛と一緒なら。」
そしてアピアルはその少女の名を呼んだ。
「行きましょ、ロルバ。」




