156話
「さて・・・どうするかな・・・。」
嵐のように色んな問題が降って湧いた。
(とりあえず・・・あからさまな敵意があったのは最初のゲームの襲撃とピュラか・・・。)
他はまだ、敵対はしていない。
(問題はひとまずピュラかな。あそこまでの憎悪があるなら必ず何か仕掛けてくる。なら・・・その前に探し出して殺すか。)
ふとリライエンスで出会った人達の顔が思い浮かぶ。
「・・・殺さない道があったら―いや、無理か。」
そう、彼の手札には殺す以外のカードは無い。
それもあそこまで憎悪でねじ曲がった相手に殺さない手段を取るなど到底無理な話。
(・・・恐らく・・・あの袋小路の場所に・・・。)
そんな思考を吹き飛ばすかのようにデバイスが鳴った。
「・・・。」
表記はムルシーとなっている。
「もしもし?」
「あ!良かった出たっす!緊急事態っす!出来るだけ早急に来て下さると!」
「・・・・・・。」
また抱える問題が増えた気がして舜は考え込む。
「・・・あれ?えと、今あんまりタイミング良くなかったっすか?」
「・・・電話である程度内容話せる?」
「ええ!今日お墓参りに行ってたんですよ!そしたらクロム様を埋めてた場所が・・・その・・・何者かに地面ごと抉り取られてるようで・・・!」
舜は考える。
自分が行って何か出来るのだろうかと。
ピュラの件とどっちを優先すべきだろうかと。
「分かった、すぐ行く。今どこら辺?うん、分かった。それじゃあまた後で!」
「・・・酷いな。」
ムルシーと合流した舜は辺りに散乱している倒木や砕けた岩の形跡を見ながら、地面にぽっかり空いた穴を調べてみる。
「・・・遺体はどんな形で置いてあったの?」
「棺の中に鎧のままっす。」
「土葬か。」
改めて周りを見て、棺の残骸と思われる木片達を眺める。
「供え物とかは?」
「今日お花を供えようとしてて・・・だから何も。」
(供え物目的で荒らした・・・にしては遺体をどこにやったのかという問題がある。恨みを買っていた相手とかか・・・?)
舜はもう一度辺りをじっくり調べてからデバイスを取り出した。
「どう思う?」
荒れた大地を眺め、イームが呟く。
「んー・・・多分わかんないから帰ろ。」
ムイムイは面倒くさそうに答えた。
「もうちょっと調べてから・・・あ、ごめん通知オフにしてなかった。」
ムスルスはなり始めたデバイスを取り出して―
顔色を変えた。
「ごめん!ちょっと出るね!!!」
「まーたメスの顔する・・・。」
ムイムイは呆れたように言った。
「おい、仕事中だ。誰からかかっできたかもバレバレだし出るな。」
「でもね、イーム。かかってきたってことはこれはこれで一大事だと思うんだ。だから、出るね!!!!!」
圧に負けて2人は黙って顔を見合せたあと、諦めたかのように肩を竦めた。
「はい!出るの遅れましたムスルスです!!!」
電話に出てるムスルスを他所に、ムイムイとイームはまた現場を調べ始める。
「うん、うん。うん・・・?え!!?2人とも!緊急事態!」
「・・・なに?」
「クロムの墓"も"荒らされてたって!」
「「!!」」
ムスルスは電話口の舜との話に戻る。
「そう、こっちもそれが今問題で。時系列は分からないけど、クロムので4件目。しかもその3件のうち1件は・・・貴方にとっては聞きたくない話かも。うん、うん、わかった、合流しよう。部屋でいいの?うん、じゃあまた。」
電話が終わるやいなや、ムスルスは移動を始めようとする。
「おい、まだここの調査が―」
「後回し!ムイムイの言う通りどうせ調査しても分からないだろうし!早く行こう!向こうはナチャですぐ辿り着くから!」
「失礼、ここに舜という男がいるはずだ。少し話させて貰えないか?」
「あいにく今は席を外してるが・・・どちら様だ?」
男に話しかけられた咲希は、鍛錬の手を止めてその男を見る。
「僕の名前はロジクだ。あのアウナリト最強と名高いネビロスを倒した男と聞いて、興味を持った。どこへ行ったか聞いてないだろうか。」
「・・・・・・怜奈!」
「・・・うん、警戒はするべき。」
ロジクは2人を見て、少し考える。
「咲希と怜奈だな。舜の仲間か・・・ふむ、この2人はこの2人で興味深い。どうか、前のアウナリトでの戦争について聞かせて貰えないだろうか。」
咲希は怜奈の方をチラリと見た。
「・・・面倒。」
心底嫌そうに怜奈は答えて。
「そうか・・・なら。少し手荒な真似だが直接実力に聞かせてもらおうか。リリス!」
「っ!」
咲希は慌てて構える。
「安心しろ、殺すつもりは毛頭ない。ただ、舜の仲間の実力と仲間のいる事でのデータを取らせてもらうだけの模擬戦だ。・・・リリス?」
リリスは人型となって現れる。
「ロジク様、お任せ下さい。」
「・・・・・・そんな機能があったとは知らなかったな。」
(・・・だがまあ、こういうイレギュラーを越えてこその経験か。)
その時、リリスは―
少し、笑った気がした。




