15話
思い出が足に絡まるなら
何もかも壊してしまえ
時にそれを懐かしみ
戻りたくなったとしても
壊してしまえば戻れない
だから前を向いて歩いて行ける
儚く消えるからこそ―思い出は美しいままなのだ
舜
戦場に辿り着いた2隊は正面に敵影を捉えていた。
人数は30人ぐらいだろうか。
その内1人がかなり前に出ていた。
「・・・愛花!」
「うぃ!」
舜の声と共に戦は始まった。
愛花の魔弾が数百と空を覆い吹き荒れる。
「・・・あれ?」
愛花が困惑の声をあげる。
更に数百の魔弾で敵を襲いかかる・・・が、土煙が消えると誰一人として倒れていない。
「トゥール!来るよ!」
リビの声。
そして向こうから大勢の・・・
「・・・消えた?」
姿が消えた。見えるのは1つの盾だけ。
そして、魔弾だけがこちらに向かい飛んでくる。
トゥールは触手を伸ばすとあっさりそれを止めてみせた。
「・・・隊長。・・・何か、ある。」
怜奈が・・・きっと攻め込もうとして戻ってきたのだろう。
「何かってどんな感じの?」
「・・・見えなくする、壁?」
舜はかけてる眼鏡を投げ捨てる。
「・・・っ!?」
歪みは大きい。
そして近くに唐突に発生する。
その狙いは・・・
「リーン!」
1番前に出ていたリーンに、歪みに沿うように突如現れた刃が襲いかかる。
舜はリーンを庇うように腕を出す。
血が飛び散ったが傷は浅い。
「ちょちょちょっ!無茶しすぎでしょ君!」
リーンはパッと振り返ると共に舜を腕に抱え、後ろに走る。
「でもありがと!止血にハンカチいる?」
「いや、大丈夫!それより・・・」
(・・・なんだ?この歪み方。複数に動こうとしてるような・・・複数の歪み方をしてるような・・・あーもう気持ち悪い!頭痛い!)
「・・・ほんとに大丈夫?」
右手を頭に添えた舜をリーンは心配する。
「・・・あんま長引くと駄目かも。」
「そ。それじゃ・・・色々仕掛けてみましょーか!!」
語尾が強くなると共にハルバードを2つぶん投げる。
だが、それが前にみせたようにぶつかり合うことなく、なにかに当たり、跳ね返って落ちた。
「じゃあこう言うのは!」
リーンは片手を前に出し、魔力を出してそれを握り潰し―
「・・・っ!」
敵の足元から魔力が吹き上がる。片手の動きはただのフェイク。
盾を持ってる男が1人、一瞬見えた。
「愛花!とりあえず闇雲に放ってくれ!」
舜は号令をかけながらその敵に攻撃を仕掛ける。
盾の範囲は・・・見た目以上に横に大きく、愛花の魔弾も舜の剣も弾かれる。
そして、まるで目の前の人間が幻覚かのように―剣が後ろから盾を持った男をすり抜けながら突き出される。
「はいはい舜ちゃんごかいしゅー」
リビが後ろにグンと引っ張り、その剣は舜に届く事は無かった。
「どーも、助かったよ。」
「お互い様だよ。あと舜ちゃ―」
「邪魔だ、どけ!」
能力を使ったライガが猛然と敵に襲いかかる。
その攻撃は防がれライガの剣が折れたが―お構い無しと言わんばかりに次々と蹴りや剣を生成してはぶん回す。
敵の攻撃も動物のような反射神経で交わしながら―しかし、それでもその守りは崩せない。
(ある程度の距離までなら剣だけを突き出せる能力―かな。そして―)
「お、舜ちゃん言わなくても気が付いたっぽいね。」
「さっき言おうとしてたやつ?・・・これ2人だね、相手の覚醒してるの。」
それなら歪みが変な理由にも納得がいく。問題はその2つが重なってる事、そして―
「その剣の出し方なら相方にも当たるはず―でしょ。でも実際当たってないし向こうも当たるとは微塵に思ってないね。」
「そう―それだけ知れれば十分かな。」
推測は出来た。後はそれを― ぶっ壊すだけ。
「ライガ!」
「あ゛?なんだよ、今忙しいの分かんねぇのか!」
「じゃあ後ろで暇してて。」
舌打ちと共にライガが下がる。
「何か解決法分かったんだろうな?くだらねぇ事で下がらせたんなら後で・・・おい。」
ライガの言葉を最後まで聞かず、舜は飛び出した。
盾に触れ、相手に仕掛けられるより先に。
「全てを壊せ―――」
ぽつりと目を瞑り舜は呟く。この言葉に深い意味はなく―おまじないのような―何故か舜に取って懐かしくなる言葉。
そして目を開き、叫んだ。
「全てを壊すもの!」
(壊すのは―盾の後ろから物がすり抜ける能力!)
そして、舜の頬に血がかかる。
突き出された剣に盾の男が刺され、その血がかかったのだ。
これが舜の能力―対象を指定して破壊する。そして対象の大きさに応じて魔力消費も変わってくる能力である。
「そんじゃ、君も死のっか。」
リビがいつの間にか―思考を読んだからこそ回り込んでおり、ささっと剣の男の首を斬る。
「ふぅー。」
舜は深く息を吐き、膝をついた。
「はいこれ。君が仕掛けた直後にリビに探しとけって言われてさ。」
リーンが投げ捨てていた眼鏡を持ってくる。
「どーも。後は雑魚殲滅戦・・・か。」
舜は眼鏡をかける。ヒビは入ってないようだった。
後ろからだと物がすり抜ける盾と、自身の横にいるものを相手から見えなくさせる剣士。
その剣士がリビに殺されると同時に、盾持ちが出していた見えている盾とは別の隠されていた攻撃用にところどころ穴の空いた壁が霧散していくのが見えた。
能力持ち2人を失った敵軍は何人かは既に戦闘離脱させてはいるが、何とか愛花の魔弾から攻撃を防いでおり、流石の愛花も数の多さに攻めあぐねていた。
定期的に怜奈が至る所から斬り込み、何人か殺しては引き下がっているのも見える。
「あとはみんなでぱぱっと終わらせ―ん?」
突如舜とリビのデバイスから音が流れる。
「やあ、僕の美しい声が聞こえているかい?」
「・・・キッソス、だっけ。」
「おやおやこんな美しい名前1度聞いたら―待て何をするんだそんな美しくな―」
「聞こえるか!」
恐らくキッソスからデバイスを奪い取ったのであろう、リーグの声が聞こえる。
「簡潔に言う!大ピンチだ!まさかあんな鎧の化け物が―」
金属がぶつかるような音とガシャンという大きな音。
そして、その後はプープーと音が鳴るだけだった。
舜とリビは目を合わせる。
「鎧の化け物―知ってるんだね舜ちゃん。援軍どうするかは舜ちゃんに任せるよ。」
リビは既に舜が援軍に向かう事を分かってるように話を進める。
「ほとんど知らないけれど―」
(確か相手は5mあるとか言ってたし―それが本当なら的はデカいし︎近付かれる前に魔力を放てたはず―それで3隊で止めれてない辺りその系統は効かないと見ていい。それにここにいる残りの事を考えると、愛花は絶対に残した方がいいかな。)
舜はさっきの切れる前の音を思い出す。
(金属の音―思ったより素早く近付いてきたとみていいかもしれない。なら後ろから仲間を守りたいトゥールも残した方がいい、こっちの方が能力必要になる場面も多いだろう。)
更に出来るだけ急いで頭を回す。
(セロは・・・いた。まだ能力で強化中かな?一旦移動挟むとリセットされるかもだし―ここでいい。怜奈は―鎧相手にあの戦法で戦えるかどうか。それにここの切込隊長もやってる訳だし。)
更にこちらの戦場を見ながら判断する。
(司令塔は必要だ。リビに残ってもらって―)
「いや、あーしも行くよ。司令塔はライガなら任せられるし。」
「OK、じゃあライガは残ってもらうとして。」
(純粋に色んな戦法が出来るリーンと能力が効きそうなイパノヴァは連れていきたい。・・・出陣前に固くなってて様子が気になったオーフェは―)
舜は悩む。仲のいいイパノヴァや自身が様子を見れるこちら側の方がいいのか。それとも危ないだろうから残す方がいいのか。
(残・・・)
「舜ちゃん。」
リビに声をかけられる。リビはオーフェの両肩に手を置いていた。
「・・・お前の声は聞かせてもらった。僕も連れていけ。丁度残る組と援軍組で半々だし―もしかしたら僕の能力が必要になるかもしれない。」
リビがオーフェに触れているのはきっと触れてる相手にも心の声の共有が出来るのだろうと舜は即座に認識する。
「・・・いいの?」
舜の確認の為の言葉は少なかった。オーフェの意志を尊重したいが為に敢えて色んなことを含ませるために、そしてその少ない言葉だけでもリビを介してオーフェに意図は伝わる。
「使いたくないかどうかを聞かれたら使いたくない。出来るだけ人に知られたくない。だが―誰かの危機にそんな事を言ってられない。」
オーフェの言葉に舜は頷く。
「イパノヴァ!リーン!オーフェ!リビ!俺と共に援軍へ向かう!残りのメンバーはライガを中心にここの足止めだ!無理はしなくていい!殺し切る必要もない!足止めさえしてしまえばこちらの勝ちだ!」
「俺にここの全権を任せるんだろ。全員殺し切ってやるから安心して行けよ。」
ライガの言葉を背に―援軍組は急いで駆け出した。
愛「愛花ちゃんだよ!」
怜「・・・怜奈。」
愛「久々!後書きコーナー!そして前書きに謎のフレーズ!」
怜「・・・ポエムコーナー作りたかったんだって。」
愛「なにかに影響されたんでしょうねまったく。」
怜「・・・本当は色んな設定話したかったけれどあまりここ長くてもあれ。」
愛「それじゃあまた次回かな?・・・あれ?今回のこのコーナーの存在価値は!?」
怜「・・・次回も、読んで欲しいな。」




