155話
「場所を移そう。君に聞きたいことがある。」
アラタは舜に背を向け、少なくとも自身は警戒してないということを示す。
「ここが何かあるのか?」
「ああ―彼女が帰ってくるとまずいかもしれない。」
舜にはその彼女が誰の事かは皆目見当もつかない。
「聞きたい事って?」
「・・・君が、リライエンスを滅ぼしたという話だ。」
「―!」
舜は少し悩んだ後、アラタの後をついて行った。
「僕にはその人間がどんな人間かはある程度見ただけで分かる。だからロルバちゃんが純粋たる善意で動いていて、君が何か憎しみなどで動いてると思い行動していた。」
「それは―否定は、しない。」
舜の原動力に復讐があり続けているのは事実である。
「だけど、目が覚めた僕の目の前にあったのは平穏無事に過ごせている民衆と・・・その民衆に酷い目にあわされていたロルバちゃんだった。ロルバちゃんの名前を出しただけで彼らは怒りに震えた。・・・彼女が何か過ちを犯したと、もし僕が気絶してなかったらその前に止めてあげられたのかと自責した。」
(・・・酷い目に、か。知らなかったな。多分・・・トワもダゴンも知らないだろう。ほんとに1部だろうけど・・・。)
「だからこそ聞きたい。僕が出会ったその人は君がリライエンスを壊滅させたと言っていた。だが、目が覚めた僕の前にあったのはむしろロルバちゃんに怒っていた人間たちだった。・・・君は、本当に―。」
「させたに決まってんだろォ?」
2人の背後からその答えは飛んでくる。
「そういえばヒーローさんにもまだ見せてなかったか。こいつらが犯人って映像を。」
「・・・ピュラ。そうか、あの時にはもう国外に出て・・・。」
「そうさ!お前が殺しそびれた1人だ!」
ピュラの掌からビジョンが浮かぶ。
「帰った私を出迎えたのは静寂だけだった・・・。何か残ってないかと必死に探し回ったさ。そして―あったのは図書館の1部のカメラと、大隊長の付けていた小型のカメラだけ。」
舜と愛花が本を持ち出す映像。
舜がグランと戦い、死を見届ける映像。
どちらも音がなく、グランの方は写ってる範囲も狭い。
「・・・グランに殺してくれと頼まれたのは確かに俺だよ。」
「見苦しい言い訳だな。殺してくれと頼んだ大隊長が地衝烈穿まで打つもんか。」
確かにその映像だけを見れば、完全に舜達が何かの本を目当てに凶行したようにしか見えないであろう。
「お前は強かった。だから私は・・・私は・・・お前を殺す為だけに力をつけた。」
握った拳からは血が流れている。
(誤解を解くのは無理かな・・・。殺すか。)
舜は自分の命が狙われているのに、相手の事情を鑑みて加減をするほど甘くはない。
「そして聞こえるようになったよ。お前を憎むものたちの声が。お前を殺せという声が!アウナリトでは上手くやって英雄様と呼ばれたらしいなァ!?だがテメェは!大量に人を殺し!大量に憎まれてる極悪人に過ぎねェ!だからもっと堕ちてやる!お前を超える為に・・・!」
「その憎しみの声からは・・・リライエンスの人の声は聞こえたの?」
キッとピュラは憎悪の視線を向けた。
「今黙らせてやるよ。この怨嗟の声に呑ませて、テメェの声なんざ。纏魔―」
「はーい、こんにちはー♡」
2人の間に露出の高い女が割って入る。
「あ゛あ゛!?邪魔だ痴女!退け!」
「はいはーい♡それじゃあ、後悔しない選択をね。アラタくん。」
「・・・何?」
反応したアラタを無視してその女はスカートをぴらっと、中が見えないギリギリまで拡げ後ろを向き、飛んで行く。
「!?」
舜は後ろ向きのまま、彼女の後ろに引っ張られていく。
「あ!待ちやがれ!・・・チッ。まあいい、時間がかかればかかる程、あいつを泣き叫ばせるプランが出来るか。」
「・・・ピュラ。」
「よう、ヒーロー。見ただろ?あいつの蛮行を。あいつは生きてるだけで犠牲者を出す。それは私の頭に聞こえてくる声が増え続けてる事から分かる。」
アラタはただ、何も言えず立ち尽くしていた。
女が止まると共に、慣性そのままに飛ばされた舜は後ろ向きのまま足を地面に滑らせて身構えする。
「・・・一応聞くけど、誰?」
「愛の伝道師、アピアルちゃんでーす♡」
何となく悟ってはいたが。
(やっぱりこいつムルシーが言ってた変態か!・・・それだけじゃない、わざわざムイムイが名前を挙げたのはこの実力があるから―!)
「アハッ!その全てを見抜いてやろうってギンッギンの目!ゾクゾクするわ!私の全て、一夜を共にしたら魅せてあげちゃうよ?代わりにぃ、その目と同じように、ギンッギンに硬くしてね♡」
数多の敵と相対してきた舜が本気で冷や汗をかいた。
こいつは紛れもなく、変態であると。
「ふふっ、まあ可愛がるのはここら辺にしといて。私はね、あなたのような人は好きよ。愛の為に動き、愛の為に自分すら捧げてしまいそう。あなたはね、自分では気が付いてないけれど、その原動力は愛でしょ?」
「・・・・・・・・・。」
急に何を言ってるんだろうと怪訝な目をしながらも舜は警戒を解かない。
「でもその愛故に、別の愛と激突してしまう。あなたは救ってきた代わりに激突してしまった数も増やして行った。ああ―悲劇だわ!んんっ!はぁ・・・!それもその激突した人間の事を愛ゆえに背負おうとしてるなんて・・・ん・・・!」
顔を紅潮さて、彼女は続ける。
「・・・・・・・・・。」
絶句。
言葉の途中に嬌声をあげられては無理もない。
「分かるわ、あなたはこらえなくていい涙をこらえてきている。そうね、確かに男性は泣いていい場面って1つだけと思ってる節があるわ。」
「・・・・・・・・・。」
何とか隙をついて逃げ出せないかなぁと考えている。
だが、彼女は無駄に嬌声とかあげる割には舜から目線を話さない。
「好きな相手とやるときに上手く勃たなかった時だけ!でしょう!」
「・・・・・・・・・。」
話を振らないでほしい。
そんな目で舜は見ている。
「その意見も尊重するわ。でもね、愛を求める時位は泣いていいと思うの。命は、愛を求めるために生を謳歌するのだから。」
「・・・・・・・・・。」
勝手に尊重されたけどそもそも俺の意見じゃねぇし巻き込むなよという目で見ている。
「ふふっ、あなたにもこの愛の歌が聞こえますように。それじゃあ、バイバイ♡抱きたい時は何時でも連絡してね、飛んでっちゃう。」
いつの間に盗られていた舜のデバイスを彼女は投げ返して、翔び去った。
舜はとりあえず勝手に交換されてた彼女の連絡先をブロックした。




