153話
(Y9とこの前の襲撃の関連性は結局分からずじまい・・・か。)
舜はY9と別れた後、1度荷物を置きに戻ってから今度はメヒャーニを散策していた。
散策と言っても動く歩道に身を任せ、辺りを見回しているだけだが。
(敵意は一切無かった、それどころか好意的ではあった。ただそれ以外の事は一切見抜かしてくれなかった。)
彼女が意図的にそれだけを伝え、他を隠し通したのは明白であった。
(だけど隠したということは何かあるということ。あの交流でY9は何か得た・・・のか?・・・そもそもが警戒しすぎなのかも?いやして損は無いだろうが。)
考えてみれば最初に出会った時も戦いを止めた側ではある。
向こうはこちらと争うつもりは全くない、その可能性はある。
が、強者であるが故に警戒は怠れない。
(・・・無能力者から見た魔力者もこんなもんなんだろうな。その魔力者がどんなに善良でも・・・。)
そしてその警戒が行き過ぎてしまうと無能力者による魔力者襲撃が起こったりするのであろう、と舜はリーグの事を思い返しながらふと思った。
(だから・・・ちゃんと客観的に判断を下さないと。・・・と言っても今のところこちらから打てる手はなしか。)
思い込みが悲惨な出来事に繋がりうることを知っている。
そこまではいかなくても心を傷付けうることも知っている。
相手はただ力を持っているだけの存在なのかもしれない。
だから舜はしっかりと自分に言い聞かせた。
力を持っているだけで相手に必要以上の責任を負わせないように。
その責任の重さを知っているからこそ、ちゃんと責任を持ってる相手が受け手になった時に他責が自責を超えないように。
(その責任が孤立であっていいはずがないからこそ。疎外感を俺は与えたくない。)
ふと。
遠くのレーンにいる少女の後ろ姿が目に止まった。
(・・・!)
見覚えのある姿だった。
夢の中に現れる"大切な子"。
その子が脳裏に浮かぶ、後ろ姿。
「・・・待って!」
その少女が走って去ろうとするのを、気が付けば舜の身体は追いかけていた。
少女はその声に振り返りもせずに走っていく。
身体能力が上がっている魔力者にただの少女が勝てるはずが無い。
それも特に身体能力が高い舜では尚更である。
(・・・追い付けない!)
が、その距離は近付くことも離れることも無い。
走り、コンベア同士の間にある壁を飛び越え、ただただ標的に向かって最短の距離を取ってはいるのだが。
機械の道が警告音を鳴らす。
「逆走を感知、別の道をお選びください。」
「速度超過を感知、危険ですのでおやめください。」
「危険な進路変更を感知、拘束を致します。」
「うるせぇ!全てを壊すもの!」
機械の電子回路を破壊し、更に舜は追っていく。
「・・・追い付いた。ここは・・・?」
袋小路に彼女が止まったのを見て舜は辺りを見渡す。
「・・・あ、いや怖がらせたのなら済まない。ただちょっと知り合いに似ていて、えっと。」
追い付いたあと何をしようとか考えて無かった舜は言葉に詰まる。
(・・・なんで俺、追いかけたんだ?衝動的に身体が動いたというか・・・。)
「ねぇ、聞きたいことがあるの。」
それはとても大切な問い。
「あなたにとって愛ってなーに?」
「・・・愛?色んな形があって・・・誰にどういう風に向けるものかにもよると思うけど。」
「私を必死に追いかけたんだもの。その私に似ている人への愛でいいよ。」
「・・・そうだな。・・・大切な人だよ。うん、間違いなく。」
そう君は確信している。
「追いかけるぐらい、会いたい?」
「会えるなら・・・会ってみたいな。」
「それじゃあおまじない、教えてあげる。目を瞑って?」
言われるがまま舜は目を瞑る。
「そして心の底から会いたいって願って。それだけでいいんだよ。」
舜は願う。その願いは確かに大きな力に―
力に―
「時間切れ、か。それともほとんどあっちに力が行ってるか。まあいいや、バイバイ。」
「え?」
舜は慌てて目を開けたが、そこには誰も居なかった。
「リリス。おい、リリス?どうした、処理速度が遅いぞ。」
「ロジク様・・・。」
「・・・なんだ?」
ロジクはディスプレイに目を滑らす。
命令した覚えのない演算が行われている。
「・・・8年後の姿の想定だと?誰のだ?・・・!?」
ディスプレイがその姿を人の姿へと変えていく。
18位の少女の姿だろうか。
「「なるほど、これが私のすGAaaa・・・―」」
リリスと別の声とで二重に話そうとした矢先に、ロジクによりリリスの再起動が行なわれた。
「どうしたの?なんかあった?」
「?なんかとはなんだ。」
ロジクに困惑されたアーメグは自身も困惑させられる。
「え?だってなんか喋ってなかった?」
「・・・リリス、僕は独り言を言っていたか?」
「確認致します・・・いえ、ロジク様。暫くは無言だったかと。」
ロジクはアーメグに懐疑の視線を送る。
「あれー?確かになにか言ってたような・・・いや気のせいかも・・・?」
「目を開けたまま寝言を言うくらいなら確実に休め。」
ふぅと溜息をついてから本当に何事も無かったかのようにロジクはリリスで演算を続けていた。




